河川防災の研究

国土技術政策総合研究所にて河川に関する研究をされている土屋さん。
河川の氾濫による被害を少なくするため、どんな研究をされているのか、お話を伺いました。
雨雲の流れを教えてくれるレーダ画像。無料でみんなが見ることができる便利な情報は、研究者たちの努力が背景にあります。

目次

短時間の大雨を予測する

 私が所属する国土技術政策総合研究所(国総研)は、国土交通省の研究所で、国交省の政策に関わる様々な調査・研究・技術開発をしています。具体的には、例えば、道路や河川、下水道、空港、港湾、住宅といった豊かで安全・安心な暮らしを支える多くの分野の研究が行われています。その中で私は河川に関する研究を行う「河川研究部」の「水循環研究室」というところに所属し、豪雨監視の高度化ということで、短時間に非常に強い雨が降るいわゆる「ゲリラ豪雨」のような雨をとらえることを目的として、(当時)最新の気象レーダを整備して、一般の方々へその情報を配信するという仕事に携わりました。その中で、どのようにレーダを配置して動かしたら目的に沿った観測ができるか、レーダで得られたデータからどのような計算式で処理を行えば精度良く雨が測れるのか、といった研究をおこなってきました。

現在、この豪雨監視の情報は、国土交通省の「川の防災情報」というWebページで、「XRAIN(エックスレイン)」と呼ばれるレーダ雨量情報として広く一般の皆さんにも配信されていますが、これには私の研究成果が反映されています。

-レーダの配備とその情報配信、土屋さんが今まで行ってきた研究が防災情報としてみんな役に立っているんですね。ぜひ見たことない方にはWebページを見てもらいたいです。非常時になってから見てみるのではなく、平常時にこそ見て知っておくことが防災の第一歩です。 

川の防災情報/国土交通省 https://www.river.go.jp/index

XRAIN/国土交通省 https://www.river.go.jp/index

-今まで研究してきた「レーダ」「XRAIN」を使って川の水位を予測する研究。繋がりがあってやりがいを感じられそうですね。

 気候変動の影響により近年では各地で非常に強い雨が降ることがあり、平成30年7月豪雨(西日本豪雨)や令和元年東日本台風(台風第19号)など大きな水害もしばしば発生しています。そこで安全・安心な暮らしを守るためには、しっかりした川づくりなどを計画的に行うことにあわせて、降る雨から川の水の高さである「水位」がどれくらい上がるのかを予測することがとても大切なことになっています。レーダ雨量計による観測などを用いて気象庁が予測した雨のデータから、降った雨が山などに沿って川に入り洪水となり川を下ってくるといった一連の過程を計算して「川の水位」を予測するのですが、その際に様々な技術をどのように組み合わせて使えば、精度良く予測できるようになるのか、といった研究をおこなってきました。

現在、大雨が降って「川の水位」が高くなってくると、洪水予報ということで、「氾濫警戒情報」というものが発令されたりしますが、この裏では、私たちの研究成果によって計算された「川の水位」がもとになっています。また、私たちの研究成果によって計算された全国の一級水系の川の水位は、これも「川の防災情報」というWebページで、「水害リスクライン」と呼ばれる川の水位情報として配信されています。

-河川の水位変化は物理の公式なども使って計算されているそうです。高校で習う数学や物理ってこんなふうに応用されて私達の生活を支えてくれているんですね。

水害リスクライン/川の防災情報 https://frl.river.go.jp/

VR技術と防災を組み合わせる

「川の水位」について、現在の水位の高さやこれから数時間先の高さの予測結果は、ハイドログラフと言われる図(横軸を時間、縦軸を水位として、ある地点の水位変化を点線や折れ線グラフで表したもの)で示したり、2次元の地図上に危険度によって色を変えた線情報(危険度が上がる毎に緑→黄→橙→赤→黒)で示したりして配信されています。こういった示し方は、河川に関係する仕事に従事している人なら実際の河川の状況を想像し易い(図・データと川を見慣れているため)のですが、一般の住民の方には、図から河川の状況を想像するのは難しい部分があるかも知れないと考えています。

そこで、ゲームなどのグラフィックを作成するVR技術を活用し、実際に目にする川の風景に計算された数時間先の水位を重ねて3次元表示することにより、実際の河川と近い状況の画像をみることができ、川の水位が堤防を越えるのにどれくらい迫っているのかをよりリアルに感じて頂けるような、「川の水位」の表示ができるように取り組んでいます。

