石巻専修大学理工学部でロボットについて研究している水野純先生。特に超小型の機械システムの研究を行っています。ブラジル出身の水野先生がなぜ石巻にいらっしゃるのか。これまでのキャリア・研究内容を中心に、高校生へのアドバイスも含めて、お話を聞きました。
ブラジルから日本へ留学
私はブラジル出身です。父は日本人、母は日系2世。大学院から日本に来ることになるのですが、父親からは「国費留学生となって日本に留学してほしい」と言われて育ちました。
研究者になりたいと思った最初のきっかけは、父親が買ってきたサイエンスキットでした。鉄粉と磁石で模様ができたり、液体を混ぜると色が変わったり、色んなキットがあったのを面白いと思ったのです。
さらに、マニュアル通りやってそれを確認するだけじゃつまらないなと思っていて、例えば液体に何かを混ぜたらどうなるのか、温めるとどうなるのかを考えて実際にやったりして、好奇心が非常に強い子供でした。
数学も好きでした。中学校の時には一つ上の学年の数学を学ぶだけでなく二学年先の数学まで勉強するくらいで、数学のオリンピックに出たこともありました。高校になった頃の理想は「NASAの研究者」もしくは「パイロット」。ただ、どうもマッチングしないなと思うようになり、それ以外に何があるかを考える中で、高校の時にオーディオに興味をもっていたこともあり、電気の分野に進みたいと思うようになり、サンパウロ大学の工学部電気電子工学科に進学しました。
大学3年生でコース選択することになるのですが、電波の一種である「マイクロ波」という科目がとても面白くて、その先生の研究室に入ることになります。卒業研究で、ダムの水位が一定を超えたらバルブを締めるようなことができないか企業からの依頼があったんです。マイクロ波で情報を飛ばすことができないかという内容で、私は送信と受信の回路を担当して、その目的に特化したデジタル回路を開発することになりました。これが現在やっているロボット工学の考え方の基礎にもなっていますし、ロボット工学を始めるきっかけでもありました。
日本で「微少光学」を研究
大学卒業後に来日し、念願かなって日本の国費留学生になって東京工業大学の大学院に進学することになりました。ブラジル時代の卒業研究の延長で、小さくありながらも、多様な機能を持つデバイスを開発する研究をしてみたいと考え、大学院に入ってからは微小光学という分野を専攻しました。
大学院卒業後は微小光学ができる中小企業に入社しました。小さな会社でもあったので、これまで学んだ研究を活かして設計の責任者として取り組み、商品開発にもつなげることができました。さらに大企業でチャレンジしたいと考えてペンタックス(現在のHOYA)に転職しました。
ペンタックスでは医療用の内視鏡の機能の一部として小さな顕微鏡をつくることに取り組みました。この時に東北大学との共同研究をしたご縁で東北大学に研究員として迎え入れていただき、そこからのご縁で石巻専修大学に移ることになりました。ブラジル・日本の大学での研究とそして企業での経験が、今の研究につながっています。
超小型の機械システムを研究する
研究をしていることの1つが、MEMS(メムス)といわれる超小型の機械システムです。MEMSとは「Micro Electro Mechanical Systems」の略で、半導体集積回路の製造に用いられる微細な加工技術を応用した超小型の機械システムです。中には駆動系やセンサ類などの機構が組み込まれており、身近なところだと、スマートフォンや車などに利用されています。
基本的にMEMSは同じ性能なら小さいほど良いとされています。小さいMEMSほど限られたスペースで色々な機能を搭載することができるからです。大きい部品になってしまうと、スマートフォンに入りません。大きさが小さいからこそ、スマートフォンの薄さ・軽さを実現できるなど設計の自由度が広がります。スマートフォンの場合、特定の電波を選択するためのフィルタや、加速度センサ、ジャイロセンサ、マイクロフォン、気圧センサなどに複数のMEMSが使われていて、私たちの身近な生活を豊かにするところにも活用されているのです。
MEMSの大きさは、0.001ミリ(1マイクロメートル)単位。内部には髪の毛の太さよりも細い細い回路があり、これを見るためには顕微鏡を使わなければいけないほど細かなものになっています。
大学でMEMSを研究しているのは、もともと企業に勤めていた時に医療機器メーカーでMEMSを扱っていたからという経験があったからです。医療機器は人の体に入れるものなので、小型にする必要があるため、ここにもMEMSの技術が使われています。
MEMSの他にもロボット全般についても研究をしていまして、研究室にはたくさんの部品があります。3Dプリンターを使って自由に部品を作ることもあります。
また、「ロボット研究会」という学内の団体も指導しており、過去には国内大会で優勝、世界大会にも進んだ学生もいます。考案したのは、東北地方ならではの課題である冬の車のスリップ事故を防止する「路面状況検出システム」。MEMSを使って凍結箇所を事前に検知しドライバーに伝えるというシステム考え、英語でプレゼンテーションしました。
石巻専修大学は少人数の大学なので教員と学生との距離が近く、また学生たちも自由にロボット開発に取り組んでいます。私も教える立場ではありますが、学生になったつもりで「一緒にやってみよう」という思いでロボット作りに取り組んでいます。
非常識なことをやってみる
今後やりたいことは、MEMSを自分たちで開発しているロボットに組み込み、オリジナルのシステムを作りたいと考えています。水中生物を観察するための水中ドローンを理工学部の3学科で連携をして開発するなど、石巻ならではの研究にも取り組んでいます。
探究学習をする上でお伝えしたいのは、固定概念にとらわれてはダメだということ。常識的なことではなく、非常識なことをやってみたらいいんじゃないかということです。なぜなら、常識的なことは誰かが考えているからです。だから、非常識なこと、人が恐れていることをやるのが大切です。もちろん基礎はないとダメですし、計画を立てることも重要です。ただ、とにかく固定概念に流されないようにフレキシブルに考えてほしいと思います。
研究をしていて思うのは、ロボット工学はすさまじい速さで進化する分野なので常に新しいアイデアを出していく必要があるため、常に自分をアップデートしていかなければならないということです。ロボットの研究を考えている高校生はそういったマインドを今のうちから身に着けられるといいんじゃないかなと思います。
石巻専修大学の学びを知る
①機械工学科『ロボット工学研究室』紹介動画
②大学ホームページの水野先生の紹介記事を読む
③地域連携プロジェクトに取り組む石巻専修大学生の声