石巻の島から考える、「サルと生き物」の関係性

石巻・牡鹿(おしか)半島の沖に浮かぶ島・金華山(きんかさん)。多くのニホンザルが生息するこの貴重なフィールドで「サルと他の生き物」のつながりについての研究を継続的に行っているのが、石巻専修大学理工学部の辻大和先生です。どんな研究をしているのか。そして石巻というフィールドの価値についても聞きました。

目次

サルを研究したきっかけ

もともと子どものころから動物が好きで、大学時代は上野動物園で動物について解説するボランティアとして活動していました。特に興味を持ったのがサル。動物園のサル山を見ていると、サル1匹1匹の個体の違いが分かるようになりました。サルにのめり込み、動物園に頼み込んで開園前にサルの観察をできるようにしてもらいました。毎日のように観察していると、サル同士の親子関係や「このサルとこのサルは仲がいい」などの友達関係が分かってきました。群れという社会の中での個体間のつながりを見るのが面白く、将来はサルを研究しようと考えていました。

石巻とつながるきっかけとなったのは大学3年生の出来事です。先輩に誘われ、石巻市の牡鹿半島沖に浮かぶ島「金華山(きんかさん)」にフィールドワークに行きました。その時私の前に現れたのは衝撃的な光景でした。

サルの重みでたわんだ枝にニホンジカが食いついて、枝についた若葉や花を食べ始めたのです。木の下にはサルが落とした木の枝がたくさん落ちており、そこにもシカが群がっていました。-木の上で暮らすサルと、木の下で暮らすシカが、植物を通じてつながっている―。この出来事をきっかけに、生態系の中のサルの役割に興味がわくようになりました。

金華山には野生の鹿が500頭、サルが250頭生息しているといわれています。10平方キロメートルの面積にこれだけの高密度のサルとシカが生息している地域は珍しいです。さらに、人がほとんど住んでいない島なので動物が餌づけをされておらず、野生のままの姿で観察ができます。島なのでサルが外に出ていくことはなく、閉鎖的な環境の中で、コンパクトな生態系が成り立っています。

そして、サルとの距離も非常に近いです。さらにすごいのは、多くの研究者の努力のおかげで多くのサルが識別されており、「この個体がこういう行動をした」ということを理解することができます。識別された野生のサルの行動を研究できるのは、東日本ではここだけ。日本全体を見ても、同様の研究ができるのは屋久島くらいだと思います。

この島のもう一つの面白さは、「サルとシカ」のように動物と動物の関係性-横のつながりーを研究できることです。ふつう、サルの研究者はサルだけを、シカの研究者はシカだけを研究します。しかし、このコンパクトな島では、異なる種同士の関係性が調査可能になるのです。金華山滞在中は、島内にある山小屋に泊まり込んで自炊をしながら研究を行います。滞在中、シカなど別の動物を研究している研究者とも一緒になることも多いです。研究仲間からは、研究以外にも多くのことを学びました。

私は学部生のころから20年以上、毎年金華山に通い続けてきました。そして、金華山に最も近い大学である石巻専修大学に赴任することになったのは、本当に幸運でした。

石巻というフィールドの魅力

最近力を入れて研究しているのは、金華山におけるサルと植物の関係です。サルには、植物の種子を離れた場所に運ぶ役割があります。サルのフンからは、ヤマザクラ、ノイバラ、ガマズミなどの多様な種子が見つかっており、種子は運ばれた先で芽を出すのです。金華山のサルは数百メートル離れた場所に種を運ぶことが分かってきました。こうしたデータから、サルが植物にもたらす影響を研究しています。サルのフンに集まる、センチコガネなどの虫もいます。昆虫との関係を含めて、サルと他の生き物との関係を明らかにできるのではないかと考えています。

石巻専修大学はフィールドが大学に近いのが魅力的です。大学のすぐ裏山には演習林があり、大学から歩いて5分程度で調査を始めることができます。ここにはニホンカモシカやニホンテン、タヌキなど多様な生物がすんでおり、森の中にカメラを設置して行動調査をしています。

キャンパスのすぐ近くにある演習林

地域の特有の課題についての研究も行っています。野生動物が犠牲になる交通事故について調べたところ、2020年度からの3年間で石巻市内で3000件を超える事故があることが分かりました。中でも石巻の牡鹿半島は、半島名になるくらいニホンジカが多い地域で、シカと車の接触場所が多発している地域です。私たちは石巻市と連携し、シカと車の接触事故を減らすことを目的とした調査をすすめています。このプロジェクトには学部の学生もかかわっており、地域で起きている課題を自分たちで解決する取り組みは貴重な経験になると感じています。

また、交通事故で犠牲になった野生動物を骨格標本にする取り組みも、学生と一緒に進めています。大学の一角に展示室を設けたり、あるいは授業の時にスケッチの題材として使ったり、研究用として活用しています。実物から学ぶことはとても大切です。骨格にしてみるとタヌキの骨が意外と小ぢんまりしていたり、シカの首の長さがわかったり、イノシシと豚の違いがわかったり…といろいろなことがわかります。

海外にもフィールドを広げて研究しています。特に足を運んでいるのがインドネシアのジャワ島とスマトラ島です。インドネシアはオランウータンやテナガザル、テングザルなど多様な霊長類が生息している地域です。特に、ジャワルトンというサルに注目をしています。このサルが落とした高木の葉をルサジカというシカが食べるという、金華山のサルとシカのような関係がみられるからです。また、カニクイザルについても、ニホンザルと近い種ということで研究をしており、温帯に生息するニホンザルと熱帯に生息するカニクイザルの比較を行っています。

これまでの私の経験・研究については、2020年に出した「与えるサルと食べるシカ―つながりの生態学-(地人書館)」という本にまとめているので、ぜひ読んでいただければと思います。

ジャワルトン

金華山の生き物同士のつながりを、学生のみなさんと一緒に研究していきたいと考えています。10年、20年単位の研究になると思いますが、例えばサルとネズミの関係、ネズミとドングリの関係、サルと果実の関係…などを解き明かしていきたいです。学生の卒業論文などでも色々なテーマを扱っていけるといいなと考えています。石巻の自然の仕組みの理解こそが、地元の大学にできる学術的な貢献だと考えています。

感じたことや疑問を探究する

高校生の皆さんには、まずは特にテーマを決めずにフィールドに入ることをお勧めします。現場を訪問し、歩いている時にふと感じたこと、疑問に思ったことを研究してみるとよいでしょう。

動物好きな人は、動物園に行ってみて、面白そうな動物を観察するのもよいでしょう。最近は人間と野生動物の関係についての話題がニュースになることもあります。野生動物の交通事故、野生動物による農林業被害、外来生物の問題…などいろいろなニュースからも気になることを研究できるといいと思います。

自分の中から湧いてきた疑問を明らかにした時の喜びは違います。誰かに言われたことではなく、自分の心が動いたことを探究してみると、探究・研究が長続きすると思います。

おすすめの本
南正人著「シカの顔、分かります」( 東京大学出版会)

石巻・金華山でニホンジカの社会の研究に取り組んでこられた、南正人さんの著書。金華山では、シカも1頭1頭が識別されており、著書の南さんはシカの一生について粘り強い調査を進めてきました。辻先生も「研究の楽しさがわかる」とすすめる。

(本の情報:国立国会図書館サーチ)

写真提供=辻先生

石巻専修大学の学びを知る

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②地域連携プロジェクトに取り組む石巻専修大学生の声

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