探究に役立つ本紹介 PART1

探究学習に役立つ本について、「GATEWAY」編集部がおすすめする本を紹介していきます。新書を中心に、探究学習のテーマ設定にも役立つ読みやすい本を選んでいます。探究学習や小論文対策などに活用してみましょう。

※新書のタイトルの「/」の後は「探究百科GATEWAY」の探究分野を表示しています。

目次

「里山資本主義」/地域・まちづくり

タイトル里山資本主義
著者藻谷浩介、NHK広島取材班
出版者kadokawa
出版年2014

「新書大賞2014」大賞受賞作品。藻谷浩介とNHK広島取材班の共著である。

先進国の課題を救う糸口は田舎にある。現代の都市部の人々に信奉される経済成長第一のマネー資本主義とは正反対の、自然豊富な地方に焦点をあてた究極のバックアップシステム「里山資本主義」を提唱している。過疎化の進む中国山地や資源に恵まれない小国オーストリアの事例を示しながら、雇用問題、少子高齢化、食糧自給、地域の衰退など、日本が抱える多くの課題を解決するカギを「里山」に見出し、再生の方策を探っている。

異なる視点・新たな発想を得られ、今日の日本の経済システムについて見直すきっかけとなるだろう。 後半部では無縁社会の克服、地域の復活、少子化対策についてそれぞれ打開策を示し、「日本経済衰退説」や「国際競争威力低下」の誤解についても丁寧に説明されている。里山の力を大いに生かし、人がより健康に、そして経済的に豊かに暮らしていける方法を模索し、新しい社会が実現された姿を大胆に描いている。

(本の情報:国立国会図書館サーチ)

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「命の格差は止められるか」/医療・健康・福祉

タイトル命の格差は止められるか
著者イチロー・カワチ
出版者小学館
出版年2013

ニュージーランドで育ち内科医として働いていた筆者は、ハーバード大学大学院に着任し研究者として活躍する日本人である。筆者がハーバードで教える「社会と健康」の授業を再構築した著作である。

アメリカはなぜ先進国中平均寿命が最低レベルなのか。逆に日本人はなぜ長寿なのか。その背景に日本社会の「人々の絆」や「格差の小さい社会」があると捉え、社会に存在する格差が人々の健康にどのように影響するのか、根拠となるデータを示しながら論じている。

経済格差が大きい地域では医療水準が低く、結果として平均寿命が短くなる傾向がある。労働や教育の格差は、その後の生活習慣や人格形成に影響を与える傾向があるという。その格差は多くの人の生活の質を下げ、健康にも大きな影響を与えることが説明されている。筆者はこれを「パブリックヘルス」と呼び、個人の健康も社会全体の在り方に影響を受けていると主張している。 人々の命を守るには、日本の長寿を支えてきた格差が少ない結束の強い社会を守るべき―所得、教育、労働、人間関係…あらゆる側面から格差を分析、新たな長寿への可能性を探っている。

(本の情報:国立国会図書館サーチ)


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「森林で日本は蘇る 」/農林水産

タイトル森林で日本は蘇る 
著者白井裕子
出版者新潮社
出版年2021

工学博士として大学で建築学を研究する筆者は、国内外の森林に足を運び日本の林業の現状に危機感を抱く。現場を知る研究者の視点で日本の林業を取り巻く課題をあぶりだした著作である。

 国によっては国家を支える基幹産業の一つである林業、なぜ日本では林業支援がうまくいかず衰退しているのか。豊かな森林資源を生かそうとせず全国一律の補助金でコントロールする発想、海外から高く評価される伝統木造建築をないがしろにする建築基準法、国産材を効果的に活用できていないバイオマス発電。日本の森林は世界がうらやむ資源であるにもかかわらず、その活かし方を理解せず「宝の持ち腐れ」になっていると訴え、自然を相手に我々人間がどのような姿勢で向き合うべきかを示唆してくれる。  バイオマス発電や森林環境税、補助金による支援、これらは「林業を守る支援」と肯定的に評価しがちであるが、実はさまざまな不具合や欠陥があることを専門家の視点で分かりやすく伝えており、「知ることの大切さ」を伝えてくれる。ここに記述されたことは森と木をめぐる問題にとどまらず、日本社会の欠点を映し出しているともいえる。

