アントレプレナーシップ教育からつながる未来〜青森県立八戸高校〜

青森県立八戸高校の2022年度の入学生は、「KIRARI(きらり)プロジェクト77」というアントレプレナーシップ教育に取り組み、自分たちがやりたいことを実現したり、地域の課題を解決するための事業プランを考えました。2024年度に3年生になった生徒たちはプロジェクトを通しどのように行動し、どのような学びを得たのか、生徒・そしてこのプロジェクトを企画した学年主任の相馬誠先生にお話を伺いました。

目次

地域を盛り上げるための事業プランを作る

「KIRARIプロジェクト77」は、2022年度の1年生を対象に、八戸高校ではじまった課外活動です。企画にあたり、株式会社オーナーがサポートを行い、2022年度は学年の3分の1にあたる80名が参加しました。事業プランを考えるにあたり、このプロジェクトに賛同した地元の大学教員・起業家・経営者が高校生のサポートに入り、中間発表会や最終発表会でアドバイスを行いました。
また、生徒たちの中には、プロジェクトの実現に向けて2年生以降も自主的に活動する生徒たちもいました。八戸市主催のプログラムに参加してプロジェクトをブラッシュアップしたり、東北大学等が主催する外部プログラムに参加して他地域の高校生との交流を行ったグループもありました。生徒の具体的な事例として「教育」をテーマに課題解決に取り組んだ男子生徒4人チーム「VITA」の事例を紹介します。

高校で開催される「進路講演会」をアップデート


「VITA」が課題意識を持っていたのが、学校で開催される進路講演会。友人たちが講演中に眠ってしまったり、講演の内容が自分に合っていないと感じることが少なくないことを課題に感じました。また講演を企画する先生にとっても、講演者の選定やスケジュール調整が煩雑で、多くの時間と手間がかかることを課題ととらえました。

「VITA」はこうした現状を打破し、講演会の内容を生徒に合わせてより有意義なものにするため、全国の方々に協力してもらい、ライブ配信や動画公開をすることで、生徒にとって価値のある講演体験を実現しようと考えました。

そこで、まず八戸市出身の起業家や高校の教員、大学の教員にインタビューを行いました。特に、質問の中で高校生に向けてのメッセージを伺ったところ、全員が「勉強の重要性」を強調していたとのこと。勉強は将来に関わらず必要であり、基盤となることを改めて実感したそうです。

=八戸市出身の起業家・田中美華さんへのインタビューの様子

また、大学教員へのインタビューを通し感じたのは「興味を持つことの大切さ。多くのやりたいことを持っていたことが、選択肢を広げる鍵になったという体験談を聞き、高校生たちが自分の未来を考える上でも非常に参考になりました。メンバーの1人は最初は教育に対してあまり興味がなかったのですが、インタビューを通じて教育の重要性に気づき、自分の進路を考えるうえでも参考になったといいます。


また、高校生ならではの視点が持つ価値についても学びました。大人と高校生ではニーズや期待が異なるため、よりよい講演会のためには高校生の視点で考え、高校生の「やりたいこと」に寄り添った講演会を企画することが重要だと感じました。


一方で、ビジネスプランを考えるうえで難しさも感じました。特に、お金に関するところで、利益を出すためのビジネスモデルの設計に悩みました。学校からお金を取るのか、あるいは講演する方からお金を取るのかで悩み、例えば学校と講演する方をスムーズに繋げて学校の負担を軽減したり、あるいは講演者のスライドや資料の作成を代行するなど、付加価値をつける案を考えましたが、誰にどのような付加価値を与え、その対価としてどれくらいお金をもらえるかを考えたところ、なかなか十分な利益を確保できないということが課題として残りました。

アントレプレナーシップ教育を通じての学び

VITAは外部のプレゼンテーション大会などにも参加し、自分たちの思いを発信してきました。高校1年生の時には考えたプランをもとに、青森市で開催されたピッチ大会に出場。起業家など大人に混じってプロジェクトと思いを発信したところ多くの賞賛をもらい「高校生でも大人の心を動かせる。思いを発信すれば大人の方に応援してもらえる」とうれしさを感じました。

