子どもたちのネット依存・ゲーム障害の課題解決に取り組むため、ネット依存かどうかを判定するスクリーニングツールの開発を進めてきた「レックスチェック」のお2人、ケンダルさんとハンスさん。スウェーデン出身の2人は日本で法人設立を行い、プロダクトの実装に向けて多くの関係者にヒアリングを行い、試行錯誤を続けてきました。
海外出身の2人はMiTOHOKU Program期間中にどのようなチャレンジを行ったのか。プログラムの印象も含めてお話を伺いました。


医療現場での実装に向けた挑戦と、直面した壁
スウェーデン出身のケンダルさん、ハンスさんによるチーム、「レックスチェック」。ケンダルさん自身がゲーム障害に悩んだ経験を持ち、同じ問題意識を持っていた大学の先輩、ハンスさんを誘ってチームを立ち上げました。ネット依存・ゲーム障害の課題解決に取り組む2人が当初進めていたのは、AIを活用して子どものネット依存・ゲーム障害の傾向を可視化・診断するスクリーニング技術の開発です。結果を病院に伝えて医療分野で活用することや、保護者に届けることを想定していました。
しかし、実際に病院や保護者へのヒアリングを重ねる中で、いくつかの課題が浮き彫りになります。まず、病院にスクリーニングの結果を提供するためには様々な基準をクリアする必要がありハードルが高いこと、臨床試験に合格することが必要であること。また、スクリーニングは基本的に一度きりの提供のため、継続的に提供する難しさもわかってきました。
さらに、保護者に向けた提供についても、不安を持つ保護者は、すでに生成AIなどの無料ツールに相談しており、有料の診断ツールを使うのは強い不安を抱えているときに限られておることが分かりました。
また、保護者自身もネット依存ではないものの子どもと同様に多くの時間をインターネットに費やしており、自身の行動を変えることは難しいという点も見えてきました。

メンターからの助言をきっかけに教育領域へとシフト
こうした試行錯誤の中で、MiTOHOKU Programのメンターから「ネット依存になった子ども1人の人生を100%変えるのではなく、100人の人生を1%ずつ変える選択はできないか」という問いを投げかけられます。
この問いをきっかけに、デジタル依存になる手前の子どもをスクリーニングするのではなく、さらにその前段階にある子どもたちに気づきと内省を促すことを考えはじめました。
子ども家庭庁の「令和6年度青少年インターネット利用環境実態調査(速報)」によると、インターネットを利用すると答えた児童・生徒の平均利用時間は小学生(10歳以上)が約3時間44分、中学生は約5時間2分と多くの生徒がインターネットに時間を費やしており、加えて多くの子どもたちがスマートフォンを利用している実態も明らかになっていました。
そこで、2人が目をつけたのが教育。学校に通っている子どもたちに対してアプローチを行う方がより現実的であると判断し、学校現場へのスクリーニングの導入を考えました。
MiTOHOKU Program中、2人は宮城、福島に加えて長野や鹿児島など全国各地の学校や施設を訪れ、教員や関係者へのヒアリングを進めていきました。最初から「ネット依存を解消するツールのヒアリングをしたい」と伝えてしまうと学校側のハードルもあがってしまうため、「国際交流」、「子どもたちとスポーツで遊ぶ」等というところから学校や教員とのつながりを深めていきました。

そして学校にヒアリングしてみて新たに分かったのは、多くの教員が「スクリーニング」という言葉に心理的なハードルを感じているということでした。子どものデジタル依存を可視化することで、学校の責任が大きくなることを懸念している教員もいたと言います。また、授業やワークショップを用いた解決策を提案されることもありました。しかし、2人が自身の強みだと考えているのは、彼らが開発したスクリーニング技術そのものです。
「スクリーニングの本来の価値は、診断結果そのものではなく、ユーザーに気づきを与え次の行動を導くことにある」と考えている2人。現在作成しているプロトタイプは、いくつかの質問をユーザーに投げかけ、デジタル依存度や、インターネットを見ないことにおける人生へのインパクトを可視化するものです。
例えば、スマホを1日6時間見ている中学生には、「このままいくと人生で17年間スマホを見ていることになる」と警鐘を鳴らします。加えて「仮にスマホを見なければ○か国を習得できたかもしれないし、○か国を回れたかもしれない」などと画面を見ていたはずの時間を別のことに充てることで得られる成果をユーザーに提示し、行動を変えるきっかけを作りました。

挑戦を支えたMiTOHOKU Programの環境
2人は、MiTOHOKU Programはクリエータを尊重するプログラムであったと振り返ります。自由度が高く、仮説検証に集中できる環境にあったことで、医療から教育へのピポットを展開することができました。また、日本国内や東北地方で多様な人や組織とネットワークを築くことができ、挑戦を続けられる安心感につながりました。
また、メンターからの助言は、事業設計に新たな気づきを与えてくれるものでした。例えば、株式会社として利益を追求するだけでなく、NPOや一般社団法人として社会的価値を追求するといった選択肢も得られたと言います。
MiTOHOKU Program中にはレックステック株式会社を立ち上げ、事業化への体制を整えました。スウェーデンではオンラインのみで法人登記が完結するのに対し、日本では多くの書類を提出する必要があったことには驚いたそうですが、何とか登記に至ることができたと話します。
「半年間の試行錯誤は長かったが、ようやく進むべき道が見えてきた」と語る2人。今後は、学校を中心にユーザーを増やしていくことに注力し、得られたデータをもとに、教育現場への本格的な導入を目指していきます。構想しているのは、単にスマホを見ることを制限するのではなく、エンターテインメント性を取り入れながら「自分の時間をどう使うか」を考えられる文化を、教育によって作っていくことです。
「できるだけ多くの人が、デジタル依存によって人生を狭めてしまわないように支援したい」。自身の経験や人との出会いが原動力となっている2人の挑戦は、技術と教育により子どもたちの人生を豊かにしていくことを目指します。
