四足歩行ロボットの研究 人とロボットが共生する社会を目指して

接客ロボットなど少しずつ私達の身近なところでロボットが活躍する時代になってきました。今回は国立研究開発法人 建築研究所にて四足歩行ロボットの研究をされている宮内さんにお話を伺いました。

目次

四足歩行ロボットとは

―2024年5月に建築研究所にてプレスリリースされた四足歩行ロボット。ネットニュースにもなり、現在Youtubeなどの動画サイトでもご覧いただけます。四足歩行ロボットとはどういったものなのでしょうか。

災害時に活躍できるロボットの研究を、3社の企業と共同で行っています。今回の公開実験では複数のロボットによって建物調査技術開発というものを行いました。例えば、ロボットが平坦な道ではないところを歩けるか、災害時に荷物を運べるかなどを検証しました。

―災害時に人間が入れないところでロボットが活躍するというのは頼もしいですね。実際の被災現場を模したものを用意するのでしょうか。

タブレットPC内のカメラで撮影している映像にバーチャルな視覚情報を重ねて表示し、寸法測定・位置情報特定・画像のデータ連携などを行うAR技術を開発・利用することで、高度な遠隔調査を可能とする実証実験を行っています。また、通常ロボットは使う際に1台しか使わないことが多いですが、わたしたちの研究では複数のロボットを使い、ロボット同士で作業を行うなど、人と同じような被災調査ができるかの協働作業実験もしています。

大型四足歩行ロボット
小型と大型四足歩行ロボット(夜間ライト点灯)

四足歩行ロボットが生まれるまで

―四足歩行ロボットはどういった経緯で生まれたのでしょうか。

私自身は元々ロボットの研究を行っていたわけではなく、2016年ぐらいからドローンを用いた災害支援を研究し始めました。しかし災害現場は地上ですので、空中を飛行するドローンでは支援が中々難しく、地上でなにかできないかと4足歩行ロボットの研究を始めました。

―世界の離れたところでは戦争に使われているドローンですが、まず災害支援に使おうと動き出されたんですね。

ドローンは元々アメリカで第二次世界大戦のときに始まりました。戦争のために開発されたと言えますね。

四足歩行ロボットができること

―四足歩行ロボットでは具体的にどういったことができるのでしょうか。

歩いて撮影したり、搭載しているタブレットPCを用いて計測したり遠隔操縦で行えます。建築物の損傷状況について計測して、見える部分に限りますが、柱がどれくらい傾いたとか、亀裂の長さがどれくらいかなども測定できます。階段を登ったり、ジャンプしたりもできます。動きに柔軟性があるので回転もできます。

夜間時の大型ロボットによる建物調査

―この建物はもうすぐ壊れそうか、建物に人が入っていいのかなどを判断できるんですね。今後はこういったことができるようにしたいというお考えはありますか。

ロボットの操縦は簡単で誰でも出来るものですが、現在2本のスティックを使用しているので、今後はさらに簡単に、人と同じような感覚で操作できるようにしたいです。映画などの動画制作で聞いたことがあるかもしれませんが、人間の動作をデジタルデータとして取り込み、それをロボットの動作として再現するモーションキャプチャーの技術や、AIを用いたChatGPTなどの新しい技術を取り入れていきたいです。今は技術の進歩が非常に早いので、我々の専門である建築の世界で10年かかるようなことがロボットの世界では大体1年くらいで達成します。1年後どうなるかという予測は非常に難しいので大変です。

―宮内さんの専門は建築ですが、ロボットの研究なので建築分野とロボット分野の技術進歩の違いが大きいんですね。建築の研究者だから建築だけやっていればいいということはなくて、学問や研究はこうして垣根を超えて行われることで新しい技術が次々と生まれてくるのですね。

小型ロボットを荷台に乗せて大型四足歩行ロボットが牽引

博士クイズ

「航空法において、ドローンを飛行させるために許可が必要となる飛行高度は何mでしょうか。

1. 150m
2. 250m
3. 500m

→正解は….1. 150m。

一般的に150m以上をヘリコプターが、そしてさらに上を飛行機が飛んでいます。

そういった有人機との衝突を避けるため、ドローンの飛行は150mまでとなっています。 ちなみに、建築研究所はつくば市の北側にありますが人口集中地区のため航空法に基づいて飛行申請をしなければいけません。

博士の進路 ~現在にいたるまで~

小学生の低学年頃、なんとなく博士になりたいと思っていました。私が住んでいた日立市には日立製作所があり、電気や機械などの産業が盛んです。両親も日立製作所の関係者で、父親は絵を描くことが好きで、よくスケッチをしていたのを私は横から見ていました。また、実家は父の旋盤の工場と隣接しており、父の仕事姿を子どものころからずっと見ていて、モノを作ることへの興味を持つようになりました。