(本の情報:国立国会図書館サーチ)


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「人に寄り添う防災」/防災・復興

タイトル人に寄り添う防災
著者片田敏孝
出版者集英社
出版年2020

著者は内閣府「中央防災会議」などの防災関連の委員会・審議会に携わり、防災行政の中心メンバーの一人である。災害情報学・災害社会国学を専門領域とする研究者が「避難しよう」と思う心をどのように導くのかを論じた著作である。 地球温暖化の影響で年々激しさを増す豪雨災害、巨大化する台風被害、想定の難しい巨大地震、これらの自然災害に我々はどのような心構えで備えればよいのか。避難情報やハザードマップの充実がなぜ避難行動に結びつかないのかといった疑問に直面しながら、筆者はあるべき防災の姿を模索する。「人は防災の理屈で動くのではなく思い合う心で動く、自らの命を守ることが他者の命を守ることに影響する、避難しようとするのは自らの命を大切だと思ってくれる誰かがいることに気づいたとき。」被災地や津波想定高日本一の町でのフィールドワーク、中央防災会議の議論などを通して感じた、行政任せにしない住民主体の防災のあるべき姿、防災と地域コミュニティの関係など、具体的な体験に基づいた「命を守るための指針」を提言している。

(本の情報:国立国会図書館サーチ)


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「海洋プラスチック」/自然・環境・動物

タイトル海洋プラスチック
著者保坂直紀
出版者kadokawa
出版年2020

海洋物理学を専攻し、現在東京大学大気海洋研究所に所属するサイエンスライターが、データを用いながらプラスチックごみの現状をわかりやすく解説した著書である。 「海洋中のプラスチックの重さが2050年までに魚の重さを上回る」というショッキングな推定が話題となった2016年世界経済フォーラム年次総会。プラスチックごみによる海洋汚染や生物の被害が世界中で報告されるなか、日本でも2020年7月からレジ袋が有料化された。レジ袋ゼロやマイバッグ持参は本当に有効なのか、体内に入ったマイクロプラスチックの影響は。これらの疑問に丁寧に向き合いながら科学的な判断についても解説してくれる。著者は「地球温暖化にしてもプラスチックごみにしても、環境問題はとかく極論に走りがちだ」と述べる。感情的にならず持続可能な解決策を導くために、まずは市民一人ひとりが冷静に関心を持ち続けることが大切だと論じており、シチズンサイエンス=市民参加型の科学の観点を大切にする主張は非常に納得感がある。

(本の情報:国立国会図書館サーチ)


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「ことば、身体、学び」/スポーツ・運動

タイトルことば、身体、学び
著者為末大、今井むつみ
出版者扶桑社
出版年2023

陸上競技の元オリンピアンである「走る哲学者」と、言語発達心理学の研究者との対談をまとめた著作である。スポーツとことば・学びというかけ離れた分野をフィールドとするふたりがさまざまな点で共通認識を持つことが興味深い。  ことばが世界を作るのか、それとも世界がことばと作るのか、ことばと身体のあいだにはどのような関係があるか、言語能力が高いとは、熟達するとはどのようなことか。為末大氏の問いを言語習得研究の第一人者が受け止め、二人が対話を重ねる形式で文章は綴られる。「学び」は単なる知識の獲得ではなく、新しい知識を生み出す「発見と創造」が本質だと今井氏は述べる。それを為末氏は、調整力の高さ、すなわち「熟達」と呼ぶ。学校の授業で新たな知識や技能を獲得したり、体育の授業や部活動で「今までできなかったことができるように」なったりする荊尾健は誰にもあるだろう。そこには言葉による抽象化、技術の修正が関わっている。「学び」とは何かを探るうえで、大きなヒントを授けてくれる本である。

(本の情報:国立国会図書館サーチ)


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この記事を書いた人

宮城県の公立高校教員として勤務。授業では国語を教え、部活動では高校・大学で競技経験のあるフェンシングの指導を行ってきた。指導のベースにあるのは「指導より支援、主体性の尊重、失敗の許容」の思い。2023年3月までは石巻西高校で校長を勤め、文部科学省の指定事業などで地域と連携した探究学習を推進した。

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