宇宙エレベーターの実現へ 自走式昇降機の技術をライブ業界に活かす

宇宙エレベーターという壮大な夢を目指し、ロープを用いた自走式昇降機の開発を進めてきた東北大学の学生チーム、LIFT。今回はライブ業界の課題に焦点を当て、自走式昇降機の技術の導入を目指してきました。

MiTOHOKU Program期間中、現場でのヒアリングや試作、既存製品との比較を通して自分たちのプロダクトを磨いてきたLIFT。チームを率いる児玉幸斗さんに、MiTOHOKUでの学びと今後の展望について伺いました。

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現場で見えた、イベント業界の構造的課題

地球と宇宙を長いケーブルでつなぐ、宇宙エレベーター構想。その実現に不可欠なのが、人や物資を載せて地球と宇宙を往復する「自走式昇降機」です。LIFTはこの「自走式昇降機」の開発に注力し、様々な分野への応用を目指してきました。

これまでには建設現場や狩猟、洋上風力発電などでの実証にチャレンジしてきましたが、実証の難しさや市場の小ささ、すでに代替技術があったことなどの壁に直面し、試行錯誤が続いていました。そして、今回のMiTOHOKU Programでは「ライブ会場での設営」に挑戦することにしました。児玉さん自身もライブや展示会のアルバイト、ボランティアを経験したり、高校時代の放送部で重い機材の設営の大変さを味わったこともあったことが、この業界に挑戦するきっかけとなりました。

現場の見学で、LIFTと機能が近い既存製品「リバーシブルホイスト」が、すでに使われている光景を目にしたのです。実際に、ライブ・エンターテインメント業界の業界動向を調べてみると、コロナ禍でライブが開催できなかったものの、その後一気に需要が回復したことによる深刻な働き手不足や作業員の負担増加が顕著であることがわかりました。実際に人手不足によってライブが中止になることもあることがわかりました。また、年齢的・体力的な理由が離職につながっているという傾向や近年は女性も働いているということもデータから明らかになってきました。

児玉さんはMiTOHOKU Programのメンター、淡路さんからイベント会社の代表を紹介され、実際に会社に訪問して女性スタッフの方へのヒアリングを行いました。女性が10キロ持ちあげることも普通」、「高いところに照明を取り付ける作業は人力に頼るしかなく、手間もかかり大変」という声をきき、実際に照明を高いところに荷揚げする作業も見学させていただきながら課題の解像度を高めていきました。そして実際に昇降機で照明機材を運べるかどうかのテストも行いながら技術を磨いていきました。

プロジェクトを進める中で直面した課題

2025年度のMiTOHOKU Programで採択された6組の多くはアプリ開発などソフトウェアのプロジェクトで、ハードウェアのプロジェクトにチャレンジしたのはLIFT1組のみ。ハードウェアならではの問題に直面することも少なくありませんでした。例えば、材料費や試作コストがかかるため、仕様変更も容易には行えません。ソフトウェアのようにすぐ方向転換できない難しさを抱えながらの開発でした。

そんな中、開発が進んできたタイミングで、プロジェクトは大きな壁に直面します。児玉さんたちの作るLIFTは、通常のホイスト(重量物の昇降を行う機械)で必要な、重量が大きい本体部分を天井まで持ちあげる作業を省略できる点を強みとしていました。しかし、設営現場の見学で、LIFTと機能が近い既存製品「リバーシブルホイスト」が、すでに使われている光景を目にしたのです。

「自分たちがこれを作る意味は本当にあるのか」。

プロジェクト自体の意義を見失いそうになる中で、児玉さんたちはメンターの淡路さんから「客観的に比較をしてはどうか」という助言をもらいました。

自分たちと何が違うのか。既存製品を徹底的に調べ、設置の手軽さや可動範囲、運用方法を一つずつ整理していく中で、LIFTの強みが見えてきます。最大の強みは、LIFTのロープと駆動部を分離できる構造。このため、設置が容易で、垂直移動だけでなく斜めや水平移動にも対応可能だという優位性があります。さらに、一本のロープに複数台を走らせることができる点も、現場での柔軟な運用につながります。この比較を通して、LIFTだからこそ応えられる現場があると改めて確信できたといいます。

そして最終発表会、児玉さんたちは完成した昇降機を会場に持ち込み、実演を行いました。緊張感の中、昇降機がロープを掴み、静かに昇降した瞬間、会場からは拍手が起こりました。発表後に行われた他の採択者とのトークセッションでは「ハードウェアは難しいと思うがよく作ったと思う」「実物があるのは強い」といった評価の声もあがりました。

宇宙エレベーター実現に向け、まずは地上で技術を実用化

児玉さんはMiTOHOKU Program期間を振り返り、「MiTOHOKUには変化を許容する文化があり、メンターの方も、私たちに親身になって関わってくださる。クリエータ同士も互いを尊重し、協力し合うよい雰囲気があった」と話します。

また、同じ分野についてのプロジェクトを行った先輩クリエータとの交流を通し、「自分の今後の人生についても考える貴重な機会になった」と話します。

児玉さんが見据える最終的な目標は、「宇宙エレベーターの実現」です。10万キロにも及ぶロープに、過酷な環境に耐える昇降技術が必要で、現実化するには長い時間がかかると見込んでいます。だからこそ、児玉さんが目指すのは、いざエレベーターを作るとなったとき、すぐに提供できる技術の一部を開発することです。

「宇宙エレベーターの実現につなげるために、まずは地上で宇宙エレベーターに活用できる技術を磨いていきます」。

児玉さんの展望は、まずはライブ業界でLIFTを実用化し、協力を集めながら、より宇宙エレベーターで応用可能な技術を生み出していくこと。MiTOHOKU Programの経験を土台として、挑戦はさらに続いていきます。

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この記事を書いた人

東京大学教育学部卒業後、全国紙の新聞記者として広島総局・姫路支局に勤務し事件事故、高校野球、教育、選挙など幅広い分野を取材。民間企業を経て、2021年に株式会社オーナーを起業し、本教材「探究百科GATEWAY」を開発し編集長を務める。

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