「よわいはつよい。心の健康の大切さを伝える」

尚絅学院大学で臨床心理学を教える内田知宏先生。なぜ臨床心理学を研究しようと思ったのか、そして今後どんな研究をしていくのか。「メンタルヘルスリテラシー」が専門だという内田先生のストーリーをぜひお聞きください。

目次

◆ 研究をはじめたきっかけ

私が臨床心理の研究を始めたきっかけは、中学校3年生の時に母親をがんで亡くしたことでした。この出来事をきっかけに心理カウンセラーという仕事に興味を持ち、心理学が学べる大学に進学しました。

しかし、心理カウンセラーに必須の資格「臨床心理士」を取るためには、大学院に進まないといけないことを入学後に知りました。迷いが生じた私は、公務員や教師といった道も考えながら就活をしていましたが、恩師から大学院に誘っていただき進学を決意しました。

大学院では、研究と実践(大学病院のカウンセラーとしての勤務)に励みました。

研究では、「統合失調症を発症した人の考え方の偏りや癖」について研究しました。みなさんも経験があると思いますが、呼ばれてないのに「今呼びました?」みたいにちょっとした錯覚に陥ることがありますよね。それが統合失調症の場合、「咳払いされたから、私は嫌われているのかもしれない」といった錯覚を起こし、その勘違いの延長線上で幻聴、妄想の症状が出てくることがあります。こういった極端な考え方や癖を心理学的に研究した結果、柔軟性のない人、思考が固い人は統合失調症のスイッチが入りやすい傾向を見いだしました。

また、実践では、心の病気を抱えた人に対してカウンセリングを行っていました。数年働いてみて、10代から20代の患者が多い実感がありました。そのことから、大学院卒業後は精神科の大学病院で勤務しながら、「若者の精神疾患について」の研究も行いました。

日本では10年ほど前から日本の5大疾患に精神疾患が加わり、国民病として扱われるようになりました。病院で働いて実感した通り、心の病気になりやすいのは、やはり10代から20代の若者だと分かりました。この年代は、他の年代に比べて環境の変化が多いからです。進学や進路、人間関係などが3年という短いスパンで変化します。ちょっとした不安や恐怖が重なると、自分の意思と反して特定の人や場所、場面を回避してしまうなど、心の病気が起こりやすいのです。激動の年代ですから、当たり前といえば当たり前なのです。

2. どんな研究をしているか

私の専門領域は、「メンタルヘルスリテラシー」です。メンタルヘルスは心の健康、リテラシーとは適切に理解・解釈・活用する力のことです。「心の健康に関する知識を持ち予防につなげましょう」と啓発活動を行っています。こころのケアという言葉は普及した一方で、実際どのようなことを行うのか、誤解されていることが多いです。

例えば、精神科の診察では患者さんに能動的に協力してもらう必要があります。診察で「別に…」や「大丈夫です」ばかり言われてしまうと、精神科医は判断に困ってしまいますし、適切な治療をすることができません。また、即効性のある特効薬を期待されることも多々ありますが、心の病気は基本的に長期戦です。診断にも時間がかかりますし、薬を出して治すのにも時間がかかります。患者さん側にもこういった事前知識を持ってもらい、患者さんと精神科医が協力する必要があるのです。

現在は、大学の講義や実習を担当している他、中学校・高校の授業で「心の健康に関する授業」を行っています。適切な情報を伝えることでいざ自分がかかった時に冷静に対処することができますし、予防にも繋がります。さらには、学校の先生も知ってもらうことによってスクールカウンセラーの上手な活用につながります。

大学院付属の相談室でのカウンセリングにもやりがいと責任を感じています。「対人援助職につく人は2人分の人生を終える体力が必要」と言われています。これまで、患者さんが困難から適応するまでのストーリーにたくさん出会ってきました。時には心が動くこともありますが、感情移入しすぎないよう傾聴スキルを身につけることが必須になってきます。

3. 未来へ向けて(今度どんな研究をしたいか)・高校生へのメッセージ

中学生、高校生や先生方に向けた啓発活動はまだ始まったばかりです。臨床心理の専門家として、理解してもらうのを待つのではなく、分からない人に対して理解してもらえるように啓発活動を進めたいです。

また、大学で心理学を学び、心理専門職に就く学生は一握りという事実もあります。しかし、他の道に進んだとしても大学で心理学を学ぶ意義は3つあると考えています。

     1つ目は、コミュニケーションを”学問的”に学べること。「コミュ力」なんてよく言われますが、これを漠然と経験則でとらえるのではなく、科学的に分析したり、傾聴の技法を身につけたりすることで、苦手意識をなくすことができると思います。

2つ目は、人を理解するメガネ(軸)が得られること。心理学には人の言動を説明する理論があります。また、心理検査を体験し、見えないものを数値化する手法を知ることで、例えば「この人の社交性はこのくらいだな」と客観的に判断することができ、自分の安心にもつなげることができると思います。

3つ目は、自分の心も相手の心も大切にできるようになることです。講義では精神疾患について詳細な情報を伝えるので、心の健康の大切さが分かるようになります。とくに、就職後、心の病気を抱える社会人が増えているので、自分や他者を守る術を身につける意義は大きいと思います。

これらはどの仕事に就いたとしても活用できる能力です。

最後に、みなさんに「よわいはつよい」という言葉を贈ります。高校時代は「相談するのはかっこ悪い」と強がってしまう時期だと思います。しかし、弱みをさらけ出せる勇気がある人は強い人だと思います。あえて自分の弱みや悩みに向き合ったり、相談したりすることで自分の強さにつなげていけることがたくさんあるからです。かっこいい大人になるために、よわいはつよい、を実践してみてください。

探究テーマを広げる問い

あなたが人の心理や心の健康について、調べてみたいこと、専門家の方に聞いてみたいことはどんなことですか?3つ以上挙げてみよう。

◆おすすめの本

カウンセリングとは何か 諸富祥彦著

カウンセリングは、「なんとなく」理解はされているのかもしれませんが、誤解されることの多い用語 (行為)です。この本は、カウンセリングの入門書として読みやすく、かつ誤解なく理解していただける構成になっています。カウンセラーを目指す高校生はもちろんのこと、興味関心がある人にも有用な一冊になっています。

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