「美しい海を守り続けたい」与論島のビーチクリーン

鹿児島県の奄美群島にある与論島(よろんじま)。美しい海を守るため、島のビーチクリーン活動をしている「海謝美(うんじゃみ)」という団体があります。5年間、ほぼ毎朝漂着ゴミ拾いを続け、島に流れ着いた多くの漂着ゴミを回収しています。団体の代表を務める阿多尚志さんに、活動を継続している思いについて伺いました。

目次

「海謝美」結成のきっかけ

「海謝美」の活動がスタートしたのは2017年4月1日のことでした。その半年前から2人の女性が海岸の漂着ゴミ拾いを始めていて、そこから友人が2人、3人と増えていきました。行政や色々なところからサポートを得るためにはチームを形成し活動したほうが良いというアドバイスを受け、4月からはチームを結成し活動することになりました。“海謝美”(うんじゃみ)と言う名前は、明治時代まで与論島で行われていた“海神祭り(ウンジャン祭り)”より引用しました。

そこから基本的には毎朝6時半から1時間、与論島の海岸の清掃を行っています。与論島は周囲が約22キロ。そこにある57か所の砂浜を基本的には毎日1箇所、ゴミが少ない時には2~3箇所回っています。大体4~6週間で、反時計周りに島の砂浜を一周しています。2023年2月28日現在で50周目に入りました。年末年始の6日間と雨や台風の日以外は基本的に毎日活動しています。5年と11か月で延べ17650人が海岸清掃に参加し、集められた漂着ごみは6,942袋でした。

活動の原点は「きれいな島を守りたい」という思いでした。確かにSDGs#14に「海の豊かさを守ろう」というゴールがあり、近年海洋ゴミの問題が課題になっていますが、SDGsや海洋ゴミがよく知られるようになる前から私たちは活動していました。

漂着ゴミとの戦い

毎朝の漂着ゴミ拾いは、ゆんぬふとぅば(与論の方言)ラジオ体操から始まります。そしてみんなで45リットルゴミ袋に漂着ゴミを集めていきます。平均すれば、毎日このゴミ袋3つぶんの漂着ゴミを集めています。ゴミ袋は町役場環境課から支給され、集められた漂着ゴミは、町役場環境課が回収し、処理しています。砂浜は1か月~1か月半前には清掃されている場所なのですが、時間が経つとまた漂着ゴミがたまってしまいます。綺麗な島を守るため、継続的に清掃する必要があります。

漂着ゴミの数でいうと、プラスチックごみや発泡スチロール、ペットボトルが多いです。ペットボトルは、ペットボトルのラベルにあるバーコードの「国番号」でどこの国で作られた物かがわかるのですが、多くは中国で作られたものです。昔は「ペットボトル」がなく、飲み物はビン、缶で提供されていました。そう考えるとペットボトルは最近出現したごみと言えるでしょう。

この写真を見て分かるように、漁具やうき、ペットボトル、木片、ガラス瓶、発泡スチロールなど様々なごみが流れ着きます。

重さでいうと、漁具、漁網が多いです。漁網はとにかく重く、砂浜に埋まったような状態で見つかることもあります。回収したとしても焼却処分も大変です。この漁網が再度流出してしまうと、漁船のスクリューに絡まり事故を起こし危険です。また、ウミガメや魚が絡まって、死んでしまうこともあり、いわゆる、「ゴーストフィッシング」という問題で、近年問題視されています。

季節によって漂着ゴミの量は変わります。冬は北西の季節風が吹くので、島の北西部の漂着ゴミの量が多くなります。与論島の北西側の中国大陸から流れて来るとみられるゴミが多く流れ着きます。夏は台風が来ますから、島の南側の漂着ゴミの量が増えます。

日本からの漂着ゴミも沢山見られますが、どのように与論島に流れ着くのでしょうか。与論島付近の海流は「黒潮」といい南から北に流れていますから、例えば本州で出たゴミが南下して、与論島に流れ着くことは少ないと思われます。黒潮に乗って北東に向かい、北太平洋海流に乗り、アメリカ大陸の西側に辿り着き、そこからカルフォルニア海流に乗り赤道付近に南下。そこから北赤道海流に乗り西へ向かい、黒潮に乗って北上し、太平洋を一周して、与論島に流れ着いたものと思われています。

