土湯温泉から、来た人も住む人も幸せになる地域づくりを

福島市土湯温泉町。土湯温泉は福島市屈指の観光地ですが、高齢化率が56%の限界集落でもあります。この町を盛り上げようと立ち上がったのが土湯温泉町出身の加藤貴之さん。加藤さんは土湯温泉町で介護施設と日帰り入浴施設を経営する傍ら、地域おこし活動を行う、町の中心人物です。加藤さんは地域とどのように関わり、どんな目標を掲げているのか。町づくりに興味のある方はぜひご覧ください。

目次

”自分がやるしかない!”

私は、生まれも育ちも土湯温泉。実家が旅館業を営んでおり、幼いころから「後継ぎ」の自覚がありました。

高校卒業後は、修行のために上京。東京のホテル、神奈川の介護施設で接客や経営などを学びました。現在は、親が旅館業から業態転換した介護施設の理事長と、自身で創業した日帰り温泉施設の経営を本業としています。

私が暮らす土湯温泉町は人口300人、世帯数160、高齢化率56%の限界集落とも呼べる小さな地域です。観光地という特殊性がなければ成り立たず、後継者不足で廃業する旅館や施設も少なくありません。

「この地域に生まれ育った以上、目を背けることはできない問題。この町には若者が少ないから私がやるしかない!」

その想い1つで立ち上がり、本業とは別に、2つの団体の代表に就任しました。

①土湯温泉観光協会 会長

②株式会社元気アップつちゆ 代表取締役CEO

この2つの団体では、観光地を盛り上げたり人を呼ぶことをメインに、私自身がプレイングマネージャーとなり、企画立案や事業の推進に関わっています。

土湯温泉全体のテーマの三本柱は「グリーン」「デジタル」「ヒューマニズム」。

環境保全を意識しつつ、デジタルも活用しながら、人とつながり、人を大事にしていきたいという思いで取り組んでいます。

各団体の取り組み

①「土湯温泉観光協会」の取り組み

2020年4月に「土湯アクション20-25」という5年間の目標を町ぐるみで掲げました。2025年3月に「総入込客数50万人/年」を達成目標としています。震災前の客足は年間約40万人でしたので、震災後のコロナ禍の現状ではかなり大きな目標といえます。そのためには、土湯温泉町を魅力あふれる町にしていかなければなりません。

町づくりには「ばかもの」「わかもの」「よそもの」の、いわゆる「3もの」が必要だといわれます。

土湯温泉町はそもそも人口が少なく、活動できる人材も少ない。限られた人数で目標を達成するために、私は特に「よそもの」の力が必要だと考えました。

「よそもの力」を持った個人や企業、外部の人たちとパートナーシップを組むことで、地域資源を活用した事業化を進めています。

下記に一例を挙げます。

・企業と提携して温泉街にコワーキングスペースを開き、温泉街でテレワーク等をするワーケーション利用者の受け入れを開始

・遊びのプロとパートナーシップを組み、湖でSUP(Stand Up Paddle)やサウナなどを楽しめるアクティビティ事業をスタート

これらの事業には「よそもの」でなければ気づけなかった、地元民は考えもしない視点がたくさん取り入れられています。どちらの事業も好評で、SNSでも反響を頂いています。

②「株式会社元気アップつちゆ」の取り組み

「株式会社元気アップつちゆ」は、 土湯温泉の観光協会と温泉組合が出資して、震災からの復興のために立ち上げたまちづくり会社です。復興と同時に新たなブランドを創出するため「再生可能エネルギー事業」に取り組み、今年で10年となります。

土湯温泉街のど真ん中には、国が管理する一級河川「荒川(あらかわ)」があります。別名「あばれがわ」とも呼ばれ、何度も氾濫をくり返してきたパワフルな川です。私たちは「温泉の熱エネルギー」と「荒川の水の勢い」、この2つに目をつけ、温泉熱発電と水力発電事業をはじめました。どちらも自然に優しいエネルギーです。

発電した電力は電力会社に売電し、地域のために「稼ぐ」組織として、その収益は町に還元。高齢者や学生の定期代を無償化する福利厚生や、空き家を観光拠点に作り変える活動などに充てています。

人に優しい温泉地に

現在、2025年3月の達成目標「総入込客数50万人/年」を目指して日々活動しています。

震災後に27万人まで減少した客足も、コロナ禍前には33万人まで徐々に戻りつつありましたが、コロナ禍の2021年度は15万人まで再び落ち込みました。とはいえ、特別な事情で落ち込んでいるだけで、客足の戻りも急激だろうと予想しています。

今年度は空き家をリノベーションした新たな観光拠点の誘客効果が大きく、年度末の予測値は35万人の見込みです。コロナ禍の今でもゴールは変えず、目標に向かって突き進んでいます。

ただ、私たちの最終的なゴールは、観光客を増やすことではなく、土湯温泉を好きになってもらい、移住・定住者を増やすことです。土湯温泉に来る人も住んでいる人も、幸せになってナンボ。バリアフリーや多様性も大事にできる、「人に優しい温泉地」でありたいです。

おすすめの本
渋沢栄一「論語と算盤(現代語訳)」(筑摩書房)

作者は商工会議所の生みの親、渋沢栄一さん。社会に出れば当然「経済」に、家庭でも「家計」に関わります。人生において誰しも必ず関わるのが「経済」であり、人生において最も大切なのが「哲学」であることを知ることができる一冊です。

(本の情報:国立国会図書館サーチ)

写真提供=加藤さん

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この記事を書いた人

地域で挑戦する人や企業を豊かにすることを目的とした福島創業のチーム。 ライターやデザイナー、映像クリエイター、エンジニア等といったプロが集まり、 各々の専門スキルや個性を活かしながら、関わるお客様や地域の資本を豊かにするため活動している。

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