探究分野解説「人間・文化」

カルチャー(=文化)にはもともと「耕作」の意味があります。文化とは人間が創造してきた固有の生活様式のことであり、自然と対比される概念です。長い歴史の中で生み出されてきた文化や哲学・心理学などの考え方について見てみよう。

目次

探究テーマ「城×人=個性」

「城」とはなにか?

「城」には石垣にそびえる天守や御殿が建ち並んでいて、お殿様やお姫様が住んでいるというイメージが一般的だ。しかし、そのような考えは江戸時代に入ってからのもので、そもそも「城」とは戦いの中で築かれた軍事施設である。そのため、天守や石垣などの建造物は戦乱の中で独自の進化をとげた構造物であると言っても過言ではない。
また、天守や石垣を備えた城は全体の数%に過ぎず、城の大半は土で造られた城である。なぜなら、天守や石垣が発達するのは織田信長や豊臣秀吉の登場した戦国時代の終わりでありそれまでは土造りの城が主流であったからだ。
さらに、東北や関東は彼らの全国統一事業が最後に及んだ地域であり戦国時代の最後まで大名同士が争い続けた地であるため複雑で技巧的な構造を持った城が数多く存在するという特徴がある。

城はすべてオーダーメイド

日本にはたくさんの城が存在しているため規模や形も同じように見えるかもしれない。
しかし、前述したように城は軍事施設であるため、築城した人間のプランに大きく影響を受けることになる。例えば、弓隊・鉄砲隊それぞれ50人、槍隊100人の計150人を率いて敵を2日足止めする任務を受けて築城する場合、少人数で守りやすくて敵には攻めにくく、そして弓と鉄砲を効果的に活用した仕掛けを備えた城を築く事となる。
このように城は築城者のプランに応じて築城されるため全国各地にオンリー1の個性を持ち合わせた城が存在することになる。

仙台城の特殊性

仙台城と言えば伊達政宗の騎馬像が立つ場所としてお馴染みの城だが、この城は同じ年代に築城された城とは一線を画す構造とプランになっている。まず、同年代に築城された城には惣構(そうがまえ)という城の中心部の外側を囲う防御施設が存在するが、仙台城にはこのような施設が存在しない代わりに、東に広瀬川の急流、南に100mを越える断崖絶壁、西には鬱蒼とした山地が広がる場所に築城されているため、難攻不落の城の条件を兼ね備えている。また、仙台城は敵に攻撃された場合に本丸と呼ばれる城の中心部だけでも長期間持ちこたえられる構造となっており、この城を短期間で落とす事は不可能に近い。
このようにそれぞれの地域の城の地形やプランを築城者の立場になって探究するのもいいかもしれない。

探究テーマ「人間工学」

人間工学とは、ものを人間の特性に合わせてつくることで、「使いやすい」ものをつくることです。使いやすいものをつくるための人間工学における人間の特性を簡単にみていきましょう。

生理的特性

人間は大きく10の器官に区分されます。①骨格系(身体の支持、動作を可能とする)②筋肉系(運動を行う)③感覚系(五感)④神経系(人間の器官への情報伝達に関与)⑤内分泌系(ホルモンを血液中に分泌し、標的器官に情報を伝達)⑥消化系(食物を分解して栄養を吸収する)⑦呼吸系(文字通り呼吸のための器官)⑧循環系(心臓・血管・リンパ管)⑨排泄系(腎臓・膀胱)⑩生殖系(自分の遺伝子を残していくための器官)の10つです。

外界(自分をとりまく、周りの世界)と積極的な関わりをもって人間が生存していくための情報処理系を動物的機能といい、外部の刺激に応じた動作、記憶、思考を行ったり、快・不快などの感情を感じたりしています。

情報処理系を維持するために、呼吸器、消化器、内分泌器、循環器、排泄器があります。これらを植物的機能といい、体内の恒常性、生命を維持するべく働いています。

心理的特性

五感(視覚、聴覚、皮膚感覚、味覚、嗅覚)は外界の情報を取り込むための人間の外部センサです。それぞれの感覚に対応した物理的・化学的刺激にのみ応答します。このような刺激を適当刺激といいます。

