データを活用し、人間の「習慣」に迫る

宮城大学事業構想学群教授の太田賢先生は、行動データと習慣化に関する研究を行い、学生とともに社会に貢献するアプリ開発などのプロジェクトの実現に取り組んでいます。もともとNTTドコモで携帯電話サービスの研究開発を行っていた太田先生がなぜ「習慣」に関する研究を行っているのか、探究活動へのアドバイスも含めて、お話をお伺いしました。

目次

ゲームへの興味からIT業界へ

IT業界に進んだきっかけは幼少期にさかのぼります。小学生の頃からゲームが好きで、自然とプログラミングに興味を持ち始めました。小学校6年生の時に手に入れたMSXというパソコンを使って、雑誌に掲載されていたプログラムを写してゲームを作り、プログラミング言語「BASIC」を習得しました。

その後、大学では情報系の学科に進学し、コンピュータサイエンスを学びつつ、独自にゲーム開発に没頭しました。システム、グラフィック、音楽まで一人で制作し、雑誌のコンテストで受賞。この経験が大きな自信となりました。

1990年代半ばに博士課程に進学した頃、はじめて携帯電話を持ちました。当時の携帯電話は今よりもずっと大きく重く、通話機能しかありませんでしたが、「携帯電話の登場で、今までできなかった面白いことができるようになる」と直感しました。この思いから通信業界で働きたいと考え、1999年にNTTドコモに研究職として入社しました。ちょうどこの年、NTTドコモが世界初のモバイルインターネットサービス「iモード」を発表し、携帯電話でインターネットを利用できる時代が幕を開けました。

このように、ゲームへの興味、大学でのゲーム開発経験、そしてモバイルコンピューティングへの関心が、現在の私のキャリアにつながっています。

行動データから習慣化への興味

NTTドコモでは、携帯電話端末のシステムソフトウェアの研究に加え、携帯電話から得られる行動データを活用して「らくらくホン」というシニア向け携帯電話で利用できる見守りサービスを開発しました。朝に携帯電話が開閉されれば元気に起きていること、歩数が増えれば外出していることが分かり、家族に安心とコミュニケーションのきっかけを提供します。

また、ショッピングモール向けの行動データ分析システムを開発し、クーポン配信の最適化や宝探しゲームによるモール内の回遊促進効果の検証などの実験を行い、効果的なデジタルマーケティング手法を研究しました。

これらの行動データの分析経験から、人の行動パターンの背後にある心理と行動変容のメカニズムに魅了されました。なぜやりたい行動は「三日坊主」で続かず、やめたい行動はなかなか断ち切れないのか—この疑問が「習慣化デザイン」の研究へと発展しました。NTTドコモでのAIサービス開発とデータ活用人材の育成経験を活かし、2023年に宮城大学へ転身し、研究と教育に力を入れています。

太田研究室のHP

「習慣化デザイン」の研究

大学では、「一人ひとりに寄り添う習慣化デザイン」をビジョンに掲げ、デジタル技術とデータを活用して人々の行動変容を支援する研究開発に取り組んでいます。学生たちは、学習や運動、楽器練習などの日常的な習慣形成をテーマにした実践プロジェクトを通じて技術を向上させ、人間の習慣の理解を深めています。さらに、アプリやビジネスのコンテストに積極的に参加し、チームでの企画力や提案スキルを磨いています。

また、東北地方の豊かな祭り文化を活かし、AI・ビッグデータを用いた研究で地域活性化に取り組んでいます。祭りへの参加を促す行動変容を探り、地域住民の関与を高めることで、伝統文化の継承とコミュニティの強化を目指しています。

宮城大学で8月8日に開催された高校生向け「アカデミック・インターンシップ」では、「データを活用する情報サービスのデザイン」をテーマに約30人に講義を行いました。8月は東北地方の夏祭りシーズンで、この日はちょうど仙台の七夕祭りの最終日。祭りの熱気溢れる時期に、タイムリーな講義を行うことができました。

