「障がい児が学校から社会へ羽ばたくために」

尚絅学院大学で特別支援教育を教える佐々木健太郎先生。なぜ特別支援教育を研究しようと思ったのか、そして今後どんな研究をしていくのか。障がい者支援に力を注ぐ佐々木先生のストーリーをぜひお聞きください。

目次

姉の存在

私が特別支援教育の研究を始めたきっかけには、ダウン症をわずらっていた一つ上の姉の存在があります。

私にとって姉は家族なので、居て当たり前の存在でした。しかし、私がやりたいことを見つけることができず大学を浪人していた頃、ちょうど姉が亡くなってしまったのです。姉を失い、漠然ともやもやした気持ちを抱えていた私は、特別支援教育こそ自分にできることかもしれないと教育大学に進学しました。

大学では、障がい児を持つ家庭をサポートするボランティア活動に励みました。自宅に伺い、宿題を見てあげたり、ちょっとした散歩に付き合ったりするほか、その兄弟や保護者の相手もしました。

私の家族もそうでしたが、家族の中に障がい児がいると、当然その子優先の生活になるため、家族で出かけたり遊んだりすることが難しくなります。私も幼いながらに心の支えになっていたのは5歳年下の弟の存在でした。

そこで卒業研究では、障がい児の兄弟に着目し「障がい児と兄弟の存在・役割」について調査研究しました。家族内の関係に満足しているか、関わる頻度を持てているかについてヒアリングを実施。結果、2人兄弟(うち1人が障がい児)の場合は、母親との関係の満足度は頻度と比例する一方、3人兄弟以上(うち1人が障がい児)の場合は、その相関が見えなかったのです。障がい者支援というと当事者が注目されがちですが、障がいがない兄弟や家族の支援も重要であると結論づけました。

大学卒業後、大学院進学と教員とで迷いましたが、取得していた教員免許を生かし中学校の教員の道に進みました。中学校では理科の教科を担当したほか、知的障がいの生徒の担任を持ちました。

中学校で働いて3年が経った頃、大学時代の恩師から一本の連絡が入りました。それは、偶然にも姉が通っていた特別支援学校で「教員をやってみないか?」というお誘いでした。運命を感じた私は、特別支援学校への転職を決意します。

そこから特別支援学校の高等部で勤務し始めた私でしたが、徐々に障がい児の就労支援に違和感を持つようになりました。通常、特別支援学校では高校卒業後に「進学する」という選択肢はほとんどないため、高校3年間は就職のための実習や職業訓練を行っています。しかし、「普通の高校生だって3年間で自分のキャリアを決めるのは難しい。障がいがある子はもっと時間かけて決めていいはずなのに、どうして3年間で限られた進路を決めなければいけないのか」と疑問を持ち始めました。

そんな疑問を持ち始めた時に、また恩師から「大学で研究してはどうか」とお誘いを受けました。現在、大学で教員として働くかたわら、「学校から社会へ」というテーマで研究を行っています。

「ささけんクラブ」を始める

特別支援学校で働いた経験から、もうひとつ「子供たちの仲間関係が薄い」という気づきがありました。普通の学校では、休み時間や放課後は友達同士で遊びますし、卒業してもSNSで連絡を取り合いますよね。しかし、特別支援学校の子供たちは、休み時間一緒に遊ぶわけでもなく、放課後もそれぞれのデイサービスの送迎車に乗ってバラバラになってしまう。ましてや卒業後は誰とも連絡を取らない。そんな希薄な関係が気になっていました。

その課題を恩師に話したところ、子供たちの余暇活動をサポートしてみてはどうかと助言をもらいました。そこから「ささけんクラブ」という余暇活動が始まったのです。

大学付属の特別支援学校だったので、敷地内には大学の資源があります。学生ボランティアを募り、子供たちと理科の先生のところにいって実験を見せてもらったり、美術の先生のところに行ったりして余暇活動を楽しみました。

このように学校以外でも会う場を提供し、関係性づくりのサポートを行うこの活動はとても好評でした。2年継続した頃、嬉しいことに高校卒業後も参加したいというニーズが出てきました。今では、卒業生も参加してくれていて、在学生にとっては卒業生がロールモデルに、卒業生にとっては在学生が自己肯定感を高めてくれる存在になっています。こうして心理的安全性の高い居場所をつくったことで、精神的に安定した生活はもちろん、お互いにプラスの相互作用が生まれるようになりました。

また、その他にも「インクルーシブスポーツキャラバン」という取り組みも行っています。インクルーシブスポーツとは、障がいの有無や程度にかかわらず多様な人々がともに実施できるスポーツのことです。宮城県のプロサッカーチーム「ベガルタ仙台」や自治体、支援団体などと協働したイベントも開催しています。

「学校から社会へ」

私の今後の展望は、引き続き「学校から社会へ」というテーマでさらに深く研究していくことです。

学校から社会への移行期は、人間関係の大きな変化を伴い、障がいのある子どもたちが最も危機にさらされやすい時期の一つです。知的障がいや発達障のある子どもたちは、安心できる仲間関係を築くことに支援が必要であることが、現場の経験を通して分かってきました。

 安心できる仲間関係とは、どのような心理的機能を有しているのか、また、知的障がいや発達障がいのある子どもたちが他者との関係をどのように認識していのるかを明らかにすることで、支援の道筋も見えるのではないかと考えています。

みなさんには、「人はいかに学ぶか」という本をおすすめします。多くの人は、「学び=受験のためにする」というイメージがあるかもしれませんが、必ずしもそれだけではありません。学校が無いような国の事例もあり、自分が今まで捉えていた勉強って違うんだなと気付かされた一冊です。ぜひ、勉強以外の学びも意識してみてください。

おすすめの本
稲垣佳世子・波多野誼余夫「人はいかに学ぶか 日常的認知の世界」 (中央公論社)
「学習」は受動的でつまらないものではないこと、本来人は主体的な学び手であることに気付かせてくれた一冊です。何度読んでも、その時々で新たな気付きを得られます。

(本の情報:国立国会図書館サーチ)

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