苗と植物ワクチンで農業に貢献

福島県川俣町で、野菜の「苗」の生産や、植物向けのワクチンの開発を行っている「ベルグ福島」。農業には欠かせない「苗」を通じて1次産業に貢献することを目指しています。取締役・農場長の豆塚輝行さんに、どんな取り組みをしているのか伺いました。

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「接ぎ木苗」を作り、ワクチンを開発する

ベルグ福島は福島県川俣町で営利農家向けの野菜の苗の生産や植物向けのワクチンの製造を行っています。野菜の苗はある植物に別の植物をつなぐ「接ぎ木苗」という形で作っています。実はみなさんが食べているきゅうりのほとんどは、カボチャにきゅうりをつなげて作られています。他にも、スイカについてもユウガオに接ぎ木をすることが多いですね。

もともとは苗を接ぎ木することは農家さんがやっていたのですが、農業の規模が大規模になって大量の苗が必要になったり、農家さんが高齢化して細かい作業が大変になったりしたため、この接ぎ木苗については専門の会社が生産することが多くなっており、我々もその会社の一つです。基本的には手作業なので大変さはありますが、熟練した技術を持つメンバーであれば1時間に300本の接ぎ木作業を行うことができます。

接ぎ木苗にすることで病気になりにくくなり、収量が増加するなどのメリットがあります。また、同じ場所で野菜を作り続けているとうまく野菜が育たない「連作障害」というものがあるのですが、接ぎ木苗にすることでこの「連作障害」を防ぐこともできます。

また、植物ワクチンは、植物がウイルス病にかかることを防ぐために打つワクチンです。人間が病気の予防接種のためのワクチンを打つのと同じようなものだ、と考えて頂くといいと思います。植物が一度ウイルス病にかかると、実ができなくなったり、枯れたりしてしまいますので、それを防ぐ仕組みです。「農薬」は例えば植物にウイルスを媒介する虫がつかないようにすることはできますが、ウイルスそのものに効くわけではありません。その点、植物ワクチンはウイルス病そのものに効果を発揮することが可能になっています。

もともと、愛媛県にある「ベルグアース」という会社がその関連会社として福島で「ベルグ福島」を立ち上げました。ベルグアースは野菜の接ぎ木苗の生産では生産量日本一。「アグリビジネス」と言われる農業ビジネスを行っています。きっかけは2011年の東日本大震災後の地元の方からのお声がけでした。ベルグアースの社長が復興に貢献したい」という思いで進出を決めました。町からの大きな期待を感じていますし、町の色々な企業さんと接点を持てることにやりがいを感じています。

福島は「きゅうり」の栽培が非常に盛んです。その点きゅうりのワクチンの開発をしながら、産地の発展に貢献できるのはメリットがあると考えています。須賀川市、伊達市といったきゅうりの名産地にすぐに行くことができることについては、よい点だなと感じています。

私はもともと植物育種に興味があり、大学は農学部に進みました。公務員だった父が育種をしていた影響がありました。就職は植物の種を生産する会社も考えましたが、野菜苗の生産をしているベルグアースに就職をしました。福岡県の出身で、愛媛県で働いていたのですが、2015年に「ベルグ福島」を立ち上げる段階から福島に来ています。

苗づくりの大変さ

苗については、JA(農業協同組合)や種苗店の方からの依頼で生産します。数千本、数万本単位でご依頼を頂いております。最初に注文を頂いてから苗を作るので、その点計画的に生産できるのはよいことだと考えています。一方で、苗を育てる難しさもあります。苗も生き物ですから、太陽があたる時間や天候によって生長が左右されます。日々、よく観察をしなければいけません。人間で例えれば、苗は赤ちゃん。子育てと似ているよね、と言われることもあります。いい苗については農家さんに「嬉しい」と言われますしやりがいを感じています。これは仕事の面白いところです。

「苗半作」という言葉があります。これは「苗の出来によって作柄の半分が決まる」という考え方です。私たちもいい苗を育てて安定的な収穫ができるようにしていきたいと考えています。

「稼げる農業」への転換

「農業で稼ぐのは難しい」というところについては大きな課題ではありますが、1つの苗からたくさんの収穫ができればよいと考えています。接ぎ木苗や植物ワクチンを通じて安定的な収穫ができるようにすることで、そこから利益につなげていきたいと考えていますし、よりよい新商品の開発にも力を入れていきたいと思います。

植物ワクチンの開発については、植物ワクチンの研究開発施設を今年の春から稼働したところです。植物ワクチンの研究では日本一・世界一を目指していきたいと思いますし、植物ワクチンの普及にも取り組んでいきたいと考えています。植物ワクチンについては研究から生産、販売まで一貫して取り組んでいくので、幅広い挑戦ができることにやりがいを感じています。また、地域貢献も進めていきたいと考えています。今は幼稚園や保育園、小学校に苗を提供したり、栽培方法を教えたりしています。

「スマート農業」という言葉もありますが、今後は農業に先端技術が導入されて、より「稼げる農業」への変化が進んでくると思います。面白い分野だと思うのでぜひ就職先の選択肢の1つに入れて頂きたいと考えています。「食」を支えるということはやりがいのある仕事ですので、ぜひ興味を持ってほしいなと考えています。

◆おすすめの本
伊藤羊一「1分で話せ」(SBクリエイティブ)
仕事をするうえで、伝え方が重要であるため

写真提供=ベルグ福島

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この記事を書いた人

東京大学教育学部卒業後、全国紙の新聞記者として広島総局・姫路支局に勤務し事件事故、高校野球、教育、選挙など幅広い分野を取材。民間企業を経て、2021年に株式会社オーナーを起業し、本教材「探究百科GATEWAY」を開発し編集長を務める。

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