スマホや自動車など、わたしたちの身近な家電製品の全てに使われている“半導体”。
「半導体って何?」
「どうして博士になったの?」
産業技術総合研究所にて半導体の研究をしてきて、現在は総合科学研究機構とつくばエキスポセンターに所属されている鈴木さんにお話を伺いました。
現代社会において欠かすことのできない半導体
半導体とはその言葉とおり、物質には電気を通しやすい導体、全く流さない絶縁体があり、その中間が半導体です。
半導体はかなり自由に電気の通しやすさを変えることができ、絶縁体に近いものも作れるし、非常に電気を流しやすくすることも出来ます。
金属では電気を運ぶものは電子ですね。
半導体は電子と正孔(せいこう)、2つのものが電気を運ぶことができます。これをキャリアと呼びます。
電子はマイナスの電気、正孔はプラスの電気を運び、それを組み合わせて色々やるんです。
-正孔とは?
電子が抜けた穴のことです。電子がびっしり詰まり動けないところから電子が抜けると穴ができます。これは遠くから見るとプラスに見えます。その穴も移動ができます。電子が次々にその穴を埋めていくことによって正孔も動くのです。
-見つけた人はすごいですね
半導体の歴史はつい最近の出来事です。トランジスタが初めて発明されたのは1947年。今から75年くらい前になります。それから現在のスーパーコンピューターなどが生まれたわけです。
-半導体はすべてnかpかの組み合わせでできている。
電子で電気が流れる半導体をn型半導体、正孔で流れる半導体をp型半導体と言います。不純物を入れることによってコントロールします。
p,n,pと3つ合わせると、真ん中のpをコントロールしてスイッチになります。これがトランジスタです。最もよく使われるトランジスタであるMOSFETでは、絶縁物を介して第三の信号によってオンになったりオフになったりします。これがたくさん使われているのがICです。
これまでの研究の歩み
大学院の修士のとき、トランジスタに電子が変なところに入るとトランジスタの性能が変わってしまう、ゲートにトラップがあると電子は捕まってしまう、半導体はそういう問題を抱えていました。逆に、ゲートのところにうまく電子をためてやるとメモリに使える(記憶することができる)ということに気がつきました。
-すごい発見では?
修士のくせに特許もとりました。実際に使われるものにはなりませんでしたが。
そして電総研でメモリの研究をしました。MNOS不揮発性メモリという、メモリの一つです。
酸化膜Oの上に窒化膜Nをつけると、窒化膜にトラップがたくさんできる。Oには電子はあまりたまらず、窒化膜に電子を留めておくことが出来メモリになります。その電子を追い出せばメモリを消すことができます。
性能アップするには窒化膜の上に酸化膜をつけてやりONOにすると性能が非常にあがるということが分かり、(MONOS(モノス)と言い)これで博士号をもらいました。
半導体の主流のメモリの一つとして、現在もモノスは大々的に使われています。
半導体の今後
-日本はかつて1位でしたが、海外の国や地域での生産が盛んだと感じています。
原因はいくつかありますが、日米半導体摩擦があったことで日本の産業界が萎縮してしまいました。そのころから韓国、台湾が出てきて価格競争に負けてしまったのです。世界的にみても韓国のサムソン、台湾のTSMCが一手にひきうけている状況です。日本は落ち目になってしまっています。
また、車の半導体が世界的に足りないと言われています。コロナ禍で影響を受け、サプライチェーンがうまくいっていなかったからです。現在の車は100個くらい半導体を使っていますが、一つでもないと動けないのです。
-日本の半導体業界はこれから盛り返せる?
