超伝導材料の研究

物質・材料研究機構にて超伝導に関する研究をされている小森和範さん。

超伝導とはなにか、どんなところで私達の役に立っているのか、お話を伺いました。

材料のもつ可能性の大きさ、研究はロマンがあるなとワクワクするお話です。

目次

「超伝導」とは

ー「超伝導」ってそもそもなんでしょうか。

一番知られているのはきっとリニアモーターカーの車体を浮かせるために使っている強力な電磁石の材料でしょう。

実際はもっと使われていて、身近なところでは病院で体の中を切らずに見ることができるMRI診断装置にも使われています。これらに用いられる強力な磁場をつくるためには電磁石を使いますが、普通の金属には電気抵抗があり、このために電気を流すと発熱するので、強い電磁石にするためにたくさんの電気を流し続けると熱くなって線が焼き切れてしまいます。

一方で、超伝導は電気抵抗がゼロ。ものすごく大きな電流を流しても熱が出ません。だから小型で強力な電磁石を作れます。金属の電磁石だと常に水で冷やしていなければならないですし、長時間やっているとだんだん磁石が焼けて焦げた匂いがしてくるときもありますが、超伝導ならばそういう問題がありません。

電磁石だけではなく、送電線に使うと電気のエネルギーを効率的に使えるなどのメリットがあります。実際はそれだけでなく、他の材料にない変わった性質を持っていて、現在私はその研究をしています。残念なのは、今のところは非常に冷やさなければ超伝導状態は起きない、という問題があることです。

(画像1. 超伝導電線と超伝導磁石_L)

私たちの生活に欠かせない電気。よりよく生活をするために日々研究がなされているんですね。超伝導材料はどのように冷やしているのでしょうか。

現在実用化されている材料では液体ヘリウムを使っています。液体ヘリウムは-269℃という超低温です。しかし、現在ヘリウムはとても希少で入手が難しくなっていて、低温の研究者の間では大問題となっています。実験ではなるべくヘリウムを使わない、もしくは使っても減らさないように大型の冷凍機を使って循環させるなどしています。

ー現在、海外のリニアモーターカーでも液体ヘリウムが使われているのでしょうか。

中国の上海トランスラビットは永久磁石を使っています。冷やさなくていいのが最大の利点ですが、永久磁石の磁力は弱いのであまり車体が浮きません。レールがまっすぐならちょっとだけ浮いていれば良いのですが、日本のように高速で登ったり下りたりする軌道では遠心力に勝てるような浮上距離が必要となりますので、今のところ日本のリニアでは超伝導磁石しか選択肢がないという状況です。

ー「超伝導磁石」とはなんでしょうか。

超伝導の電線で作った電磁石で、電気を流すと電気抵抗がゼロなので発熱などでエネルギーを失うことがないため、電源を取り去っても電気が流れ続けます。

磁石を止める時は、電線の一部をちょっと温めると電気抵抗が発生するので電流がだんだん減ってきてやがて止まります。電線を冷やしてまた電流を流せば磁石として働きます。

そのため超伝導リニアモーターカーでは、超伝導磁石に常に電源をつないでおく必要がありません。電車では送電線から電流を取り込むために必要なパンタグラフが、超伝導リニアには設置されていません。

(画像2. 「まてりある‘s eye」より超伝導磁石の実験)

ー小森さんのyoutubeを観るととてもわかりやすかったのでお勧めですね。

登録者数20万人以上「まてりある‘s eye」

https://www.youtube.com/@nimspr

他では絶対見られない! 超伝導 本当のスゴさ(前編)

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「超伝導」の未来

ー日本のリニアの開発に物質・材料研究機構も関わっているのでしょうか。

リニアの電線に使われている材料はもう工業製品としてあるので、ぼくたちはもうちょっと先の、まだ工業的にできないことや、難しい材料について研究しています。例えば、リニアに使っているものよりもっと強力な磁場を出せる電磁石に使う電線や、液体ヘリウムよりもっと高い温度でも超伝導が起きる高温超伝導材料の研究などを行っています。