人間のもつ「その人らしさ」を形成するものをパーソナリティといいます。性格、感情や情緒、欲求や動機づけなどが深く関係しています。

意識にのぼった情報がその人にとって快か不快かによって、もたらされるあいまいな心理状態を感情といいます。一方、その人の性格や考え方、状況などに応じてはっきりと意識された心理状態が情緒(情動)です。情動を感じているとき、自律神経系、内分泌系の働きが促進され、さまざまな生理的変化がもたらされることが多いです。たとえば、胸が高鳴る(歓喜)、冷や汗が出る(恐怖)などです。

欲求が満たされないとフラストレーション(欲求不満)が生じます。また、人間は欲求を充足させる方向に能動的に行動を起こします。能動的行動に人間を駆り立てる要因を動機づけ要因といいます。

人間の性格類型(性格に共通するパターン)にはいくつか種類があります。性格を体型との関係で分類する方法があり、その場合、性格は3つに分類できるといいます。①肥満型(社交的、善良、明朗、安楽を好む、寛容、穏やか)②筋肉型(活動的、精力的、闘争的、融通がきかない、几帳面、執着)③細身型(非社交的、臆病、過敏、きまじめ、内気、温和)の3つです。

身体的特性

人間の身体各部の寸法や形状、臓器の位置関係、また動作の特性などの形態、動態の特性は解剖学(解剖によって生物体の構造を調べる学問)やバイオメカニクス(生物の運動機能を研究して工学などに応用しようとすること)などで扱われています。

人間の身体は頭部、頸部、体幹、上肢、下肢の5つの部分から構成されています。人間の関節はそれぞれ一定の可動範囲しかとることができません。これを関節可動角度、関節可動域、身体柔軟性などといいます。

人間の手の届く範囲は、手の長さ、関節可動角度の関係を基にして求められます。これを作業域といいます。正規作業域(正常作業域)は手を楽にテーブルにおいたとき、おおむね前方前腕長(手から肘まで)を半径とする範囲です。最大作業域はおおむね手を伸ばしきった状態で手の届く範囲のことです。

参考文献
小松原明哲『エンジニアのための人間工学―改訂第6版―』日本出版サービス、2022年。

探究テーマ「認知心理学」

心理学にはさまざまな種類がありますが、認知心理学はそのひとつです。認知心理学とは、認識と知識の心理学だと考えることができます。なぜなら、人間が世界をどのように認識し、世界の知識を獲得して使用できるのかという問題を取り扱うためです。また、認知心理学は実験心理学であるということも重要です。認知心理学は、実験を中心とした具体的で実践的な心理学だといえます。認知心理学について、身近なテーマに絞ってみていきましょう。

注意と情報選択

注意という語は普段の生活でよく使われている語だと思います。ですが、注意とは何かといわれると、注意は気を付けることだと考える方は多いのではないでしょうか。認知心理学では、注意は情報選択を行う過程を指します。では、どのように情報選択が行われているのでしょうか。

情報の選択は、「意識」と直接関連します。意識とは選択する機能だからです。私たちは何かを意識して目の前に広がる視覚世界を見ています。ある対象に意識を向け、他の対象を無視しているという意味でもあります。また、情報の選択は認知資源の集中ととらえることができます。認知資源とは、情報処理に必要な心のエネルギーです。選択した情報に認知資源を集中的に配分すると、情報処理を円滑に行うことができます。

私たちは注意によって選択したわずかな情報のみを認知できます。これは、変化の見落としという現象からはっきりわかることです。変化の見落としは、冗談のように思えますが、面と向かって話している人が別人に変わっていても気づけないことすらある現象です。注意による情報の選択は、カクテルパーティー効果からも考えることができます。カクテルパーティーとは立食形式のパーティーのことをいいますが、たくさんの人がいて好き勝手におしゃべりをしている状況を想像してください。そのような状況下で、自分の関心のある会話音のボリュームが上がり、周囲の音が遮断されたような状態になり、会話に集中できることはありませんか。これが、カクテルパーティー効果です。注意の不思議な機能をあらわしています。