半導体は寸法を小さく小さく作ろうと進んできました。今ではかなり原子の大きさに近づきました。今の半導体は平面回路で、光で何度も何度も焼き付けています。写真と同じ原理です。その次は三次元化です。
縦に積んでいき、4つ積むと平面で寸法を1/2にしたのと同じことになります。三次元の技術は日本が得意で、東芝のメモリはすでに162層ものトランジスタを積んでいます。
身近な疑問と科学者へのあこがれ
子どもの頃は、ゲームなどなく、ちょっと行けば田んぼや川があり、魚取りや昆虫捕りなどをしていました。その時、川の水をどんどん切っていけばどうなるんだろう?と考え、多分玉っころのようになって転がっているのだろうと考えていました。今思えば原子モデルだなと、後々気づいたのですが。そんなような子どもでした。
高学年では、野口英世やキュリー夫人などの伝記を読んで、こんな人になりたいなぁすごいなぁ、など思っていました。中学生になると顕微鏡や試験管を買ってもらって自分で色々やっていました。当時は硝石や黒鉛など簡単に購入できて、混ぜて花火を作っていたりしていました。
高校では電気部に入り、真空管ラジオを作ったりしていました。当時、真空管が買えるところが街中にあったのです。
大学は工学部の電子工学科でその頃できた新しい学科です。これだ!と思って入りました。流れに乗った感じ。大学紛争の真っ只中で、その頃は就職で4倍くらい求人があってすきなところに入れる時代でした。学生の1/3は大学院に進学し、私も進学をしました。
大学院では先程のトラップの研究をして、その後は電総研(現在の産総研)に研究者として就職し、半導体デバイスの研究に携わってきました。
ー子どもの頃から身近なものに興味をもつことで科学的思考を育み、部活動を経て本格的に研究への道に進まれたんですね。その時代における最先端の分野を選ぶというのはワクワクする合理的な選択としていいかも。
「なぜだろう」と疑問を持ってみる
どんなことでもよいですが、分からないこと、興味を持ったことに対して、「なぜだろう」と疑問を持つことが重要です。対象は、科学や技術に限る必要はなく、社会のこと、経済のこと、日本と世界との関係などなど、何でも構いません。今は、スマホやPCのインターネットを通して、何でもすぐに調べることが出来ますが、自分で実際にやることが大切です。「なぜだろう」と思ったことが、すべて分からないでしょうし、分からなくても構いません。ただし、そういった疑問を持ったことは、忘れないで持ち続けてください。後になって、何年か経った後になって、分かることもあります。
いずれ、自分の進路を考える時がきますが、早い内から決める必要はありません。それよりも、若い内は、自分の興味のあることをどんどん深めていくことが重要です。そうしている内に、だんだん煮詰まってくると思います。
そこで重要なことは、一つでも二つでもいいのですが、「分かった」と自分で納得するまで考えてみることです。そうして、「分かった」ことは、いつまでも残りますし、また、さらにそこから、次からの疑問を考えるもとになります。あやふやなことで済ましてしまう、いつまで経っても、自分の信念を持つことが出来なくなってしまいます。
英語国民では、この「分かった」と言うのに、“I got it”(「あがっり」と聞こえる)と言います。どんなことでも、「あがっり」精神でいって欲しいです。
・ファラデー「ロウソクの科学」
電磁誘導のファラデーの法則の著者による原著は一世紀以上前のものですが、子供の頃に読んだ覚えがあり、今読み返しても名著と思います。読者対象を、小中学生レベルに合わせ、ロウソクの光りをネタに、さまざまな物理、化学的な背景を述べており、今読んでも、新鮮さがあり、是非読んで欲しい本です。(この著書は、ファラデーの行った青少年のためのクリスマス講演の議事録です。)
・手塚治虫「火の鳥」、「ブラックジャック」(漫画)
漫画ですが、50年以上前に、クローン人間や、コンピュータに支配される人類、究極の臓器移植など、まだ実現していない未来の技術まで、確かな科学的な裏付けを元に警告していることに感動しています。
・西岡常一「木に学べ」、西村公朝著「仏像は語る」
西岡常一は法隆寺の宮大工で伽藍全体の大修理や薬師寺金堂、西塔などを再建した棟梁で、「法隆寺には西岡という鬼がいる」などと言われました。
西村公朝は、仏像修理技師、仏像研究者、僧侶で東京芸大名誉教授、美術院国宝修理所所長などをつとめ、「最後の仏師」、「現代の円空」などと言われました。両者とも、奇跡的に残った寺院の修復、再建や、仏像の修復などを真摯に行うとともに、数多くの著書を残して、宮大工、仏師の魂を分かりやすく開示しており、感銘を受けました。
(本の情報:国立国会図書館サーチ)
【プロフィール】
総合科学研究機構 総合科学研究センター 総合科学研究員および企画委員
鈴木英一さん
名古屋工業大学 電子工学専攻
東京大学大学院 電子工学専攻
電総研に入所、電子デバイス部半導体デバイス研究室に配属
米国アリゾナ州立大で在外研究(客員準教員)を経て
電総研から産業技術総合研究所(産総研)に組織変更され、エレクトロニクス研究部門に所属
2023年応用物理学会主催の国際会議(固体デバイス材料国際コンファレンス:International Conference on Solid State Devices and Materials (SSDM))で、SSDM Awardを受賞
FM84.2ラヂオつくばにて毎週月曜22時~22時30分放送中様々な研究所の博士や専門家たちにお話を聞いています。
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写真提供=鈴木さん