
患者さんが自分にとって最適な医師と医療を選択できるサービス「マチドク」の開発を進めてきた、東北大医学部の本山航幹さん。社会性の強いテーマに取り組む中で、どのように事業性を考えていくか迷いや悩みもあったそうです。そんな本山さんが、MiTOHOKU Programを通して再確認したのは、自身の「志」でした。そのきっかけは何だったのか、半年間の軌跡を振り返ります。

2つの方向性に「どちらも取り組む」という判断
本山さんがMiTOHOKU Programで取り組んだのは、患者と医師、あるいは医師同士を最適にマッチングするプラットフォームの開発です。このプラットフォームを解決しようと考えたきっかけは、本山さん自身が長年打ち込んできたバドミントンの競技中に肩を負傷し、その原因がはっきりわかるまで半年間かかったという経験にあります。
「肩関節唇損傷」と診断されてバトミントンを離れる決断をした本山さんですが別の医師の診断によると実際には競技復帰できた可能性もあり、「もし最初から最適な専門医に診てもらうことができていればバドミントンを諦めずにすんだかもしれない」という思いを持ちました。
誰もが最適な医療を受けられるサービスを目指し、本山さんが考えていたのは2つの方向性でした。1つは、医師同士の専門性を可視化し、医師同士の紹介を容易にする、医師向けのサービス。これにより医師個人の人脈に依存し属人的になっている「紹介」をよりスムーズにしていくことを目指していました。そしてもう1つは、患者さんが最適な専門医とマッチングされる一般向けのサービスです。当初はより高い収益性が見込まれそうな医師向けのサービス開発を進めており、先行してプロトタイプを作り始めていました。

ただ、中間報告会で、あるメンターから「本山さんのビジョンに近いのは、患者さんを対象にしたサービスではないか」と指摘され、この一言がきっかけで再度方向性を検討し直しました。
そもそも、本山さんの原点となっているのは、患者としての自身の経験です。収益性、事業性を優先するのか、あるいは自分の思いを優先するのかで迷いましたが、最終的には「適切な医師にだどり着けない患者さんを減らしたい」という原点に戻り、まず患者さん向けのサービスに取り組んだのちに医師向けのサービスを作っていくという流れにすることを決めました。
MiTOHOKU Program期間中に、小児科の医師へのヒアリングを行い、ヒアリングした医師や医療関係者の数は30名ほどになりました。患者さん向けのサービスについては、実際にホームページを作り、LINE公式アカウントでプロトタイプを作りました。ゆくゆくはAIを使ったマッチングにつなげたいと考えていましたが、まずは検証を進めるため、LINE公式アカウントを通じてアンケートに答えていただいた方に対し、メンバーが裏側で最適な医師を調べ、利用者さんに返答を行いながらプロダクトの満足度を確かめていきました。

また同時期に、東北大学のクラウドファンディング「ともプロ!」にも挑戦し、目標額の100万円を達成。初めは、成功するかわからない中お金をいただくことへの不安があったといいます。しかし、「父をがんで亡くしたが、もし別の医師にかかっていたら違った治療をしていただけたのではないか」など、切実な悩みを抱える患者さんから応援のメッセージをいただいたことで、「このサービスを必要としている人がいる」という強い使命感を感じました。本山さんはこれらの経験を通じて、「自分にとって意義があり、取り組んでいて楽しいと思える道を選ぶことが大切だと思いました」と話します。
アイデア段階の人にこそ進めるMiTOHOKU
MiTOHOKU Programを通じ、本山さんが実感したのは、ロールモデルとなる人間が身近にいることの強みです。メンターの齊藤さんをはじめ、第一線で活躍する先輩起業家や起業した医学部の先輩と直接対話し、彼らの思考に触れられたことは最大の財産だといいます。また、構想しかなかった自分の「やりたい」という思いを歓迎し、具体的な事業化に向けて伴走してくれる環境も、本山さんの挑戦を支えました。
活動資金の提供があること、弁護士への相談やプロトタイプ開発などの実践を自由度高くできること、そして、メンターとの壁打ちを通して自分の軸を確認できることは、このプロジェクトの大きな魅力です。
本山さん自身、ビジネスアイデアの考案からMiTOHOKU Programの応募までわずか数ケ月でした。「まだビジネスが固まっていないアイデアベースの人にこそ、学びが圧倒的に多い環境だと思います。『やりたい』という気持ちを抱えている人は是非飛び込んで欲しいです。自分も今度は挑戦を応援する側に回りたいと考えています。」本山さんはそう話しました。

「マチドク」を社会インフラ化へ
本山さんが目標とするのは、宮城県を起点として、医師と患者の最適なマッチング、医師同士のスムーズな紹介の精度を高めていくこと。東北大学という大きな医局がある東北地方だからこそ、複数の医局がある首都圏よりもマッチングの精度を高めやすいと考えています。今後はAIを活用しながらプロダクトを進化させ、製薬会社との連携や医師の開業支援など、持続可能なビジネスモデルの検証・実践を構想しています。
最終発表で、「個人向け、医師向けのサービスをうまく連携させて、社会インフラにしていきたい」と話した本山さん。MiTOHOKU Programでの学びを経て、社会により良い医療システムを提供するための彼らの挑戦は続きます。