また2年生の時には東北大学等が主催する地域課題解決アントレプレナーシッププロジェクトに参加し、東北大学の教員にアドバイスをもらいながら、プランをブラッシュアップするとともに、全国から集まった学生たちと交流しました。仙台や関東地方など都市部の高校生も参加しており、都市部と八戸という地方にいる自分たちの視点の違いについて考える貴重な機会になったと語ります。
まもなく卒業を迎えますが、「大学進学以降もこの経験をもとに、地域活性化や高校生の学びに貢献するため活動を続けたい」と力強く語っていました。

3年間で生徒の成長を実感

KIRARIプロジェクトを推進した学年主任の相馬誠先生に、プロジェクトを進めた背景や、3年生になった生徒たちを見てどのような成長を感じているのかお話を伺いました。

2022年度に入学をした八高77回生は、新型コロナウイルスの影響で中学校で当たり前のようにできていた学校生活を満足に過ごすことができない生徒たちでした。マスクをし、友達と十分な会話もできず、そして昼食は黙食という生活を続けてきた生徒たちです。

KIRARIプロジェクト77は、このような生徒たちが高校へ入学し、人と関わることを苦手としている生徒が想像以上に多かったこと、そして2022年3月に卒業した卒業生(74回生)に対しても学年主任として3年間の探究活動計画を作成し、取り組んでいた矢先の新型コロナウイルスの感染拡大で志半ばで終わってしまった思いもあり、ぜひ実現したいという強い気持ちで私自身が取り組んだ事業です。

アントレプレナーシップ教育については、74回生を担当するタイミングで学ぶ機会があり、自分なりの理解は深めてていたものの、起業というハードルが高くなかなか手に届かないものとの思いがありました。しかし、株式会社オーナーの佐々木敦斗社長と定期的に懇談をする中で「試行錯誤しながら生徒も教員もやりたいことに取り組むことがアントレプレナーシップ教育」という部分で私の中で腑に落ち、取り組む決意をしました。この3年間を振り返ると、生徒たちの行動の変化に驚く場面が数多くありました。2年生でも活動を継続したいという生徒が現れ、総合的な探究の時間でのグループ研究や課外活動の枠で継続できるように自由に取り組ませました。

八戸市が主催する八戸創業・事業継承サポートセンター「8サポ」が行なう学生起業チャレンジコミュニティに参加し活動をするグループ、地元の企業や専門家とコラボし実際に事業を行ったグループ、また定期的に地域活性化に関する勉強会を行っているグループ、そして東北大学が募集した地域課題解決アントレプレナーシッププロジェクトに応募し採択されて活動したグループがありました。VITAも東北大学の募集した事業に採択されたグループです。

2年生の1年間は、自分たちの事業案を実現するために学校では学べない多くのことを学ぶことができました。また、大人と関わりながら、生徒ひとりひとりの言語活動を充実させることができたと考えています。受験もあることから、活動は2年生でひと区切りという話を生徒にはしていたのですが、3年生でも活動を継続したグループもあり、発展途上国を支援したいとの思いからエスニックカレーの販売を通して事業案を実現させたグループもありました。

また、KIRARIプロジェクトで活動してきた生徒は学年を牽引する人物にも育ちました。文化祭や様々な学校行事において、学年リーダーとして全体を取り仕切った生徒も、KIRARIプロジェクトで活動をしていた生徒です。このように多くの場面で生徒が主体的に行動する姿を見ることができたことは、KIRARIプロジェクトの大きな成果だと考えています。

現在3年生となり、生徒たちは受験に向けた準備を進めています。KIRARIプロジェクト77で活動してきたことを生かして総合型選抜や学校推薦型選抜に出願する生徒もいます。経験してきた事を十分に生かして、まずは自らの進路実現に、そしてこれからの人生における学びに繋げて欲しいと考えています。

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この記事を書いた人

探究百科GATEWAYの編集部です。高校生の「探究」に役立つ情報や探究分野の解説、探究の方法について発信します。

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