ー「高温超伝導」とはなんでしょうか。

液体ヘリウムの温度よりもっと高い温度、-200℃くらいで起きる高温超伝導を研究しています。-200℃はものすごい低温なのですが、今までの研究に比べたら-200℃は遥かに高温です。液体ヘリウムは-269℃なので、この70℃の差がとても大きいのです。

高温超伝導材料は35年位前(1986年頃)に発見され、以降ずっと世界中で研究され続け、ようやく電線のかたちにできるところまでになってきました。

ー超伝導で電線を作るのは難しいのですか。

高温超伝導材料だけではなく、超伝導材料は硬くて脆い材料が多いのです。そのような物質は細く伸ばすとプツッと切れちゃうし、曲げたらポキッと折れちゃうしで、とても扱いが難しいです。ニオブとスズという元素から合成される、強い磁場を出せる電線の材料がありますが、これは金属間化合物といって、元素を混ぜる比率をある程度変えられる合金とは違って、含まれる元素の比率が決まっています。金属間化合物は硬い材料が多く、この物質も硬いために電線の様に引っ張って細く伸ばすのが難しかったのですが、最近は研究が進んで出来るようになってきました。

(画像3. 「まてりある‘s eye」より超伝導の送電線)

ー長年の研究で、今まで出来なかったことが出来るように。どういった工夫で出来るようになったのでしょうか。

とても簡単に言うと、物質を作ってから伸ばすと伸びないから、伸ばしてから反応させて物質を作る方法を、この研究所の研究者が昔に開発しました。反応しない状態で原料をギューと伸ばして、伸びてから温度など条件を変えて反応させて物質を合成します。ただ、均等にうまく伸ばすために素材の硬さをあわせなくてはいけないなどいろいろ工夫が必要です。現在ではすごく長い電線も出来るようになりました。今後この技術を進めて、さらに新しい超伝導材料を作ろうとしている研究グループもあります。

研究とは積み重ね。誰かがやったことがそこで完結することは実際には多くなくて、研究を受け継いで受け継いで、改良改良改良、と重ねてきてようやく新しい技術が出てきます。

(画像4. 圧延加工による超伝導電線の作製)

ー材料の持つ可能性は大きい

材料研究の面白いところは、どんなものでも材料でできている、というところ。家だってマイクだって紙だって全部材料です。だから、材料が違うと性能から何から全部違ってきます例えば、マイクならば昔はとても大きいサイズだったものが、新しい材料ができたことで携帯電話に載せられるほど小さくて高音質になりました。

今まで細かく改良を積み重ねてきて作り上げられたシステムが、材料が良いものに変わると一気にガラッと変わってしまう、材料にはそういう力があると思っています。

(画像5.古民家にてお話いただく小森さん)

ー今後、超伝導材料はどのようになっていくと思いますか。

電気を流す材料としてはもちろんですが、それ以外にも超伝導には興味深い性質があります。電子がひとつの波のようになって動く性質を“量子性”というのですが、この電子の波としての性質をもっとうまく使ったら、もっと新しいデバイス、コンピュータのようなものができるんじゃないか、と考えられていて、これを実現する“量子マテリアル”という物質の研究が進められています。

超伝導も量子コンピュータに使おうと研究が進められています。ふつうこの現象が現れるのはすごく小さい世界、原子の中にある電子だとかそういう世界の話です。物質を原子1個分くらいまで縮めた時に初めて電子としての波の性質が現れるのですが、実は、超伝導は1センチや1メートルといった大きさでも“量子性”が見られる非常に貴重な研究分野なのです。みなさんは、科学館で超伝導の磁石がふわふわと浮いているのを見たことがあるかもしれません(つくばエキスポセンターにも展示があります)。マクロスコピックな量子現象…つまり、とても大きな物体でありながら電子が波としての性質を表すというのは他にありません。そういう部分がとても面白いのです。

