保育士の経験を活かして研究の道へ

尚絅学院大学 子ども学類の前田有秀先生。保育学の専門家として大学で保育士・幼稚園教諭になる教員を指導しています。ご自身も保育士として19年間保育の現場で働かれてきた経験をお持ちです。ご自身の経験や保育士を目指す学生に伝えていることを伺いました。

目次

◆研究のきっかけ

大学の教員になる前は19年間、保育士として働いていました。当時、男性の保育士は非常に少なく、自分が働いていた保育園で初めての男性保育士でした。今も男性の保育士さんは少ないですが当時はもっと少なかったです。当時は女性の保育士が「保母さん」、男性保育士が「保父(ほふ)さん」と呼ばれていた時代でした。

保育士を目指そうと思ったきっかけは、自分が高校生だった時にいとこが幼稚園児や保育園児で一緒に遊ぶのが楽しかったこと。それから、送られてきた大学のパンフレットの資格取得一覧の中に、「保母(保父)資格」とあり、男でも保育園の先生になれるんだと思ったこと。もともと数学が得意で学校の先生になりたいと思っていたこともあり、「子ども」と「先生」が掛け合わされて「保育士になろう」と考えました。親にも「なぜ保育士なの?」と言われましたが、自分で考えたことには突き進むタイプなので、その大学に進み、保育士になりました。

男性の保育士の役割は子どもからしたらお父さん、若い保育士だとお兄さんのような存在になれることです。今でも覚えているのですが、保育士なり立てのころにサッカーボールを蹴って遊んでいると、それを見ていた保護者の方から、「うちの子ども、先生のこと大好きなんですよ。男の先生だとボールをあれだけ高く蹴っていてすごいですよね」と言われました。「ああ、自分がここにいてもいいんだ」と嬉しい気分になりました。

15年ほど保育士を続けたあと、障がいを持った子どもへの保育の方法を学ぶ機会があり、そこで改めて保育の理論を学びました。子どもの育ちや発達を理論的に学んだ方が現場の保育にも生かされると思い、働きながら通信制の大学院に通い、修士号を取得しました。その後、大学の教員になり、今は保育士を育てています。子どもたちがたくさんいる現場を離れることは寂しかったですが、自分が保育士として働くよりも、次の世代の保育士をたくさん育てた方が、より多くの子どもたちによりよい保育を届けられると考えたからです。

◆どんな研究をしているか

保育の現場では、「遊び」がたくさん取り入れられています。ブロック遊びや粘土遊び、ペープサートなどいろいろな活動があり、専門用語では「中心活動」と言います。例えばこのように「パネルシアター」という「動きのある演習教材」の遊びは子どもたちからも人気です。

この「パネルシアター」では、子どもたちが好きな動物(ひよこ)や果物が登場します。子どもには視覚的な情報が有効で、さらにキャラクターの動きが入ることで、子どもたちの興味関心を高めるというのがねらいです。

保育士は、この「遊び」を実践する前に、指導案を書きます。指導案とは、遊びの目的や流れを書くものです。保育士・幼稚園教諭になるためには保育所・幼稚園での実習があります。実習の指導案作りは学生自身が中心になって行う必要があり、それをサポートするのが私の仕事です。この指導案を考えるときには、子どもが主体的に参加し、遊びに参加するように考えることが重要です。「子どもに○○させる」という書き方ではいけないのです。これでは、保育士が主語になってしまいますよね。

ではどうすればいいかというと、子どもを中心にして、保育士は「子どもが○○するように促す」のように書きます。大人に強制される活動は「遊び」ではありません。子どもの成長・発達に望ましい活動を、子どもが自分からやってみたくなることを「遊び」で提案するのが保育士の重要な役割であり、そのために必要な指導案を書くアドバイスをするのが私の役割です。

それから、幼い子どもを相手にするので、いろいろな想定が必要です。例えば「パネルシアターやるから集まれ~」と言っても、全員が来るわけではありません。ちゃんと集まる子もいれば、集まらない子がいるわけです。じゃあ、集まらない子がいた時にどうする?ということまで考えておかないといけなくなります。

私自身の19年間の保育士としての経験や、2人の子どもの父親としての経験から、具体的なエピソードを例に出して、いい保育者になるにはどうするか?を学生と一緒に考えています。このように、遊び(中心活動)の計画を作ることは、幼稚園の先生にも同じように求められています。なぜなら、遊びを通して子どもは成長・発達するからであり、子どもにとって遊びとは勉強や学びと同じなのです。

短大や専門学校でも保育士や幼稚園教諭の資格は取れますが、どうしても学校に通う期間が短く、2年目の大半は実習に費やされますので、理論的な学習や実習準備がかなり大変だと想像します。一方、4年制の大学では、2年間じっくりと理論を学んだ上で、3・4年目に実際の保育所・幼稚園での実習に臨めることが大学で学ぶ良さだと思います。

◆未来へ向けて・高校生へのメッセージ

2枚の紙皿を回すと絵が変化する「紙皿シアター」

今、都会を中心に、保育所不足が課題になっています。子どもの数は少子化で減っているのになぜ保育所の数が足りていないかというと、お父さん、お母さんともに働いているというケースが増えてきたからです。以前はお母さんが専業主婦で、家で子どもを育てているケースも多かったですが、今では社会の変化や働き方の変化で、保育園に子どもを預けることが増えてきました。

 実は、保育士や幼稚園の先生の仕事は、子どもの成長・発達を支えるのも大事ですが、保護者を支えることも同じくらい大事です。保護者と毎日つながっている保育園や幼稚園の役割はとても大きいと思っています。今後の研究対象として「保護者をどのように支えるか?」ということにもチャレンジしていきたいと考えていますし、研究者として、社会に対して自分の経験や研究をどんどん発信していきたいと考えています。

 保育士や幼稚園教諭の道を目指す皆さんには、まず「子どもが好き」という気持ちを一番大事にして、色々なことを学んでほしいと考えています。

探究テーマを広げる問い

子どものころに好きだった「遊び」はどんなことですか?3つ挙げてみよう。

◆おすすめの本

はらぺこあおむし(エリック・カール)

前田先生の研究室にはたくさんの絵本が置いてある。その中から「年齢を問わず赤ちゃんから大人まで楽しめます」とおすすめする1冊。

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この記事を書いた人

探究百科GATEWAYの編集部です。高校生の「探究」に役立つ情報や探究分野の解説、探究の方法について発信します。(運営:株式会社オーナー)

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