「理系女子から心理学への道へ」

尚絅学院大学で「教育・学校心理学」を教える傍ら「異文化×メンタルヘルス」についての研究に取り組む一條玲香先生。なぜ「心理学」の道に進もうと思ったのか、そして今後どんな研究を進めていくのか。もともと理系女子だったという一條先生のストーリーをぜひお聞きください。

目次

1. 研究をはじめたきっかけ

私が「心理学」の道に進んだのは、高校生のときにテレビで取り上げられていたシャーマンを見たことがきっかけです。

シャーマンとは、霊能力を駆使して予言や治病などを行う宗教的職能者のこと。シャーマンが病人に麻酔もせずメスを入れ、不治の病を治す様子などが映し出されていました。

当時、理系で科学至上主義的な思考を持っていた私は「まさかそんなことがあるわけないだろう」と衝撃を受けました。一方で「世の中には科学で証明できないことがある」と知り、「人間の日常は、1+1=2ではない世界観が大半を占めているのではないだろうか」という考えに到り、心理学という分野に深い興味を持つようになりました。

そして高校2年生の時、理系から文系に移り、心理学が学べる大学を受験。晴れて合格しましたが、心理学よりも異文化に興味を持ってしまい大学時代は文化人類学を専攻しました。

卒業論文のテーマは「フランスの結婚と家族」。日本でも少しずつ事実婚(婚姻関係を持たない非法律婚)という言葉を聞くようになってきましたが、当時フランスではそれが珍しくないことでした。「家族ってなんだろう?」「結婚ってどういう意味を持つのだろう?」と調査を進めました。

大学卒業後は一般企業に就職しましたが、やはり研究の道に戻りたいと心理系の大学院に入学しました。もともと興味のあった心理学とこれまでやってきた異文化研究を掛け合わせて研究をしようと考えました。

大学院では「結婚移住女性のメンタルヘルス」をテーマに研究。国際結婚によって、日本で暮らすこととなった外国出身女性が様々なストレスを抱えながら生活していることは、社会学や人類学、メディアなどでは取り上げられていましたが、心理学的視点から研究されることはあまりありませんでした。

私自身も、フランスに留学し異文化体験をしたことがありますが、やはり異文化の中で生活していくことは相当にストレスフルなことだろうと思いました。待ち合わせに平気で2時間遅刻されることもありましたから。それと同時に「異文化の国で定住している人たちってすごくない?」「その強さはどこからくるんだろう?」と関心を持ちはじめました。その人たちがなぜうまく適応できるのかを研究することで、困っている人たちの役に立つ成果が得られるのではないかと考えました。

「異文化」と聞くと外国の文化をイメージするかもしれませんが、小さい範囲で見ると学校や職場での他者との人間関係も異文化です。そう考えると、私たちも苦手な人とは折り合いをつけて付き合っていますよね。これは国籍問わず人間に広く共通するテーマだと思い研究を進めました。その結果、このテーマで博士号を取ることができました。

◆ どんな研究をしているか

現在、私が研究しているテーマは「技能実習生のメンタルヘルスと支援」です。

技能実習生とは、日本の企業などで技術・技能を身につけるために日本で働く外国人のこと。建前は技術移転ですが、実際のところこのような外国人労働者を受け入れることにより、日本の慢性的な人手不足が解消されています。技能実習生は、実習期間を終えれば帰国することになりますが、2019年には「特定技能」が創設され、その先には日本に定住する道も開かれました。日本は先進国の中でも非常に外国人が少ない国です。生産労働人口が減少し続けている日本において、今後ますます外国から様々な人が来て活躍してもらうことが重要になるでしょう。そのために、日本における外国人の異文化適応のサポート要因・阻害要因を研究することはとても大切だと思います。居心地の悪いところには誰も来てくれませんから。何より、気持ちよく働き楽しく暮らせることは双方にとって絶対によいでしょう。

私はこの技能実習生を管理する団体に出向き、メンタルヘルス(心の健康)についてヒアリング調査を行っていますが、支援や教育が必要であることが分かってきました。

技能実習生は20歳前後の若者が多く、母国での就職経験もないままいきなり日本で働くケースが多いです。私たちだって進学や就職など、環境の変化に戸惑うことがありますよね。彼ら彼女らはその環境の変化に加えて、生活面や精神面でのサポートも必要としています。

例えば、ある女性はカルチャーショックで心身のバランスを崩し、生理が来なくなってしまった。またある人は、母国で紛争が発生し、残してきた家族が爆弾に打たれていないか心配しながら仕事をしなければならない。このような状況では、仕事に集中することはできません。そのため、受け入れ側の理解も大切ですし、それをサポートする環境も大切です。技能実習生のみなさんには「こんな状況になったら相談してね」とストレスのセルフチェックなどを伝えています。

この他にも、スクールカウンセラーを目指すための「学校心理学」の講義や、心理検査の取り方や結果を分析する「アセスメント」の講義も担当しています。

3. 未来へ向けて(今度どんな研究をしたいか)・高校生へのメッセージ

日本社会は少子高齢化による労働力不足が深刻化しています。技能実習生や結婚移住女性の話をしましたが、このように外国人移民に社会を開いていくことは今後の日本では必須だと考えています。

その際、定住した外国人のメンタルヘルス支援はますます必要になっていきますし、私たちにも変容が求められるでしょう。お互いが気持ちよく生活できるようにするにはどうすればいいのか。今後は、異文化を背景とした人同士が共生・共存するための方法について研究をしたいと考えています。

もし心理学に興味がある方は、心理学の専門書にこだわらず、映画やマンガ、たくさんの文学作品に触れることをおすすめします。登場人物の心の動きやその人の人生について深く考察してみてください。専門書でなくとも、楽しみながら人のこころについて学びを深めることができると思います。

探究テーマを広げる問い

あなたは日本に暮らす外国出身の人について、気になっている、話を聞いてみたい点はどんなことがありますか?3つ以上考えてみよう

◆おすすめの本

文化とは何か、どこにあるのか―対立と共生をめぐる心理学(山本 登志哉)

 異文化を考えるときに最初に立ち現れるのは「文化とは何か?」という問題です。ところが文化というのは、明確に「○○です」と表現できるものではありません。この本には、そのような文化をどう捉えたらよいかのヒントが描かれています。エピソードやコラムが多数あり、読者が具体的なイメージを持ちやすいように書かれています。異文化葛藤や異文化理解に興味を持った人はぜひ手に取ってみてください。

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