旅行を通して地域と人を繋ぐ

岩手県盛岡市で旅行会社「トラベル・リンク株式会社」の代表取締役を務める北田耕嗣さん。なぜ地元の盛岡市で旅行会社を立ち上げたのか。そして今後どんな展望を持っているのか。岩手の魅力を世界に発信していきたいという北田さんのストーリーをぜひお聞きください。

目次

幼い頃に感じた「旅」の魅力を力に

私が観光の道に進んだきっかけは、両親が盛岡市でユースホステルという宿泊施設を経営に関わっており、旅が身近にあったからです。旅っていいな、と思い始めたのは小学3年生の時。全国から旅好きの人々が一堂に会す、ユースホステルの集まりが北海道で開催されました。私は最年少での参加でしたが、知らない土地で知らない人と仲良くなることができ、とても嬉しかったのを覚えています。旅は人と人とをつなげる効果があるんだと、幼いながらに発見がありました。

中学校の修学旅行で旅行会社の存在を知った私は、高校生の進路選択の時期になると旅行会社に最短で就職する方法を考えました。今は大学にも観光に関する学部がありますが、当時、旅行業や観光業に関する国家資格をとれるのは専門学校だけでした。仙台の専門学校に入学し、無事に資格「国内旅行取扱管理者」及び海外も取り扱える「総合旅行業務取扱管理者」を取得。就職活動を経て、名古屋の旅行会社「名鉄観光サービス」に入社し、盛岡市に配属されました。

仕事では、営業から企画、提案、ツアーアテンドまで全ての工程を担当。当時は飛行機や新幹線に乗ったことがない人も多い時代でしたから、お給料をもらいながら日本全国、海外に訪れる経験ができること自体、とても嬉しくラッキーだと感じていました。

しかし10年働いてみて、徐々に「自分がおすすめしたい旅」と「会社がおすすめしたい旅」にズレが生じ始めました。社員としてノルマも達成をしなければいけませんが、それは本当にお客様のためになるのだろうか、というジレンマを抱えるようになりました。ちょうど30歳を迎えることもあり、会社を辞めて人生をリセットすることにしたのです。

観光の仕事をまたやりたいと思っていた私は、バスが運転できるように「大型二種免許」と、障がいのあるお客様を介助できるよう「ホームヘルパー2級」の資格を取得しました。その後、縁がありタクシー運転手も経験しました。タクシーは観光客を乗せますから、観光タクシーとしてスキルを磨こうと思ったのです。

そのような期間を経て、いよいよ本腰を入れて観光の仕事をしようと市の産業振興センターに起業相談に行きました。ちょうど第一回目の「いわてビジネスグランプリ」が開催されることを知り、カフェと旅の相談ができる機能を掛け合わせた「トラベルカフェ」のアイデアで応募しました。カフェに来たお客さん同士が旅の経験をシェアして、仲良くなってほしい。カフェに来る気軽な感覚で旅の相談をしてほしい。そんな想いを発表したところ、見事グランプリに輝き、賞金を手にすることができました。

実際に1つ目の会社を起業し、事業をスタートさせました。トラベルカフェをオープンすると想像以上にお客さんが集まりました。一見順調に見えた事業でしたが、私はカフェ事業に関しては初心者同然。得意な仲間に依頼していましたが、徐々にカフェ運営がおざなりになって行き、残念ながら4,5年後にはカフェ事業を閉じることになりました。

カフェ事業は辞めたものの旅行業を続けていた私は、県内のまちあるきツアーを売り始めました。トラベルカフェで県内のまちづくり関係者と出会い、フィールドワークに参加するうちに、「今まで外の地域ばかりに目を向けていたけれど、岩手っておもしろい!誰も宣伝しないなら俺がやろう!」と地域に注目し始めたのです。東京に事務所を設け、岩手のまちあるきツアーを販売し始めましたが、全然売れませんでした。当時は「岩手=観光」というイメージが希薄だったためか、「なんで岩手にわざわざ行くのか?」という反応ばかりでした。

そんな矢先、東日本大震災が発生。一気に仕事がなくなりました。連絡の取れないお客さんもいる中、「自分がやってきた観光の仕事って必要なのだろうか。どうやってこれから生きていこう。」と不安になりました。震災発生から3日後、そんな私に一本の連絡が入ります。盛岡のまちづくり仲間から「震災支援の団体を立ち上げるから一緒にやらないか」とのことでした。二つ返事で引き受けた私は、被災地へのボランティア手配を担当することになりました。スケジュールの組み立て、移動手段の手配、参加者募集、ツアー同行。これらはまさに旅行業で培ってきたスキルです。東京からのボランティアを被災地に送り込んだり、東京で震災支援につながるPRイベントを開催したりしました。

岩手らしさを活かすツアー

活動を行う中で、東京からの被災地支援だけではなく、復興に向けて地に足ついた旅行業も立ち上げようと、2つ目の会社「トラベル・リンク株式会社」を起業しました。トラベル・リンクは、岩手や東北に特化し、地域とつなぐ、人とつなぐ、地域と人を繋ぐ会社です。提供するツアーは、移住定住、婚活、食に関するツアーなど。岩手らしさや地域課題解決に関する企画を多く実施しています。

私は岩手に実際に住んでまちの魅力を感じているからこそ、もっといろんな人に知って欲しいという気持ちで仕事をしています。時には大変なこともありますが、お客様からの「楽しかった」「また会いにきたよ」という声をいただくことで、今まで続けてこられたと思っています。

のびしろがある「岩手」

観光といえば、「北海道」や「京都」「沖縄」など有名な地域があります。しかし、「岩手」はどうでしょうか。観光に関する都道府県ランキングでも上位ではありません。それでも私は、岩手にはのびしろがあると思っています。震災後、岩手への観光に需要が高まっているのを感じています。復興のために岩手を応援したいという方や、リモートワークを経験し都会より地方に関心を持つ方が増えています。だからこそ、旅行を通じて岩手の魅力を発信し続けたいですし、コロナ情勢が良くなれば、岩手と海外を繋ぐこともしたいですね。今はコロナ禍で大変な時期ですが、日本の価値や資源をつなぐ観光は可能性のある産業だと思います。コミュニケーションを取るのが好き、人と接する仕事がしたい人は向いていると思います。

おすすめの本
沢木耕太郎「深夜特急」(新潮社)

著者の実体験をもとにした旅の小説。その国で起こった出来事から、旅に行った気分にさせてくれます。世界を感じ、その上で日本の良さも感じてください。旅の素晴らしさを感じさせてくれる一冊です。 

(本の情報:国立国会図書館リサーチ)

写真提供=北田さん

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