実際に、与論島には「気仙沼魚市場」、「釜石東部漁協」と書かれたかごが流れ着きました。気仙沼も釜石も東日本大震災で被災した場所であり、東日本大震災の影響で流れ出たものとみられます。「気仙沼魚市場」と書かれたかごは2018年に、「釜石東部漁協」と書かれたかごは2021年に漂着していることを考えると8~10年かけて太平洋を一周しているものと思われます。与論島では、短いパイプが見つかっていて、これは瀬戸内海のカキ養殖に使われているものだそうです。このようなごみも太平洋を一周して与論島に流れ着いているものと思われます。

 漁具やペットボトル…世界は海で繋がっています。誰かが海を汚せば、結果的に世界の海を破壊することにつながります。離島は周囲を海に囲まれているので、問題を抱えることになり、私たちは漂着ゴミをずっと拾い続けなければいけません。ごみが出る元を絶たない限り、漂着ゴミとの戦いは終わりがありません。

漂着ゴミ拾いには色々な方が参加しています。まず、島外から来た観光客の方も、ホテルや民宿にあるポスターや、私たちのブログを見て参加してくれます。2022年4~8月は約100名の方の初参加がありました。「漂着ゴミを拾い、地球環境を守る」という1つの目標に向かうので、観光客の方も楽しみながら漂着ゴミを拾います。島民と観光客の方が交流しながら漂着ゴミを拾うことが、新しい観光の形になる可能性があるかなと感じています。

 2021年には高校生3~4名が継続的に朝の漂着ゴミ拾いに参加してくれました。朝、漂着ゴミ拾いに参加して、終了後着替えて通学していました。若くてエネルギーもあり、チームの活動の支えになっていました。また、週末や休み期間中には小学生、中学生が家族と一緒に参加します。

 海謝美のモットーは、“無理しないで楽しむ”です。活動は楽しくなければ続きません。仲間たちと毎朝、「元気だね」と言い合いながらの漂着ゴミ拾いは楽しいです。また、与論島の美しい自然の再発見することも楽しみの一つです。穏やかな海から昇る日の出、潮が引いて鏡面のような海面に映る日の出、太陽が昇って行くにつれ雲とのコラボレーションで刻々と変わる空、だんだんと光を失っていく星、すべて神秘的で、大自然の中で生きていることを実感します。

海を守っていくために

 今後も漂着ゴミ拾いを継続して、美しい与論島の海を守り続けていきます。若い世代や観光客と漂着ゴミ拾い活動を通し交流し、島に伝わる文化、言語を継承して行きます。さらに、今、地球規模で起きている環境問題の現実を見ながら、持続可能な世界にするため自分たちに何ができるかを一緒に考え、実行していきます。

 また、海外との交流も進めながら、海外の国々の方とも一緒に漂着ゴミ問題について考えていきたいと考えています。ASEANに加盟する東南アジアの国々や、カリブ海の国々との交流も始めています。

 10年、20年後を考えると、私達は高齢になり活動を継続することは難しくなります。若い人に活動を引き継いでいきたいと考えています。

 海域だけでなく、陸域で投棄されたゴミも、雨、風により川に流れ出し、川から海に流出し、海洋ゴミとなります。先に述べたように、世界は海でつながっており、海洋ゴミに国境はありません。海洋ゴミ、漂着ゴミの問題は、ある特定の国、地域の問題ではなく、全ての人々の問題です。偉大な発明であるプラスチックは、便利なツールである反面、環境に及ぼす影響も大きいです。プラスチックを便利なツールとして使いながら、使った後はきちんと処理したり、3R(Reduce 使用を減らす、Reuse 再利用する、Recycle リサイクルする)を押し進めたりすることが重要です。

 日本各地でクリーンキャンペーン、ゴミ拾いキャンペーンなどたくさん開催されていますので、積極的に参加して欲しいです。ただ、キャンペーンの時だけゴミ拾いするのではなく、日常の生活でも継続的にゴミ低減に取り組んで欲しいです。

(取材日:2023年3月1日)

写真提供=阿多さん

よかったらシェアしてね!
  • URLをコピーしました!
  • URLをコピーしました!

この記事を書いた人

東京大学教育学部卒業後、全国紙の新聞記者として広島総局・姫路支局に勤務し事件事故、高校野球、教育、選挙など幅広い分野を取材。民間企業を経て、2021年に株式会社オーナーを起業し、本教材「探究百科GATEWAY」を開発し編集長を務める。

目次