最初に、仙台5大祭りと東北6大祭りについての認知度や参加経験に関するアンケートをその場で実施し、高校生の回答をリアルタイムでデータ化し、ダッシュボードに表示しました。続いて、グループでこのデータから読み取れる傾向について考察しました。高校生からは「同じ仙台市内でも祭りの知名度には差がある」「宮城県外の祭りは認知度が低い」といった意見が出されました。

次に高校生に「SNSの担当者だったら、どのような情報をどのタイミングで発信するか」を考えてもらいました。研究室の大学生の分析では、祭りのSNS発信内容はおおむね共通していて主に①開催の「お知らせ」、②出演者やボランティアの「募集」、③当日の様子の発信が一般的でした。「出演者の発表」や「祭り後最初の挨拶」などの投稿が多くのリアクションを得ており、ユーザーの注目を集めていることが分かりました。

高校生からは、「お祭りをめぐるおすすめのルート」、「写真映えするフォトスポットを作って紹介」、「屋台一覧」、「祭り練習の様子の動画」、「過去のダイジェスト動画」、「祭りの豆知識」、「混雑状況を表示させる」、などのアイデアが出ました。高校生の皆さんもSNSに触れる機会は多いと思いますが、投稿者は「見てほしい」「このURLをクリックしてほしい」という意図を持って発信しています。この視点を持つことで、より面白く「情報」に接することができるはずです。

また、祭り会場周辺の人口データの分析についても紹介しました。携帯電話の位置情報を使って人口を推計するNTTドコモの「モバイル空間統計」を用いて、祭り開催時と平日の1時間ごとの人口変動や、性年代構成の違いを見てもらいました。これらの詳細な情報は、太田研究室の「祭りデザインラボ」というウェブサイトで公開していますので、ぜひご覧ください。

探究活動を効果的に進めるためのアドバイス

探究活動を効果的に進めるためのアドバイスは2つあります。1つ目は、私たちの研究テーマでもある習慣化です。例えば、毎日5分だけでも興味のある分野の記事を1つ読む、または関連する用語を3つ調べるといった小さな行動を習慣として取り入れると良いでしょう。日々の小さな取り組みが、探究の深さや興味の範囲を徐々に広げてくれます。

次に、デジタルツールの活用です。スマートフォンやタブレットを使って、探究活動を日常的に記録することをお勧めします。例えば、メモアプリや日記アプリに思いついた疑問や気づきを記録しておくと、後で振り返った際に新たな発見があるかもしれません。デジタルツールを活用して記録と振り返りを行うことで、探究の方向性を見直し、さらに深めることができます。

仮説検証など、探究学習で培われる能力は、大学での研究や職場でのプロジェクト推進に不可欠です。ぜひ良い学びになることを願っています。

おすすめの本
幸せがずっと続く12の行動習慣 

この本は、短期的な幸福ではなく、長期的な幸福感を維持するための具体的な行動習慣に焦点を当てています。12の具体的な習慣が紹介されており、これらを実践することでより良い生活を送るための指針が得られます。たとえば、感謝の気持ちを表現したり、良好な人間関係を築くこと、趣味など熱中できる活動を見つけること。目標設定も幸福感を高める要因の一つとされています。これらの習慣を若い時期から身につけることで成長や幸福感につながると考えられます。

習慣は普段あまり意識しないものですが、気づきから始まり、少しずつ変えていくことで健康や目標達成にもプラスになります。たとえば、内面や身体を大切にする習慣は、心身両面にポジティブな影響を与えます。たとえば、内面や身体を大切にする習慣は、心身両面にポジティブな影響を与えます。習慣化に関する書籍は研究室のHPでも紹介しているので、ぜひ見てみてください。 

(本の情報:国立国会図書館サーチ) 


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この記事を書いた人

探究百科GATEWAYの編集部です。高校生の「探究」に役立つ情報や探究分野の解説、探究の方法について発信します。

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