中学ではソフトテニスを三年間、勉強を忘れるくらい頑張っていました。高校では進路希望が定まってきて、大学に進む時には建築学科を希望しました。建築学科を目指す高校生のほとんどはデザイン(意匠設計)を目指します。受験のときもデッサンで自分の手を描いてそれを大学の先生が評価するというのがありました。

しかし、建築意匠は大学の研究室でも人気があり、絵の巧さよりもセンスや才能が評価されるという世界で、努力ではどうにもできないものがあると悟りました。

建築はデザイン以外にも専攻はあり、私は建築物を構成する建築材料の研究室に進むことにしました。子供のころ、父親の姿を見ていてモノを作ることが好きだったことから材料に興味を持ったのかもしれません。

大学での研究

ちょっとマニアックではあるんですが、昔の建物の壁には竹などの材料を縦横に組んで下地を作り、その上に土などで仕上げた小舞壁というものがあります。日本は地震が多い国ですので、地震が発生したときにこの小舞壁はどれくらいの強度があるのかというのを実験で調べました。

小さな試験体を幾つか作って、圧縮する大きな試験機を使って耐震性を調べました。耐震性を調べるには揺らすのではなく、地震に多い横揺れを再現するために圧縮を行います。縦横90cm、幅10cmくらいの大きさで土と竹を色々なパターンで組み合わせて壁を作りました。現代の鉄筋コンクリートを使うものに比べると弱いんですが、コンクリートがなかった時代ではこの竹を使った小舞壁は結構耐震性があったといえます。

現在まで

大学院では屋根の上の防水材についての研究を行い、博士過程から大学の助教へ進み、その後韓国の大学に渡って17年間、建築防水を専門に研究をしました。2014年に今の建築研究所に移動してきて、まだ誰もやっていない研究領域を作りたいと考え、ドローンを取り入れて行うことにしました。それまでドローンと関わる機会はまったくありませんでしたが、これまでの建築材料に取り組んだという基礎、そして韓国でお世話になった先生の考え方を参考にし、まだ世の中に存在しない製品やサービスを生み出し新たな価値を作り出す”ゼロイチ”の取り組みを行いました。

今、大学の客員教授も兼任していますが、学生には私の経験とドローン技術を通してゼロからイチを作るための思考を養うためのヒントを教えています。また、唯一これは自分が考えた、というオンリーワンを大切にするよう伝えています。

読者へのメッセージ

私たちの今の生活や仕事環境は、先人がゼロから時間をかけて作り上げた社会や経験を基に成り立っています。ただ、多くの人はその基礎をもとに恵まれた環境で生活できていることを感じることはなかなかできないと思います。私も韓国に移住するまでは同じ状況でした。しかし、海外に移住し、現地の言葉が話せない、生活や仕事をする場も慣れていない真っ新な環境で、現地の人と同等の生活や仕事をしていく過程で何が重要なのかを見つけることができました。それは時間をかけても自分なりに生きていく手段や、他者と比較をしないオンリーワンという価値観を持てたことであり、さらに、その過程における遣り甲斐は自分を成長させることができました。

そして、“ゼロイチ”の“ゼロ”という世の中に存在しない環境はマイナスには決してならず、成長するしかないことを意味しており、どのような厳しい環境でも前に進むことができました。

一つでも“ゼロイチ体験”をしてみると、その時に新たな自分の発見やアイデアが生まれやすいと思いますので、ぜひ考えてみてはと思います。

【プロフィール】
国立研究開発法人建築研究所 材料研究グループ 上席研究員 宮内博之さん

2003年東京工業大学大学院博士(工学)取得。東京工業大学建築物理研究センター助教、National Research Council Canadaに派遣され、2008年に韓国・忠南大学校建築工学科に異動、副教授となる。2014年より建築研究所に勤務。東京理科大学客員教授、お茶の水女子大学客員教授。日本建築ドローン協会副会長。

FM84.2ラヂオつくばにて毎週月曜22時~22時30分放送中様々な研究所の博士や専門家たちにお話を聞いています。

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Podcast:ラジオ音声無料公開中

番組へのご意見ご感想お待ちしています。

scienceexpress@gmail.com

写真提供=宮内さん


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この記事を書いた人

総合科学研究機構総合科学研究員
サイエンス・エクスプレスMC サイエンスコミュニケーター
気象予報士の資格を持ち、お天気の実験教室などを開催。第11、12回気象文化大賞を受賞。

実験の楽しさや自然の素晴らしさ、災害の恐ろしさ、人類や科学のすごさをみなさんと共有していきたいです。この世界はたくさんの知識に溢れている。学ぶってワクワク。一緒に科学を楽しみましょう!

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