「サッカー支援プログラム」ですべての人にサッカーを届ける

仙台市にある株式会社ゼンシンの前田忠嗣さんは、サッカーを通じて障がいのある子どもたちの運動能力や社会性を育てる事業を自ら起業し行ってきました。なぜサッカーを通じた障がい児の支援を行おうと考えたのか、そのきっかけや今後の目標を伺いました。

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すべての子どもたちにサッカーを

私は北海道の出身で、大学卒業後学習塾で働いていました。その後25歳の時に自分で学習塾を始めました。最初は塾をやっていて順調に売り上げを伸ばしていたのですが、一緒に働くメンバーがどんどん離職していき、うまく組織を作れませんでした。理由は経営理念(目標)がないまま会社を経営していたからでした。そこから月に10冊本を読もうと決めて、経営の本や経営者の伝記を読んだり、勉強をし直しました。年間200冊くらい本を読んだ年もありました。

そんな時、2002年に日本でサッカーのワールドカップが開催されることになっていました。今ならサッカーも盛り上がるんじゃないか?と考えて、サッカー教室を試しにやってみました。今でも忘れられない、1999年4月29日のことでした。ものすごい雨の日に子どもたちが集まってくれたのです。そこから「アバンツァーレジュニアサッカークラブ」というサッカースクールを始めることにしました。主に仙台、山形、福島を拠点に小中学生を指導し、全国大会にも出場を重ねてきました。

転機となったのが、2011年の東日本大震災です。当時福島市や郡山市でサッカースクールを開いていたのですが、福島第一原発の事故の影響で子どもたちが県外に避難し、チームの人数が200人から50人くらいに激減してしまいました。そこで、「ただ利益を上げるだけではいけないな」と会社を経営することに対する考え方が変わりました。

そのころ、自分の姉が視覚障がい者だったこともあり、名刺に点字を入れる点字加工を知っていたので、視覚障がいのある方に名刺に点字加工していただこうと思いました。視覚支援学校の先生にご紹介いただいた少女に点字加工をお願いしました。

そのことをきっかけに、私たちは障がいに関する勉強会を始めました。すると知的障がいに関する勉強会の席で、サッカースクールのコーチが、「こういう子、うちのクラブに来ています」と話したのです。聞くとサッカースクールにも知的障がいを抱えた子がおり、だんだん周囲とのコミュニケーションがうまくいかなくなってサッカーをやめてしまうということを知ったのです。

それならば、すべての子どもたちに安心安全な環境でサッカーを楽しめる場を作りたいと2014年に始めたのが、障がいを持つ子どもたち向けの「サッカー支援プログラム」です。

サッカー支援プログラムの価値を伝える

 「サッカー支援プログラム」では小学生~高校生年代の障がいを持つ子どもたちを預かり、サッカーや運動を通した運動機能の向上を目指しています。今は宮城県や沖縄県などに拠点があり、「放課後等デイサービス」という国の福祉サービスの制度を活用しています。保育士や教員免許を持った方々が指導員として子どもたちと遊んだり体を動かしたりしています。

 実際にやってみると、最初は周囲に溶け込めず1人だけでボールを蹴っていた子供が、丁寧に指導すると、友達にパスができるようになった。さらに、友人と一緒に喜んだりハイタッチをしたりするようになっていきました。これには私も指導者も驚きました。サッカーを行い、体を動かすことが、コミュニケーション能力などの「社会性」が育つんじゃないか?という気づきがありました。

 私たちは、その効果をちゃんとデータで裏付けたかったんですね。そこで東北大学教授で発達心理学の専門家である本郷一夫氏に助言を頂きながら研究を進めたところ、サッカー支援プログラムの利用が増えれば、運動機能が発達しやすく、社会性も発達しやすいという結果を得ることができました。この結果を分析し、令和3年度から日本発達支援学会でその効果を発表しています。他にもサッカー療育をしている施設はありますが、データで裏付けることができたので、子どもたちや保護者の方にも私たちのサッカー支援プログラムの価値を伝えることができたと思います。

 現在もサッカー支援プログラムとサッカースクールの運営を行っており、将来は47都道府県の子どもたちにサービスを届け、子どもたちに夢と希望を届けたいと考えています。仙台市が認定する「仙台未来創造企業」にも選ばれており、将来は1000億円の売り上げを目指しています。それくらいやって初めて、福祉の制度を作っている方々に意見を言えるようになると考えています。

続けることの大切さ

 1度やったことはぜひ続けてみてください。私は、掃除をずっと続けてきました。NPO法人「日本を美しくする会」という活動があります。カー用品を扱っているイエローハットという会社の創業者の鍵山さんという方が始めた、トイレをピカピカに磨く活動です。

その会の活動に偶然参加してトイレ掃除をしてみたら、自分の心も磨かれるような体験を得ることができました。これをきっかけにして自分の会社のトイレ掃除を2006年から続けてきました。今も会社に来たら、必ず掃除をしています。朝7時ごろには出社して、社員が来る前に掃除をします。「みんなに気持ちいい環境の中で仕事をしてほしい」という思いでやっています。

ちょっとやっただけでは、行動は変わりません。でも17年間続けてみると、自然に日々の行動に現れてきて、「美しく生きる」ことができるようになります。

「頼まれごとは試されごと」だと思っています。人に何かを頼まれたら、基本的には断りません。そして全力を尽くす。頼まれたらそれはチャンス。運が開ける機会だと思います。みなさんも頼まれたらできる限りやってみた方がいいと思います。

 「人間万事塞翁が馬」ということわざがありますが、人間、いい時もあれば悪い時もある。みなさんも生きるのは自分の人生。誰かの人生ではなく、「自分の人生」を生きてほしいと思います。

おすすめの本
ミヒャエル・エンデ「モモ」(岩波書店)
どこに価値観を置いて生きるか?を考えさせられる一冊。

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この記事を書いた人

東京大学教育学部卒業後、全国紙の新聞記者として広島総局・姫路支局に勤務し事件事故、高校野球、教育、選挙など幅広い分野を取材。民間企業を経て、2021年に株式会社オーナーを起業し、本教材「探究百科GATEWAY」を開発し編集長を務める。

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