建物や道路など身近な建設物に使われているコンクリート。
「コンクリートって何?」
「どうして研究者になったの?」
土木研究所にてダムやコンクリートの研究をされている片平さんにお話を伺いました。
コンクリートの基礎知識
コンクリートは、石、砂、水、セメントの4つの材料を合わせてできています。石と砂で大部分を占めます。セメントはよくコンクリートと同じに思われがちですが、接着剤の役割を果たしていて、石と砂を型枠の中に入れてその隙間を水とセメントでくっつけています。コンクリートとは、人工で造る石のようなものですね。
-コンクリートは100%国内生産って本当なのですか?
まずはコンクリートの原料の一つ、セメントの成り立ちからお話ししましょう。すごく簡単に言うと、石灰石に粘土を混ぜて熱い釜で焼くとセメントの元ができます。石灰石は大昔のアンモナイトや三葉虫みたいな生き物が固まってできたカルシウムの石です。人間の骨と一緒で大昔の生き物たちの骨格や殻もカルシウムでできていました。これらが日本になぜあるかというと、日本がどうしてできたか、という話になります。
大昔の太平洋、アンモナイトや三葉虫などの海の生物が大発生してその死骸が海の底にたくさん降り積もりました。その後、大陸が少しずつ移動して、アメリカ大陸が少しずつ日本に近づいています。その分太平洋が狭くなってきていて、太平洋のプレートが日本海溝に沈み込んでいます。その沈み込みがプツンと戻るときに地震が起きると言われていて、聞いた事がある人は多いでしょう。そして大昔の生物たちの死骸も日本海溝にずり込んでいくのですが、大きなものは沈み込めなくて海溝を通り越して日本列島に積み重なり、日本は成長して今の形になったと言われています。これを付加体(ふかたい)というのですが、海の底にあった海の生き物の死骸がたくさん降り積もったもので、それが石灰石です。このため世界的にもとても純度の高い石灰石が日本のいたるところで採ることができるのです。
ほとんど資源のない日本ですが、セメントの原材料、石も砂も色々工夫しながら国内で取っていて、コンクリートはほぼ100%国内生産ができています。
-砂や石はその辺に落ちているのが当たり前という感覚でしたが、実はとても恵まれていることなんですね。コンクリートのお話から、日本列島の成り立ちの話に繋がるなんて面白いです。
ラジオ収録での片平さん
これまでの研究の歩み
ー40年以上研究してきているので、色々な研究をしてきましたが、今日はその一つを紹介します。
コンクリートは石、砂、セメント、水でできていると先ほどお話ししました。コンクリート工場で練り混ぜて出荷しています。材料を量るときの変動が大きいのが水なんです。水の量が多くなるとセメントが薄まってしまうので弱くなってしまいます。なるべく少ないほうがいいです。コンクリートの配合計画書というものがあってそれに合うようにきちんと材料を量ってコンクリートを練るのですが、水だけは単純に水だけを量ればいいわけではありません。砂を造るときに水で洗うのですが、そのときに砂の表面に水がくっつきます。砂の表面にどれだけ水がついているか予測して、その分だけ後から入れる水の量を減らさないといけません。しかしその砂の表面についている水の量を正確に測るのが、なかなか難しいんです。
-水の量が多かったり少なかったりするとコンクリートの状態が安定しないのですね。
例えば、コンクリートを電子レンジに入れると水は蒸発して乾いた分を差し引くと蒸発した水の量が分かります。その他もRIというレントゲンみたいなものを使う方法などが当時はありました。1回の測定が2万円くらいするため、とてもコストがかかります。
水は石やセメントに比べると軽いため、水が多いとコンクリート自体が軽くなります。そこで、コンクリートの容積あたりの重さを厳密に測ればコンクリートに含まれる水の量がわかると言う理屈で考えました。
コンクリートの中の空気の量を測るエアメータというお釜みたいな機械があり、コンクリートをつめて蓋をして、蓋の上に空気室があって、そこに自転車の空気入れみたいのがついています。空気室の圧力をあげて、コンクリートを詰めたお釜の中に圧力を放出します。空気が多いとコンクリートがたくさんへこみ、その分、圧力が下がる、空気がないとへこまないから圧力が下がらない、というものです。エアメータはコンクリート屋さんが毎日当たり前に使っているものです。
あらかじめお釜の容積を測定しておいて、そこから空気量を差し引くとコンクリートの正確な容積が分かります。あとは重さを測ってあげれば、決められた容積あたりのコンクリートの重さが正確にわかります。そうすれば、水の量も推定することができます。
ー空気を量るのは当たり前だったけど、そこから水の量を推定するを量るののは当たり前ではなかった。
やり方自体は過去にも少し検討されていたのですが、あまり注目されていませんでした。私はエアメータ法の測定精度を確認して実用化のためにマニュアルや検査の基準などを作って整備しました。
一番のメリットはお金がかからないこと。一回1200円程度で出来ます。全国では1年間に約2万回検査を行うので、単純に計算すると年間約4億円が節約できているということになります。そういう研究に携われたというのは自分としても嬉しく思います。今ではエアメータを使って検査するのが当たり前の時代になりました。
-研究の功績って大きいですよね。多くの人の役に立つことができるというのは研究の目的でもあり、やりがいでもありますね。
