地域の事例から学ぶ、未来につながるまちづくりとは

石巻専修大学の経営学部で、観光にまつわる「マーケティング」や「まちづくり」を教えている庄子真岐先生。なぜ「観光学」の分野に進もうと思ったのか、「住んで良し、訪れて良し」のまちを作り、後世につなげていきたいと考える庄子先生のストーリーをぜひお読みください。

目次

地域の個性や特徴を生かすには

私は宮城県仙台市出身で、大学を卒業するまでずっと地元で生活してきました。元々まちづくりに興味があったため、就職活動ではディベロッパー(土地や街の開発事業者)を志望しましたが残念ながら内定は頂けず…。また卒業後は県外へ出たい気持ちもあり、関東に本社を構える大手の化学メーカーに入社しました。

ここでの仕事は医薬品の販売促進で、出張がとても多く全国各地を飛び回る生活でした。私は流れに身を任せ全国を回る日々を体験しましたが、そこで気付いたのは全国各地の都市が似たような街並みになっていることでした。各都市が綺麗に整備され発展していく魅力を感じる一方、どこも似たり寄ったりで個性がないまちになっていることにショックを覚えたのです。

また、外に出て改めて地元の温かさや良さに気が付いたのも事実です。日本の中で働く場所と言えば「東京」というイメージが定着しており、とても魅力的な都市であることに間違いはありません。しかし私の地元にも他の地域にも、東京にはない良さが必ずあるはずです。各地域がそれぞれの個性や特徴を出して、人々が住む・働く場所の選択肢を増やしていくにはどうすればよいのかを研究したいと考えるようになりました。

こうして、「まちづくりについてもっと知りたい」、「まちづくりに携わりたい」という自分の本音に気付き、4年間勤めた会社を退職して大学院に進学することを決意。進学後は「地域計画」という大きなテーマで研究をしていましたが、地域の事例や政策を学んでいくうちに、根本からその地域を活性化するためには外部の力に頼らず、地域内で盛り上げていくことが大切だと考え「観光」に特化したまちづくりを研究しました。2年間の修士時代に研究の楽しさを覚え、将来は現場で実務に携わるよりも教育者や研究者として働く方が向いているのではないかと考えるようになりました。

石巻市の日和山

まちづくりの「知見」を発掘する

私は元々観光地ではない地域や、自然的・社会的に発展が厳しい地域(「条件不利地域」と呼ばれます)震災などの災害後の観光産業を盛り上げるにはどうすればよいかを中心に研究しています。今まで数々の地域に足を運んできましたが、特に印象に残っているのが熊本県水俣市です。水俣市は公害病「水俣病」の発生地として知られる、マイナスイメージを持たれがちな地域です。そこで「水俣病の犠牲を無駄にしないまちづくり」を行うべく、包括的な環境都市づくりを目指しています。

その一環として、「ごみステーション」の取り組みがあります。水俣市内には約300か所のごみステーションがあり、市民が自らの手で24種類の資源ごみ分別を行っています。細分化された分別でより環境に配慮でき、自らの手でごみを分別することで市民に環境問題を自分事として捉えるきっかけを与えたいという狙いもあるそうです。

実際に現地を訪れて担当者の方へインタビューをさせて頂くと、この取り組みが環境への配慮だけでなく地域内の繋がりも創出していることを知りました。ごみを分別する際に一緒になった地域住民同士がコミュニケーションを図れ、時には共同作業で互いを手伝うことも多々あるそうです。また、ごみをステーションに持っていくことが困難な高齢単身世帯のために、地域の中学生が代行して分別作業を行う取り組みについても教えて頂きました。地域内の若者と高齢者の方がつながる貴重な機会であり、高齢者の方の見守り機能も備えるとても良い取り組みだと感じました。

私の研究スタイルは、こうした地域の事例の背景や成功・失敗要因を分析し、そのデータをまちづくりの分野で活動している人たちのための「知見」として提供するというものです。研究をしていると、予想していなかった出来事が起こることがしばしばありますが、それがとても興味深いのです。当たり前だと思っていたことが実は当たり前ではなく、「なぜその出来事が起きたのか」に注目することで得られるデータは後世の研究にも役立つものになります。

地域フィールドを生かした石巻専修大の学び

石巻専修大学では地域との距離の近さを生かして学ぶことができます。特に力を入れているのが、2018年から毎年、東日本大震災が発生した3月に開催をしている「竹こもれびナイト」というイベントです。これは、私たちのゼミが「主催」するイベントであり、竹あかりのライトアップに加え、街歩きツアーやこども向けの縁日イベントなどを行っています。

この竹あかりに使う竹ですが、石巻専修大学の近くにある演習林から切り出しています。理工学部の生物科学科の先生にご協力を頂き、竹を切り出すところから学生が関わっています。イベントに協力するのではなく私たちが「主催」しているのは、学生たちが卒業後も地域でイベントを創り出すことができるようにするためです。このイベントに関わりたいと私たちのゼミを選択する学生もいます。主催者だからこそわかること、学べることはたくさんあると考えています。

ほかにも石巻で開催されるアートフェスティバルについて、アーティストや作品の取材をして冊子にまとめる取り組みや地域のマップ作りなど石巻というフィールドを生かした学びをしています。何かやりたい、というと地域の方々が協力してくださいます。昨年度は小学生・中学生・高校生に「10年後の石巻」をイメージした絵を描いていただき、竹あかりと一緒にライトアップしました。こういうところにも協力していただけるのはとてもありがたいと感じています。

テーマは大きく、課題は小さく

まちづくりは決してまちづくり会社や自治体のみのものではありません。どんな仕事をしていても、どこに住んでいても、地域への想いさえあれば誰でもまちづくりに貢献できることを広く伝えていきたいです。住んでいるところを崩さずに、観光客にも楽しんでもらえる「住んで良し、訪れて良し」のまちを作り、守り抜いていくためにはどうすれば良いのか。今後もこのテーマについて研究を続け、日本の観光・まちづくりに貢献していきたいと考えています。

「テーマや志は大きく!課題は小さく!」これは、高校の探究活動以外にも、大学での卒論執筆や社会人になってから仕事をするときにも意識してほしい考え方です。自分の本当に興味があるものに目を向けて「なぜ?」を深掘りしていってみると、視点が広がって他者にとっても有益な知見を得ることができるはずです。

そして、ぜひ高校生の皆さんには「今」を大切にしてほしいと思います。将来のことを嫌でも考えなければいけない時期だと思いますが、皆さんがあれこれ行動して干渉できるのは「今」だけです。過去にとらわれず、未来ばかりに目を向けずにぜひ「今」を精一杯生きて、有意義な高校生活を過ごしていただきたいと思います。

おすすめの本
G.キングスレイ ウォード「ビジネスマンの父より息子への30通の手紙」(新潮社)

「とある実業家の父親が実の息子へあてて書いた手紙」という設定で、人生で大切なことを分かりやすくまとめてくれている本です。堕落してしまったときや落ち込んでいるときに読むと、これから進むべき道を優しく示してもらえるような気持ちになれるのでとてもおすすめです。



(本の情報:国立国会図書館サーチ)


写真提供=庄子先生

石巻専修大学の学びを知る


①経営学科『観光とまちづくり研究室』紹介動画

②地域連携プロジェクトに取り組む石巻専修大学生の声

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