誰がどこに行っても地域への想いを形にできる世界を目指す

「NPO法人きっかけ食堂」の事務局長を務める弘田光聖さん。3月11日に発災した東日本大震災を伝えるため、毎月11日に全国各地で東北の食を味わえるイベントを企画しています。

なぜ高知県の出身でありながら東北への支援に力を注ぐのか。そして今後どんな展望を持っているのか。地方と都市の間の関係人口を増やすために価値を発揮したいという弘田さんのストーリーをぜひお聞きください。

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東北の復興支援のきっかけ

私がきっかけ食堂などの東北の復興支援活動を始めたきっかけは、高校時代に被災地ボランティアのプログラムに参加したことでした。私が高校1年生の時に東日本大震災が発生。当時高知県に住んでいましたが、テレビで莫大な被害を見て、自分も何かしたいと漠然と思うようになりました。

夏休みに入る前、学校の掲示板で高知県が主催する被災地ボランティアのプログラムを見つけました。県内の高校生が夏休みを利用して被災地を訪れ、ボランティアや語り部を育成するというプログラムです。部活を4日間も休むことになりますし、友達から「真面目」と言われそうでためらいもありましたが、思い切って参加することにしました。プログラムでは、宮城県石巻市、東松島市を訪問し、仮設住宅での復興イベントの手伝いをしたり、語り部の話を聞いたりしました。

参加して感じたのは、「震災から半年も経っているのに全然復興が進んでいない」ということ。被害の大きさと自分ができることが限られているというギャップを感じて、とてもショックを受けました。それでも心に残ったのは、語り部のおじさんから「あなたができることは、身近な人に伝えることだよ」と言われたことです。

高知県に帰ってからは自分にできることを考えました。そこで思いついたのは、自分が東北で経験してきたボランティアの紹介や災害や防災に関するクイズを作成し、全クラスの掲示板に掲示すること。心無い言葉を言われたり、はがされたりすることもありました。それでも「いい学びをしてきたね。話を聞かせてほしい」という友達も何人かいて、やってよかったなと感じました。これら経験から、せっかくなら災害や防災のことをもっと学びたいと関西大学社会安全学部へ進学しました。

大学進学後は、精力的にボランティア活動を行いました。東北にボランティアを送り込むボランティアバスの団体運営をしたり、ボランティアバス団体同士の横のつながりを作ろうと、復興支援をしている学生たちが連携するためのネットワーク団体を設立したりしました。

その頃、ボランティアバスの活動を一緒にしていた友人が学生団体「きっかけ食堂」を立ち上げました。きっかけ食堂とは、毎月11日に東北の食材を使った料理やお酒を提供する食堂。私も立ち上げメンバーとして誘ってもらいましたが、当時は自分が設立した団体の運営があったのでメンバーにはならず、一番近くで応援していました。

大学を卒業し、社会人1年目が終わろうとしている頃、その友人から一本の連絡がありました。「引き継いだ代表が大学を卒業してしまうと後継ぎがいなくなる。団体を残したいから運営を手伝ってほしい」とのこと。この頃、西日本を拠点に東北の復興支援を継続している団体は珍しいと、きっかけ食堂は数々の表彰を受けていました。私は「こんなに評価されている団体なのに、なくしてしまうのはもったいない」。いずれNPOなどのソーシャルビジネスで起業をしたいと思っていたので、「きっかけ食堂を通じて起業にチャレンジさせてほしい」と返事をしました。それから急ピッチで仲間を集め、体制を整えていきました。

震災、東北に関わるきっかけ作り

「きっかけ食堂」とは、東日本大震災の復興支援として設立された団体です。震災の風化が進む中、被災地で「震災を忘れないでほしい」という声があったことから始まりました。毎月11日に東北の食材を使った料理やお酒を提供する食堂を京都でオープンし、月に1日だけでも東北や震災について考える「きっかけ」をつくりたいと、2014年5月に立命館大学の学生3人が立ち上げました。

私がきっかけ食堂のメンバーになってからは、京都だけでなく東京、名古屋にも拠点ができました。そのほか、各地でやりたいという声や、自治体から仕事の依頼も来るようになり、仕事も仲間も増えていきました。世の中に価値を発揮できそうだと確信した私たちは、2020年2月にNPO法人化、私は事務局長に就任しました。

きっかけ食堂の運営を続けていく中で、課題を感じるようになりました。東北には岩手、宮城、福島に「ヒト・モノ・カネ」が継続的に流れていないという課題が、都市には移住ではない、地域との多様な関わりが用意できていない、という課題があることです。

そこで私たちは、「誰もがどこにいても、地域への想いをカタチにできる世界を作る」というビジョンを掲げました。その世界を達成するため、「想い×コミュニティで、人と地域の関係性をデザインする」をミッションに再始動。現在は、食堂事業に加えて、関係人口増加事業の2本軸で行なっています。きっかけ食堂で東北のご飯を食べること以外にも、実際に行ってみるツアーやイベントブース出店など、関係人口づくりなど東北に関わるきっかけを多くの関係者と共につくっています。

今後の展望

きっかけ食堂としての今後の展望は、ビジョン・ミッションでも掲げたように、都市と東北の間に入ってお互いがWin-Winになるよう、コーディネートする団体として価値を発揮していくことです。そのために、団体として事業や活動の仕組みをしっかりつくり、誰がどこに行っても地域への想いを形にできる世界を目指していきたいです。

また、私自身の今後の展望は、好奇心旺盛な性格なので、特定の地域だけではなく自由に好きな地域と繋がり続けて、好きな地域を、好きなコミュニティを増やしていきたいです。だから、きっかけ食堂の事業を広げていくことは自分のためにもなるのです。

おすすめの本
マイケル・サンデル「これからの「正義」の話をしよう: いまを生き延びるための哲学 」(早川書房)

1人を殺せば5人が助かる状況があったとしたら、あなたはその1人を殺すべきか?
正解がない社会の中で自分で考えるきっかけを与えてくれる一冊。高校3年生の時に読み、世の中に正解はないのだと気付かされ、感銘を受けました。

本の情報:国立国会図書館リサーチ

写真提供=弘田さん

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この記事を書いた人

東日本大震災で被災し、高校・大学時代は「地方創生」「教育」分野の活動に参画。民間企業で東北の地方創生事業に携わったのち、2022年に岩手県宮古市にUターン。NPO職員の傍ら地元タウン誌等ライター活動を行う。これまで首長や起業家、地域のキーパーソン、地域の話題などを幅広く取材。

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