「炭」で水道水をおいしく 森林を守る

「水を変えよう、未来を変えよう」このスローガンを聞いて「炭」を思い浮かべた人はいるでしょうか。ペットボトル削減に「炭で水道水をおいしく」という切り口からアプローチする、株式会社クジラテラスの代表取締役社長、上神田正利さんに、社会課題の解決に寄与する「炭」の可能性と、そこに行き着いた経緯を伺いました。

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「炭」から見つけた可能性

2017年に岩手県久慈市で「株式会社クジラテラス」を創業し、大学時代に学んだ建築を活かして住宅事業を行ってきました。「地方に貢献できることをやりたい。何か全国に発信できるものはないだろうか」と考えていた時に、久慈市の平庭高原という自然豊かな高原に「白樺(シラカバ)」の木がたくさん生えており、「日本一の白樺美林」と呼ばれていることを知りました。

この「シラカバ」の樹液にはミネラルなどの栄養素が豊富に含まれており、「森の看護師」と呼ばれています。このシラカバの樹液を使って2020年に白樺炭酸水「しらせ」を開発しました。

その後、シラカバ林について話を聞いてみると、実はシラカバの寿命は60~80年ほど。平庭高原のシラカバはすでに樹齢が50~80年と推定されており、人間が手入れをしなければシラカバ林がなくなってしまうことがわかりました。

そしてこの「人間による森の手入れ」はシラカバ林に限らず、日本の森林全体に必要なことだということも知りました。日本の林業は、昭和時代に木材の輸入が自由化したことで海外から安い木材が日本国内に流入し、利益を得ることが難しくなった結果、日本の森林の手入れ不足が問題になっているのです。

(日本の林業の歴史や課題がわかる「森林コラム」はこちら

そこで目を付けたのが、地元産の楢(ナラ)という木の炭でした。知人が久慈市でナラの木から木炭を作っている会社を経営しており、そこで作られた炭は日本で唯一内閣総理大臣賞を受賞したほどの高い品質でした。また、その会社では林業も行っており、木を育て炭を作り、炭をお金に変えて森林の整備を行うという古くから地域に受け継がれてきた里山の管理手法で管理され、森林が自然に近い形で守り育てられています。

炭は飲食店やバーベキューなどの燃料用などに使われることが多いのですが、この炭を有効に活用できる方法はないか?と考えて開発をしたのが「SUMITCH(スミッチ)」です。「水に炭を入れるとおいしくなる」ことは、古くから知られていますが、実際にやってみたら水がとてもまろやかになりおいしかったんです。

成分の分析をしてみたら、塩素がなくなり、炭からミネラルが染み出している。それまで飲料水はペットボトルの水を買い飲んでいたのですが、毎週大量に出すペットボトルごみに自分自身が罪悪感を感じていました。かといって、浄水器を契約するほどでもないし、浄水ポッドの水は味に満足できず使っていませんでした。炭なら浄水器よりも手頃な金額でおいしい水が飲めるし、それまで毎日何本も消費していたペットボトルも使わなくて済む、さらに炭は森林保全へのアプローチになる。浄水炭は日常の中に取り入れられるし関わりやすい。みんなにとって良いことしかないと思い、炭で浄水するサービスに取り組むことを決めました。

「スミッチ」でSDGsに貢献

スミッチは、定期的に自宅に浄水炭が送られてくるサービスです。2か月に一度炭が送られてくるので、その炭を自宅の水道水を満たしたボトルに入れるとおいしくまろやかな水になります。

東京都水道局の調査では、飲み水としての水道水を不満に思う要因について、「味」や「塩素などの薬品」があげられています。

令和元年度 東京水道あんしん診断報告書(東京都水道局)

https://www.waterworks.metro.tokyo.lg.jp/kouhou/koe/enq/r1/

炭を水道水に入れれば、この「味」を改善することができます。実は炭には目に見えない無数の小さな穴が開いていて、この穴が水道水の中の塩素や有害物質を吸着します。さらに炭そのものにあるカリウム、カルシウム、マグネシウムといったミネラルが溶け出すためおいしい水になるのです。

スミッチは環境を守ることにも貢献します。2019年度、日本国内では約236億本のペットボトルが流通していたといわれています(※)。これを少しでも削減したい。スミッチをマイボトルに入れて持ち歩くことで、飲料水利用のペットボトル削減にアプローチし、地球に優しい暮らしをすることができます。SDGs達成にも貢献します。私たちは、「炭を水に入れるだけ」というわかりやすいアクションで環境にも貢献できることがよいところだなと考えています。この「わかりやすさ」こそ、多くの方の意識を変えていくために大切なこと。「スミッチ」を開発した当初からキャラクターを設定しユーザーが炭に親しみやすいように工夫をしています。

(※「PETボトルリサイクル推進協議会」のPETボトルリサイクル年次報告書より)

「ウォーターマイレージ」という考え方があり、例えば海外からミネラルウォーターを輸入した場合、水を運ぶために二酸化炭素を排出します。スミッチは1度の配送で2か月分の水道水の浄化が可能になります。使い終わった後も脱臭剤などとして活用可能。浄水自体は浄水器という機械に頼ることもできますが、導入コストが高く、電気を使うため、環境負荷が大きくなってしまいます。スミッチは、月1,000円の手頃な価格にこだわり、使用の際に電気は使いません。また山林を守り育てる森林循環にも貢献します。

「炭」を全国に

今後は多くの企業さんと連携していけたら嬉しいです。スミッチを使っていただくことが、そのままCO2の削減や、SDGs達成に貢献するからということもありますが、炭を通して環境を配慮した行動をしたり、炭から日本の森林を考えていただくきっかけづくりを様々な企業さんと一緒に行ったりすることで、日本全国でより大きな流れを作ることができればと考えています。SDGs達成には、地球にいる一人ひとり、みんなの意識が変わっていくことが必要だと思います。スミッチは毎日の水を飲む行動から誰でもSDGsに取り組むことができる点で、みんなの意識を変え、行動を変え、社会を変える可能性を持っていると考えています。

また、「炭」は森林保全や防災を考えるよい教材になるため、今後は教育にも力を入れていきたいと考えています。

おすすめの本
アンジェラ・ダックワース「やりぬく力:人生のあらゆる成功を決める「究極の能力」を身につける」(ダイヤモンド社)
安宅和人「イシューからはじめよ」(英治出版)

事に取り組む時には論点整理がとても重要なので併せて読むことで学びが深まると思います。

(本の情報:国立国会図書館サーチ)


写真提供=株式会社クジラテラス

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この記事を書いた人

東京大学教育学部卒業後、全国紙の新聞記者として広島総局・姫路支局に勤務し事件事故、高校野球、教育、選挙など幅広い分野を取材。民間企業を経て、2021年に株式会社オーナーを起業し、本教材「探究百科GATEWAY」を開発し編集長を務める。

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