コンクリート研究の未来
魚がわかりやすい例ですが、魚って別に値段がついているわけではなく獲ったもの勝ち、獲った人のものになります。コンクリートに使う砂や石も一緒です。もともとは無料。規制する法律も最初はありませんでした。砂浜がなくなってしまったり、環境破壊が進んで災害が起こり、規制が進みましたが、お金になるから守らない人が多い国も多いようです。詳しくは下記でご紹介した本がお勧めです。
日本では、高度成長期にとりすぎて、もう砂がとれないところが多くあります。現在は岩を砕いて石や砂を作っています。天然のものに比べて角張っているので、練るときに薬を使ったりしてなるべくなめらかなコンクリートを作ろうと工夫しています。薬は製紙工場で紙を作るときに不要になった樹液をコンクリートに混ぜるといい薬になります。セメントの製造では火力発電所やごみ焼却場で出た灰などもうまくリサイクルしていて、セメントの約半分はゴミからできていると言われています。
コンクリートの材料は、運送費もかかるので近くで採れるものを利用するのが理想です。しかし、これから先、地域によって差はありますが、砂や石もだんだんいいものがなくなってきます。どこまでの品質のものをうまく使えるか、また、ほかの産業から出たゴミをコンクリートにどううまく使っていくか、二酸化炭素の削減にどう対処するのか、そういったところに研究がシフトしていくのかな、と思います。
土木の道に進み、ダムの現場も経験
父親は米農家をやりながら地元の小さな建設会社で日雇いで働いていました。兄がいて、高校のときに土木を少し勉強しておけば農家以外の時間で役にたつかなと工業高校の土木科に進みました。その頃の自分は小学生で、橋やダムの写真を見てすごくかっこよく見えたことを覚えています。こどもの頃はプラモデルが大好きでした。プラモを買って作って遊んで、ものづくりが大好きでした。兄が製図台で図面を書いているのをみて、“かっこいいな自分もやりたい”と思い、中学の頃には自分も土木をやると言っていました。工業高校の土木科に進み、学校の先生から頑張れば公務員試験に受かるかもと言われ受けたら無事に合格。その年、土木研究所(土研)が東京からつくばに移転してきた年で、多量採用の年にまぎれて入れたのだと思います。
入ったものの、配属がダム構造研究室というところで、地震の解析をやっていました。地震の波をコンピュータで解析して、スペクトル解析やら、フーリエ変換、応答スペクトルと、わけが分からない単語がとびかっていて大変困りました。入って3ヶ月くらいは、いつ辞めようかという状況でした。
ある時、上司から、ダムは硬い岩(岩盤)の上に造るのですが、どのダムでも多少なりとも悪い部分があって、その処理をどうやったかの事例集をつくるよう指示されました。10箇所くらいのダムを調べて、当時はパソコンなどありませんでしたから、レポート用紙に手書きでまとめたところ、上司から「よくまとまっている」とほめられ、土研の資料として採用されました。がんばったら一つのかたちになると実感し、それから10年以上ダムをやってきて、ダムの現場事務所に行き、土研に戻って、40年以上研究を続けてきました。
いっぱい失敗してほしい。いっぱい失敗していっぱい怒られてほしい。若いからこそ、失敗から学ぶことができます。社会人になって初めて失敗すると、どう対応していいかわからない。それで社会人になって失敗して怒られると、嫌になって辞めちゃう、ノイローゼになっちゃう、ウツになって仕事に来れなくなっちゃう、そういう人を研究所で何人も見てきました。しぶとさが足りないのかもしれません。
しぶとさを身につけるためにはいっぱい失敗して、「あー、だめだった」じゃなくて、なんで失敗したのかを考えて下さい。それが成功に向けての大きな一歩になります。何回も失敗すれば必ず最後に成功します。その経験が社会に出て必ず役に立ちます。逆にその経験がないと社会人になって役に立ちません。40数年間、社会人やってきたおじさんからのメッセージです・。
石 弘之「砂戦争 知られざる資源争奪戦」(角川新書)
私も今、勉強中です。今、世界は大変なことになっているみたいです。砂って川でつくられるんですよ。山が崩れて、それが水で流される間に角が取れてだんだん丸くなって砂ができます。すべての川から供給される砂の2倍以上を人類は消費しています。埋め立てやコンクリートなどに使われています。中国やインドなど人口が増えているところ、人が住むために効率よく集合住宅をたくさん作らなくちゃいけない、そうするとコンクリートが必要になってきます。自分の国だけでは足りないので世界のいたるところで砂の争奪戦がおこっているという本です。
(本の情報:国立国会図書館サーチ)
ゲスト
【プロフィール】
国立研究開発法人土木研究所
先端材料資源研究センター 特任研究員
片平 博さん
土浦工業高校土木科卒
建設省土木研究所 ダム構造研究室
建設省関東地方建設局 宮ケ瀬ダム工事事務所
土木研究所 企画部情報資料
土木研究所 コンクリート研究室
(組織改編により現所属)
出前講座「アッと驚くコンクリート面白話し」などを実施中
趣味は和太鼓を作ることと演奏すること、演奏活動も精力的に実施中
サイエンス・エクスプレス
FM84.2ラヂオつくばにて毎週月曜22時~22時30分放送中様々な研究所の博士や専門家たちにお話を聞いています。
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写真提供=片平さん