-大雨の時に川の様子を見に行って洪水に巻き込まれてしまう方が多いので、安全なところから川の様子が一目でわかるようになったら便利ですね。

河川の水位予測研究のこれから

 私の研究成果である「川の水位」の予測方法は、これまでに世の中にある既存の技術を組み合わせることで、ある程度の精度で数時間先の水位の予測を可能としたものです。使われている個々の技術の中には、大学等の研究でさらなるレベルアップが続けられているものもあります。これからの研究では、こういった最新の技術を継続的に取り込み、組み合わせながら予測方法のアップデートをして、より精度の良い予測ができるようにしていく必要があると思います。
 また、情報の伝え方が、時代とともに変化していくことに乗り遅れてないように、予測された情報も、よりわかりやすく、より伝わりやすくなるように、分野を超えたノウハウを取り入れたりしながら、工夫をし続けていくことが大事なことだと思います。

生まれ育った環境が河川研究の道へ

仕事の分野は土木と言われる分野となります。振り返ってみると、小学生の頃は、電車の運転手、野球選手と今の仕事につながるような夢はもっていませんでした。中学、高校の頃も特に将来の夢とかは特にありませんでした。土木の世界との出会いは、生まれが埼玉の山奥で、ダムを見る機会が多かったことから、こんなの作るのも面白いかもと思ったぐらいの感じで、大学生になったときに土木工学科に進んだことが入り口でした。そして土木には多くの分野がありますが、その中でも河川を専攻として選んだのは、子供の頃、川でよく遊んでいて、身近に感じたぐらいのことが理由です。

大学で土木工学科を卒業、大学院の修士を修了した後に、多くの人は就職しますが、私は研究職を目指して「博士課程」に進みました。研究職を目指したのは、恩師に勧めて頂いたこともありますが、きっかけは、大学院1年の頃に査読付き論文(書かれている内容や表現などについて多くの人たちのチェック(査読)を受ける論文)に投稿して、論文集に掲載され、そのことが、まわりに認められたように感じて嬉しくて、研究職に進もうと考えました。

世の中を変える研究をしよう

「研究」というと、新しい法則の発見とか最新技術の開発といったような「基礎研究」と呼ばれるものをイメージするかもしれませんが、私は、どちらかと言うと、既存技術を組み合わせて、トータルとして新たな技術としていくようなことをしています。また、私たちの研究は、みんなの生活の中に新たな技術を反映していく「実用化研究」と呼ばれる研究です。「実用化研究」の醍醐味は、実際の社会で課題になっていることをテーマとしてみんなの生活に変化を与えられることかと思います。こういった研究があることに興味を抱いて頂いて、いつか一緒に研究ができたらよいですね。

井上靖「」

江戸時代伊勢を出た漁船が漂流、ロシアに漂着し、日本人商人の大黒屋光太夫が、仲間達と苦難を乗り越え帰国するまでを描いた伝記作品です。自分の芯があればどこの国に行っても尊敬されるということが伝わる本です。

三宅雅子「熱い河」

パナマ運河開削に心血を注いだ、たった一人の日本人・青山士(あきら)。荒川放水路、信濃川大河津分水自在堰など、数々の河川工事を指揮して暴れ川を治め、日本の土木史に偉大な足跡を残した技師・青山士の進取と苦闘の青春が描かれています。世界で活躍するためには技術が必要なこと、人の指導をしっかりできるなら認められるということがわかるのでお勧めです。

(本の情報:国立国会図書館サーチ)

【プロフィール】

国土技術政策総合研究所 水循環研究室

土屋 修一さん

中央大学理工学部土木工学科

中央大学大学院理工学研究科土木工学専攻

国土技術政策総合研究所に入所。レーダによる降雨の観測手法、河川水位の予測手法の研究に従事。博士(工学)

FM84.2ラヂオつくばにて毎週月曜22時~22時30分放送中様々な研究所の博士や専門家たちにお話を聞いています。

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番組へのご意見ご感想お待ちしています。

scienceexpress@gmail.com

写真提供=土屋さん


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この記事を書いた人

総合科学研究機構総合科学研究員
サイエンス・エクスプレスMC サイエンスコミュニケーター
気象予報士の資格を持ち、お天気の実験教室などを開催。第11、12回気象文化大賞を受賞。

実験の楽しさや自然の素晴らしさ、災害の恐ろしさ、人類や科学のすごさをみなさんと共有していきたいです。この世界はたくさんの知識に溢れている。学ぶってワクワク。一緒に科学を楽しみましょう!

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