攻めの地元就職。地域に飛び出す若手公務員

地元である岩手県宮古市で市役所の職員として働きながらNPO法人の理事を務める加藤さん。なぜ地元の市役所で働きながら地域活動に励むのか、今後どんな展望をもっているのか。地元市役所への就職は守りではなく攻めの就職だったという加藤さんのストーリーをぜひお聞きください。

目次

地元「宮古市」で働く

私が市役所に入庁したきっかけは、3つあります。

一つ目は、思い入れのある地元で行政の仕事がしたかったからです。私のモチベーションの源泉には、東日本大震災があります。中学3年生の時、卒業式を目前に被災しました。子どもながらに復興の役に立ちたいと思っていましたが、行動に起こす機会もなく高校に進学。まちの復興のために中学校の後輩たちが積極的に行動していると聞き、「私は何もできていない」と後ろめたい気持ちをずっと抱えていました

大学では関心のあった「地方創生」を学び、大学3年生の夏休みには1か月間、島根県で地域の人と関わりながら地区の魅力を探すプロジェクトに参加しました。宮古のまちづくりにおいて活かせる点を多く得ることができた一方で、「仕事にするなら、自分が思い入れのある地元じゃないとだめだ」と感じたことも自分の軸ができた出来事でした。

二つ目は、NPO法人みやっこベースで繋がっていた地域の大人たちの存在があったから。

(みやっこベースを立ち上げた早川さんの記事はこちら/加藤さんも高校時代から早川さんたちが企画したイベントに参加していた)

高校時代、友人の紹介でみやっこベースと出会いました。当時のみやっこベースは、東日本大震災で被災したまちの復興のために主体的に活動する高校生をサポートしており、グループワークの難しさに悩みつつも、気の合う仲間や面白くて尊敬できる地域の大人たちと出会うことができました。

一度大学進学のため地元を離れましたが、宮古を盛り上げようと奮闘している大人たちの発信をSNSで見て、「これから宮古でおもしろいことが起こりそうだな」という予感がしたんです。

三つ目は、地域に飛び出してチャレンジする公務員の事例を知り、憧れたから。

学生時代、知り合いの大人から「面白い公務員がいるからチェックしてみて」と教えてもらいました。その方のチャレンジングな姿勢を見て、公務員に対するイメージが180度変わり、公務員という仕事に興味を持つようになりました。

当時、地元ではそういった人物が思いつかなかったので、いっそ自分がそのポジションになりたいと思いました。公務員はずっと働き続けることができる仕事なので、逆にチャレンジングな取り組みができると考えたのです。チャレンジングな取り組みで地域を盛り上げたいと考えたのです。

これらの理由から新卒で地元に戻り、市役所職員として働き始めました。そして、社会人4年目で本業の仕事に慣れてきた頃、「理事になってみやっこベースの活動に関わらないか?」とみやっこベースの理事長からお声がけ頂きました。地元に帰って働いていましたが、何か明確に行動に起こせていなかった私にとって、高校時代からのもやもやを晴らせる絶好のチャンスでした。私は、ぜひやらせてほしい、と二つ返事で理事に挑戦することにしました。

 「地域に出る公務員」の活動

現在、市役所職員として、デジタル推進の仕事をしています。簡単に言うと、今まで市役所の窓口でしなければいけなかった手続きを、インターネット上でできるようにしましょうと推進する仕事です。民間企業からご紹介いただける最新のシステムに触れられることも面白いですし、地域の課題に対する提案を聞くのも楽しいです。新設されて間もない課なので、前例にとらわれず日々忙しく働いていますが、ポジティブな上司や同僚に囲まれ、やりがいをもって働くことができています。

NPO法人みやっこベースの理事としては、定期的なミーティングに参加するほか、子どもや若者のサポートもしています。例えば、高校生の自主的な探究活動では、大会に出場する生徒の壁打ち相手として問いの立て方や行動までの道のりについて助言しています。また、小学生向けの職業体験イベントでは、実行委員として企画から携わっています。

このように公務員と地域活動を両立させていると、職場で上司から「みやっこベースで活動しているんだよね!」「どんどん地域で活躍してちょうだい!」などと言われることが増えてきました。「地域に出る公務員」として自分の個性を認知してもらえるようになってきたと感じますし、高校時代からやりたかった地域活動ができていることに充実感を覚えています。

今後の展望

今後、市の職員として引き続き今の仕事を頑張っていきたいです。最初配属された頃は「自分に務まるのかな」と不安がありましたが、やっているうちに自分に合っているなと感じるようになりました。公務員は異動がありますから、機会があれば将来的に宮古市の行政施策や地域づくりを考える「企画」の仕事もやってみたいなと思っています。

NPO法人みやっこベースの理事としては、宮古に若い世代が集いやすい場をつくり、宮古で働くことをポジティブに思ってもらえるように活動していきたいです。新卒で地元に戻ってきた身として、地元で暮らすこと、働くことのよい点や今後改善すべき点を感じてきました。これから移住してくる若者がいれば、まずはその人たちが楽しく暮らせる、働ける状況をつくっていきたいですね。そして、それを高校生以下の子どもたちに感じ取ってもらい、「宮古っていいな」と思ってもらいたいです。

また、私が尊敬する人が教えてくれた言葉で「見たい時に見る、やりたいときにやる、できるようになってからではすでに遅い」があります。県外でスキルを身につけてから地元に帰ろうと考えていた私でしたが、この言葉に影響を受け、新卒で地元に帰ることを決断しました。これは私の人生の中で、唯一成功した選択だと感じています。だれよりも早く帰ってきたからこそ、地元で人脈やポジションを築くことができ、充実した暮らしを送ることができています。

おすすめの本
池上彰「なんのために学ぶのか」(SBクリエイティブ)

「すぐに役に立つことは、すぐに役に立たなくなる」。一見すると「なんの役に立つのか」と思われるものでも、長期的な目で見れば大きいリターンが返ってくることを学べる一冊。みやっこベースの子ども・若者の活動も、まさに同じことが言える。

(本の情報:国立国会図書館サーチ)

写真提供=加藤さん

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この記事を書いた人

東日本大震災で被災し、高校・大学時代は「地方創生」「教育」分野の活動に参画。民間企業で東北の地方創生事業に携わったのち、2022年に岩手県宮古市にUターン。NPO職員の傍ら地元タウン誌等ライター活動を行う。これまで首長や起業家、地域のキーパーソン、地域の話題などを幅広く取材。

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