この性質を使うと、例えば脳や心臓の動き(で生じるとても小さな電流)を測れるような超高感度な磁気センサーをつくったり、非常に弱い磁場を集めて伝える磁気のアンテナのような、ちょっと変わった性質をもつ素子をつくったりすることができる。それが私が考える、超伝導の面白さです。

きっかけはアニメ「ルパン三世」

ルパン三世に出てくる石川五ェ門の刀は、次元大介の拳銃の弾丸もバンバン切っていく。最強です。じゃあどうやって作っているのか、自分なりに本などで調べて、こうじゃないか?と仮説をたて、本屋さんに行って複合材料の専門書などを読みました。

大学に行き、ちゃんと勉強したらその夢は破れましたね。相当難しいです。それまで硬ければいいだろうと考えていましたが、硬い材料はもろくて、とても刀として使うことが出来ません。

大学では硬い材料ということでセラミックス材料を専攻して、その中で出会った超伝導の研究に進みました。

若いうちにみなさん、やることがいっぱいでいろんなことに興味があると想うのですが

とにかくいろんなことに挑戦して、いろんなところに行って、いろんなこと見て、いろんなことを自分の中に溜め込んでください。引き出しをいっぱい作ってください。それが将来なにかに絶対役に立ちます。

引き出しとストックは多ければ多いほどいい、というのが僕の信条です。

ー今まで研究で大変だったことは?

研究はいつも大変ですね。色々積み重ねてこれで成功するんだって計算でバッチリだったとしても、結構失敗します。(まったく新しいことに挑戦するのですから)これはどんな研究者でもそうだと思いますが。だけど「これだ!これだったんだ!!!」ってなる瞬間が、たぶん5年に1回くらいありました。その時は笑いが止まらなくて、同僚の研究者に「壊れた」と言われたこともあります。

うまく行かなくて、苦しくて実験ノートに「失敗」って書くことが続くのですが、その瞬間だけは、世界で自分だけが知っていることがある。そのことについては世界の誰よりもわかっているという瞬間がやっぱり研究してきて面白いと思います。その瞬間があるから、失敗の中で研究をやってこれています。

次の実験に入ればまた次の壁にぶつかるんですけどね(笑)。

(図6. 超伝導線材の加工作業)

島田荘司さんはじめ推理小説とか好きですが、科学と結びつけてだと映画の「オデッセイ」とか。ウルトラマンはじめSFは全部好きです。最近は「なんてことない技術を持って異世界転生モノ」が好きです。この技術がこんな風に展開するのか、とか作者の人はよく考えつきますね。

それから物質・材料研究機構が編集に関わったDVD「このスプーンは、結構うるさい」もぜひ見て頂きたいです。手前味噌で恐縮ですが、この本には材料科学の面白さが詰まっていると思います。身近に使われる材料について、ぜひもう一度振り返って考えていただければと思います。


【Profile】

物質・材料研究機構 機能性材料研究拠点 電気・電子機能分野 超伝導システムグループ

(2023年3月取材時)

小森 和範 さん

高温超伝導テープ線材を用いたマルチターン・シームレス環線の作製と磁束トランス/静磁場捕捉技術への応用について研究。

FM84.2ラヂオつくばにて毎週月曜22時~22時30分放送中様々な研究所の博士や専門家たちにお話を聞いています。

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番組へのご意見ご感想お待ちしています。

scienceexpress@gmail.com

写真提供=小森さん


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この記事を書いた人

総合科学研究機構総合科学研究員
サイエンス・エクスプレスMC サイエンスコミュニケーター
気象予報士の資格を持ち、お天気の実験教室などを開催。第11、12回気象文化大賞を受賞。

実験の楽しさや自然の素晴らしさ、災害の恐ろしさ、人類や科学のすごさをみなさんと共有していきたいです。この世界はたくさんの知識に溢れている。学ぶってワクワク。一緒に科学を楽しみましょう!

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