「働きながら研究する」サイエンスコミュニケーター

サイエンスコミュニケーターとして活動している、いつかさん。一般企業に勤めながら個人として飛行機雲の研究を行い、気象予報士や科学についてわかりやすく伝えるラジオMCとしても活動しています。なぜ、様々な「顔」を持ち活動しているのか、その思いに迫りました。

目次

◆取り組みのきっかけ

理科に興味を持ったきっかけは小学校の時。理科愛にあふれる先生の影響でした。地球温暖化というものがあるということを教えてくれたのも理科の先生で、危機感を感じたことも覚えています。

高校時代、テレビ番組で、栃木県の足尾銅山周辺の森林が再生した物語を目にしました。銅の精錬所から出る煙による「煙害」で荒れた山が、ボランティアの力で再生したという物語から、1人ではできないことも多くの人が力を合わせたら実現できるということを知りました。これをきっかけに、大学では林業や森の勉強をしたい、外でフィールドワークをするような研究がしたいと思うようになりました。しかし、大学受験に失敗してしまい、大学では理学部で化学を勉強。大学卒業後は一般企業に就職しました。

大学卒業後、2~3年経って、次のキャリアを考えるようになりました。自分の周囲でも勉強して資格を取る人がいたので自分でも何か資格を取ってみようと思い、そこで気が付いたのが気象予報士でした。気象予報士なら、理系の知識で何とかなるかなと思い、気象予報士の資格を取ることを決めました。とはいえ、勉強は大変で、5年ほどかかって、何とか気象予報士の資格を取ることができました。そして、資格を取ったことをきっかけにして、自分の世界が広がりはじめました。

◆どんな取り組みをしているか

まず、気象予報士の資格を取ることができたことをきっかけに、小学校で天気の授業を行う機会を頂くことができました。例えばペットボトルで雲を作る実験はとても盛り上がるのですが、そこで「他で誰もやらない実験」に挑戦したいなと思い、「飛行機雲」を作る実験づくりに挑戦することにしました。

細長い飛行機雲が目の前でひゅん、とできるのを見たら盛り上がるかと思い、研究に取り組むことにしました。

平日は働いているので、なかなか時間を取ることはできません。私は博士号を持っているわけでも、大学で研究を専門的に行っているわけではありませんが、どうしてもやりたい、と思い、一個人として研究に取り組むことにしました。休日を中心に研究を行う、「週末研究者」として活動することにしました。

飛行機雲を作る実験はまだ事例がありませんでした。まずは飛行機雲の観測から取り組むことにしました。実は飛行機雲自体の研究もまだまだ少ないことがわかりました。まず、飛行機雲の仕組みですが、あの雲は飛行機自体から出ている煙ではありません。飛行機のエンジンで燃料が燃焼すると、二酸化炭素と水が空気中に放出されます。その水が空気中のちりとぶつかり、冷やされてできるのが「飛行機雲」です。

今は便利な時代で、スマートフォンのアプリを使えば、飛行機の位置を知ることができます。そうすれば、今見えている飛行機雲がどこの上空なのかを知ることができます。「飛行機雲はどれくらい遠くまで見られるのか?」を調べた結果、意外と遠くまで見えます。気象庁の観測データは公開されているので、そのデータも参考にしながら約5年ほど、色々な飛行機雲の観測に取り組んできました。

○気象庁HP 過去の気象データ検索(高層)

https://www.data.jma.go.jp/obd/stats/etrn/upper/index.php

その研究の内容をもとに、「気象文化大賞」というコンテストに応募。募集要項を見ると、大学や研究機関だけではなく、個人で研究している人でも応募できる賞でした。これなら個人でも賞をもらえるかもしれないと思い、応募をしてみました。結果賞を頂くことができ、研究のための助成金を得ることができました。

ここで助成金を頂いたのでより本格的な研究に取り組むことができました。現在はまず気圧を下げて飛行機雲ができる環境を再現するため、真空実験に取り組んでいます。市販のアクリルパイプなどを購入し、真空状態を再現できるようにしました。数ミリでも漏れてしまうと、真空状態にならないので大変ですが実験装置を作っています。

失敗することも多いですが、実験も、やってみないとわからないので、失敗しても次はああしよう、こうしようと次に生かすことが大事だと考えています。一見、失敗に見えるものでも、成功の種になると考えています。まさに小学校の夏休みに研究をするように、童心に帰ったような気持ちで実験をやっています。楽しいという気持ちや好奇心は、大人になっても変わらないのだと思います。

また、2021年からは科学系のラジオ番組づくりもしています。「ラヂオつくば」というラジオ局で「サイエンス・エクスプレス」という番組を企画し、自分が司会を務めています。この番組では、研究者さんをゲストにお呼びして、私との対談の様子を収録し、中学生や高校生向けにわかりやすくお届けをしています。私が住んでいる茨城県には様々な研究所や科学館があり。多くの研究者さんがいらっしゃるので、その方々をゲストに、これまで生物学や原子力発電、地震研究、iPS細胞など様々なジャンルのお話を聞いてきました。

私にとってもとても勉強になるお話で、研究者の方の知識や生き方のヒントをぜひ伝えたいと考えるようになりました。茨城県にはたくさん科学について触れられる場所がありますが、地域によっては近くに科学館がない場所もあると思います。そういった情報格差をなくしていきたいと考えています。

ただ発信はなかなか難しく、対象にしている中学生・高校生にはもっと聞いてほしいと思っています。Youtubeの再生回数もなかなか伸びていませんが、続けてみないとわからないので今後も続けていきたいと思います。

◆「サイエンス・エクスプレス」の過去の収録はこちらから

Youtube

Podcast

◆未来に向けて・高校生へのメッセージ

まずは飛行機雲を作る実験を完成させて、科学館などに展示して、多くの子供たちに見てもらえるものにしたいと考えています。

高校生の皆さんには、「信じる力が大事」とお伝えをしたいと思います。私も大学受験に失敗した時や、ラジオのリスナーが0人だった時など科学の道を閉ざしそうになる機会はありました。でも、いつか次につながる、誰かに届くと信じて、あきらめずに頑張ってみました。すると、何か失敗に見えるものでも、実は成功の種だったということがたくさんありました。まさに「ピンチはチャンス」なのだと思います。

また、好きなことを大事にしてほしいと考えています。私にとっては「科学」が好きなことでした。みなさんも、マンガでも音楽でも映画でもいいので、まず好きなことを大切にして、そこからつなげていけばいいと思います。

あなたへの問い

あなたが自分でやってみたい「実験」や「研究」にはどんなものがありますか?3つ以上挙げてみよう。

カテゴリ:科学・理科

◆おすすめの本

「理科年表」(国立天文台) 国立天文台が毎年発刊している「理科年表」。科学の全分野に関して様々な知識やデータがまとまっている一冊。

「僕が宇宙人を探す理由」(鳴沢真也)

引きこもりや様々なつまずきを経験した著者が宇宙への興味を突き詰め、天文の専門家となり、科学者たちのリーダーとなる物語。「夢や好奇心をあきらめなかったら専門家になれると実感する」とすすめる。


写真提供=いつかさん

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この記事を書いた人

総合科学研究機構総合科学研究員
サイエンス・エクスプレスMC サイエンスコミュニケーター
気象予報士の資格を持ち、お天気の実験教室などを開催。第11、12回気象文化大賞を受賞。

実験の楽しさや自然の素晴らしさ、災害の恐ろしさ、人類や科学のすごさをみなさんと共有していきたいです。この世界はたくさんの知識に溢れている。学ぶってワクワク。一緒に科学を楽しみましょう!

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