サッカーとアートをつなぐ「創造性」

芸術的思考や創造性(クリエイティビティ)を広げる会社を22歳で起業したストット玲奈さん。中学生のころからサッカーに打ち込み、日本とアメリカ両方でサッカーを経験してきました。スポーツに打ち込んできたストットさんがなぜ今アートの道に進んだのか。「アート」と「サッカー」をつなぐものについて、お話を伺いました。

目次

日本とアメリカで感じたサッカーの違い

神奈川県出身で、中学・高校は東京の学校でサッカーに打ち込んでいました。通っていた高校は東京都でベスト4~8に入るくらいでそこそこ強い学校でした。もっとうまくなりたいと思って、クラブチームに入ってプレーしていたこともあります。東北にも遠征で試合をしに来ていました。

その後、一度日本の大学に入り、大学1年生の時にアメリカとマレーシアに短期留学。そこで、多様な働き方があることや人生の決まりきったレールなどないということを知りました。価値観が変わった私は苦手だった英語を猛勉強して、アメリカのコミュニティ・カレッジ(短大)に入り直しました。

コミュニティ・カレッジでも経済について学びつつ、サッカー部に所属していました。そこで感じたのは、日本とアメリカのスポーツに対する考え方の違いでした。

アメリカのスポーツ選手は、まず勉強が第一。成績が悪いとスポーツをしてはいけないというルールでした。プレーがうまい選手が、「成績が悪いから」という理由で試合に出られない。「上手ければいい」というわけではないのです。

アメリカでのサッカーはとても楽しかったです。フォワード(攻撃側)の選手だったんですが、点を決めたり、いいプレーをしたりするとみんな喜んでくれる。逆に、ミスは気にしない。私がミスをしても、チームメイトもコーチも、「OK、次、次」と気にする様子がありませんでした。そして試合にはペンチに入っているメンバーみんなが出場していました。

日本で部活をしていた時は「勝つこと」ばかりを考えていましたが、アメリカの人たちは純粋にスポーツを楽しんでいると感じました。そして自分自身も主将としてチームをまとめ、アメリカの大学女子サッカーベスト22人に選んでもらうことができました。

「好き」を突き詰める

その後帰国して2021年に23歳の時に「COLOR IN LIFE」という会社を起業しました。この会社では「アート」の芸術的な思考法を使って、創造性(クリエイティビティ)を豊かにする仕掛けを作っています。

たぶん皆さんは「サッカー」から「アート」に話題が一気に変わったので、なんでだろう?と思ったと思いますが、私にとってのサッカーの楽しさは、「創造性」を発揮することでした。私はフォワードの選手でしたが、サッカーで一番楽しかったのは、ドリブルをして、相手の選手を交わして抜き去ることでした。例えば、相手が思っていることの逆をついたり、相手が思ってもみなかったプレーをしてみたり。トリッキーで面白い技を出すのが得意でした。サッカーというよりも、「ボール遊び」が好きでした。

日本とアメリカで打ち込んだサッカーの経験を振り返って、自分は「創造性を発揮すること」が好きなのだと気づくことができました。だからこそ、その「好き」を突き詰めて、自分自身もアーティストとして活動していきたいと考えました。実はアートについても子どものころから親しみがあり、祖父が画家だったり、自分で絵をかいてみたり、学生時代に美術館に行ったりと美術にも親しんできました。

また、自分がアーティストとして活動しつつ、収入を得ていくために、今は会社を立ち上げて、アートの考え方を誰もが気軽に考えられるコンテンツを作っています。例えばこういうカレンダーを作って、毎日10分、クリエイティブな思想をする時間を取れるようなコンテンツを企業の方向けに提供しています。

このカレンダーには1日ずつ、「エレベーターを使わずに5階まで楽しく上がる方法を10個以上考えてください」とか「落ちた紙をかっこよく拾う方法を10個以上考えてみてください」などの「問い」が書かれています。「問い」は本や芸術大学の入試問題を見て考えました。

     この問いを社員の方に言葉や絵で答えてもらい、2か月間続けることで、クリエイティブな思考の習慣を身に着けられるような仕掛けにしています。社員の方からは「習慣にしていけば新しいものの見方ができるようになるかも」、「自由な発想で考えられるのは子供の時以来。働いてその感覚を忘れていたが思い出せた」というお声を頂いています。

回答するアイデアが1個、2個なら簡単ですが、5個、10個と言われると結構大変です。そうやって脳をフル回転させることで、創造性が生まれていきます。そして頭を使って10個目、11個目にようやく面白いアイデアが浮かぶこともあります。一見、何に役立つの?と思うかもしれませんが、物事を考えるときにはこのようなアートの考え方を大切にすることで新しいことが生み出されると考えています。

どういう人間になりたいか

「何になりたいか」よりも「どういう人間になりたいか」をぜひ考えてほしいと思います。

実は高校時代は本気でプロサッカー選手になろうと考えていました。でも県外のチームと対戦してみると全く歯が立たず、「こんなにうまい人がいるんだ」と力の差を感じました。私は中学校からサッカーを始めたのですが幼稚園・小学校の時からサッカーをしている子にはかなわなかった。サッカー選手になれないな、と思った時には大きな喪失感を感じました。

じゃあ大学でもスポーツのことを学んで将来は体育の先生になろうかと思っていたのですが、経済やビジネスを学ぶことになり、そこからアメリカの大学への進学につながりました。職業として何になるか、よりも、どんな人間になるかを考える。そうすると、もしその職業につけなかったとしても、必ず次につながると思います。

私はこの経験から、「選んだ道を正解にする」という考え方を学びました。「何が正解か」を考えると、正しい道を選ぼうとして思い悩んでしまいますが、「選んだ道を正解にする」と思った方が楽だったりします。そして、たとえ苦手なことをやってみたとしても点と点がつながって後々生きてくることもある。人生には無駄がないと思って、色々なことをやってみてほしいと思います。

おすすめの本
ロルフ・ドベリ「Think clearly最新の学術研究から導いた、よりよい人生を送るための思考法」(サンマーク出版)

人生がうまくいく可能性を高める52の思考法が書いている一冊。とても読みやすく、長く使えるような考え方が事例とともに書いてある。

写真提供=ストットさん

よかったらシェアしてね!
  • URLをコピーしました!
  • URLをコピーしました!

この記事を書いた人

東京大学教育学部卒業後、全国紙の新聞記者として広島総局・姫路支局に勤務し事件事故、高校野球、教育、選挙など幅広い分野を取材。民間企業を経て、2021年に株式会社オーナーを起業し、本教材「探究百科GATEWAY」を開発し編集長を務める。

目次