南部鉄器でつくるエフェクター。「今までにないものをつくりたい」

神奈川県横浜市から岩手県奥州市に移住し、エレキギターの音を変化させる機械「エフェクター」を南部鉄器でつくる福嶋圭次郎さん。自ら会社を立ち上げ、伝統工芸品と楽器を組み合わせた商品の製作・販売をする福嶋さんが今の仕事を行うまでの経緯と今取り組んでいることをお聞きしました。

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エフェクターをつくろう

そもそも音楽との接点ができたのは中学生の頃。当時、僕の周りには楽器をやっている人が少なかったので、通っていた高校ではバンドを組むことはなかったんですが、その代わりによく一人で演奏をしていました。その中でも機材をいじるのがすごく好きで、強く興味を持ったのが「エフェクター」です。

高校3年生になった頃に、ベースマガジンという音楽雑誌を読んだんですが、その中に「エフェクターをつくろう」という特集記事が載っていました。興味を持って実際にやってみたら、それがすごくおもしろくて、時間を忘れてつくっていました。その頃はちょうど進路に悩んでいた時期だったんですが、エフェクターづくりの経験を機に、電気系のことを学んでみたいなと思い始め、理工系の大学に進学することを決めました。

進学した後、大学生後半になって、就職活動を始める時期になったんですが、今までチャラチャラしていた人たちがスーツを着始める中、僕はその雰囲気が嫌で、就職活動はせずに自分の好きなことをやろうと思ったんですね。それで、その時には自分でエフェクターをつくれるようになっていたので、アメリカに自作したエフェクターを販売しに行きました。

そうしたら、ロサンゼルスの楽器屋さんが買い取ってくれて、自分の製品を売ることができたんです。そこで初めて自分がつくった製品を販売することができたので、それをきっかけに、エフェクターづくりを仕事にすることを意識し始めるようになりました。それからは下積みのような形で、楽器屋さんで働いたり、実家の米屋を手伝いながら製作を続けました。

そうして何度も製作するうちに、エフェクターは電子基板の外側を覆う箱の素材によって音が変わることに気づいて。そこで個性的な音を出せないかと考えていた時に出会ったのが、南部鉄器です。偶然テレビで特集されていたのを見かけて、「南部鉄器でエフェクターをつくってみたい」と思い、岩手県奥州市の南部鉄器工房 及富さんに連絡をしました。その後、及富さんの工房を見学させていただき、案内していただいた方に南部鉄器でエフェクターをつくろうとしていることを伝えたら、「ぜひうちでつくらないか」とお話をいただいて、一緒に制作をすることが決まりました。そこから令和元年に奥州市に移住して、自分の会社をつくり、制作と販売をする事業をスタートしました。

「今までにない」「世の中にはない」

今は、伝統工芸品である南部鉄器でつくるエフェクターの制作・販売を行っています。奥州市のふるさと納税の返礼品としての販売したり、楽器屋さんに取り扱ってもらったり、運営しているオンラインサイトにも商品を掲載しています。

◆南部鉄器エフェクターの紹介動画(音声が出ます)
https://www.youtube.com/watch?v=OF_Q4HyeNgo

僕のつくる商品の価値を一番発揮できるのは海外だと思っているので、アメリカなどへのPRは意識しているところです。向こうでは南部鉄器という言葉を知らない人が多いので、僕のつくる商品だけでなく、まずは南部鉄器を知ってもらうための活動も行っています。

また、今は奥州市に拠点を持っているので、エフェクターだけでなく、南部鉄器業界全体に貢献できるように、周知や広報もやらせていただいています。

これまで南部鉄器があまり関わりのなかった「音楽」にまつわる商品をつくって、伝統工芸品の新しい可能性を見出していくというのはとてもやりがいがあるなと思っています。

仕事の意味ややりがいもそうですが、僕自身がすごく楽しめているからこそ続けられている仕事なんですよね。アルミでつくられることが多いエフェクターを、南部鉄器の特徴を生かして、独特な音色をつくる。

「今までにない」とか「世の中にはない」という言葉がすごく好きなんです。何か商品をつくるときも、「これはすでにあるものだな」と思ってしまうとすごくテンションが下がりますね(笑)。

何かで世界初のことをやり遂げたパイオニアはきっと忘れられない存在になりますよね。そういう新しいことをつくっていくような感覚が好きで、僕もそういう存在になれたらいいなと思っています。

エフェクターで考えると、今話題になっているSDGsやWEB3.0などと関連した商品をつくるというのもおもしろいんじゃないかと思っています。楽器が社会のトレンドに結びつくことが少ないので、そうした新しいものづくりもやっていけるといいですね。

他にこれからやりたいこととしては、南部鉄器だけでなく、他の伝統工芸品を使った製作がしたいなと思っています。奥州市で言えば、岩谷堂箪笥など他にもいい伝統工芸品があるので、新しい可能性をこれからもっと見出していきたいです。

また、海外展開にもより注力していきたいと思っています。直近では、9月にアメリカのシアトルに営業にいく予定です。すでにアメリカや上海では、商品の取り扱い店舗がありますが、より強く海外に展開していきたいなと思っているので、現地に訪れることで音楽業界の人と交流しながら、向こうでも地位と評価を得ることができたらと考えています。

ちょっとでもやってみる

最近、参加したイベントで「地域を盛り上げるために何かやりたいとは思っているけど、その気持ちが強く持てなくてもどかしい。なかなか行動できない」という悩みを持った大学生と話をする機会があったんです。

僕はその人が、何かをやろうとしているだけですごいなと思ったんだけど、本人からしたら「自分は何もできない」、「想いのレベルが低いから行動できない」と悩んでいたみたいなんですね。

それはやっぱり「何かやろうとするなら、大きい成果のあることをやらないといけない」という意識が植え付けられてしまっていることが原因じゃないかと思うんです。

本当はそんなことなくて、何かやってみたいことがあるなら、その想いの分だけちょっとでもやってみるのがいいと思います。SNSで毎日気づいたことを投稿するとか、小さいことでも続けていくときっと周りから反応がある。他の人と比べて、できていないことに目を向けるんじゃなくて、やりたいことはやってみるべきで、嫌だったらやめたらいいんです。

これは、その大学生の子にも話したことですが、みなさんにも伝えられることかなと思います。やっぱりどんなことでも行動してみることと続けることは大切です。そこから見つかるものがあると思うので、ぜひ気になることはできるところから、少しでも行動してみてください。

おすすめの本
水野敬也『夢をかなえるゾウ』シリーズ(文響社)

「夢がない」会社員に、インドの神様・ガネーシャが、「夢とは何か?」「夢は本当に必要なのか?」、「成功するための方法=夢をかなえる方法」を伝えていく『夢をかなえるゾウ』シリーズ。この本から、自己成長の楽しさや、夢を実現するための心構えを学ぶことができます。

(本の情報:国立国会図書館サーチ)


写真提供=福嶋さん

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この記事を書いた人

1994年生まれ。岩手県奥州市出身。2019年4月から企画・執筆・編集を行うフリーランスとして活動。その他、Next Commons Lab遠野ディレクター、日本仕事百貨ローカルライター、インターネットメディア協会事務局などを務める。将来の夢は、奥田民生のように生きること。

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