記憶と忘却

「記憶とは何か」と問われたとき、どう答えますか。覚えておくことでしょうか。覚えている内容でしょうか。ですが、記憶とは覚えておくことや覚えている内容だけを指すのではありません。記憶には大きな枠組みとして、3つの段階があります。まず、情報を覚える段階です。次に、覚えた情報を忘れないようにしておく段階、そして、覚えた情報を思い出す段階です。これらはそれぞれ符号化、貯蔵、検索と呼ぶことが多いです。また、覚えた情報を思い出せないこと、つまり、検索の失敗を忘却と呼びますが、なぜ忘却は起こるのでしょうか。

最も単純に考えると、時間の経過とともに記憶の痕跡が薄れていくからだといえます。つまり、時間がたつにつれ、思い出すための手がかりが減るということだと考えられます。これを減衰と呼びます。また、時間の経過にともなってさまざまな情報にさらされるために、妨害し合って忘却が生じるとも考えられます。これを干渉と呼びます。しかし、忘却の原因は減衰や干渉だけではありません。また、ヒントをもらえば思い出せることがあるように、記憶痕跡をうまく検索できなかったために忘却が生じるのではないかと考える説もあります。

ここまで、忘れることについて述べましたが、思い出すことに関するおもしろい現象があります。それは、偽りの記憶、あるいは虚記憶と呼ばれるものです。文字から想像できるように、実際にはまったく経験していないことをあたかも経験したかのように思い出してしまう状態を指します。偽りの記憶には大きく2つの要因があります。ソース・モニタリングの失敗、そして、イメージの強い影響です。ソース・モニタリングとは、自分の記憶がどこから得らえたものかという情報源に関する判断のことを指します。つまり、ソース・モニタリングの失敗とは、記憶の情報源が実際は他者から与えられた情報や誘導であるのにもかかわらず、自分の経験だと勘違いしてしまうことです。また、もうひとつの要因であるイメージの影響についてですが、これはイメージを使って思い出すと実際の経験であると勘違いしてしまうことを意味します。本当は経験していないことについて、思い出せといわれ、そのことに関するイメージをもとに想像します。そうすると、実際に経験したかのように思い出すことができてしまうのです。

スキーマとアクション・スリップ

スキーマとは自分をとりまいているまわりの世界である外界を理解する枠組み、または内的な知識を使用する枠組みのことをいい、フレームやスクリプトと呼ぶこともあります。スキーマは変数をもち、埋込み構造をしており、さまざまなレベルの抽象度に対応し、定義ではなく知識を表現します。変数をもつとは、変化する性質をもつということです。変数には初期値があるため、何も変化することがない場合は初期値が使われます。埋込み構造は顔を例に考えるとわかりやすいといいます。顔のスキーマの中に人によって大小の異なる目という変数があります。目は顔の下位スキーマと考えることができ、スキーマは下位スキーマを埋め込んだり、上位スキーマに埋め込まれたりします。また、スキーマという概念は、知覚から言語、思考に至るまでさまざまな認知活動に使用されると想定されます。そのため、それぞれのレベルに必要な抽象度に対応できるよう構成されています。知覚のような物理的事象と近い場合では、相対的に抽象度が低い知識に対応し、思考では抽象度の高い知識に対応しなければなりません。私たちは、これらの特徴をもつスキーマを日常的に用いていると考えられます。

このスキーマがうまく働いていないとき、意図せず起こる行動のエラーをアクション・スリップと呼びます。たとえば、冷蔵庫からお茶を取るはずがお菓子を取ってしまったり、歯を磨くために洗面所に行ったのに、髪を整えただけで部屋に戻ってしまったりすることです。誰しもそのような経験があるのではないでしょうか。

アクション・スリップはスキーマと密接に関わっています。歯を磨くために洗面所に行ったのに間違えて髪を整えただけで部屋に戻ってしまったという場合、「洗面所に行って何かをする」という行為のスキーマがあります。しかし、この「何か」が意図した「歯を磨く」ではなく、初期値の「髪を整える」のままだったときにスキーマに従って行為します。そうすると、初期値に対応した行為をするために髪を整えるということになります。アクション・スリップは、行為に注意が向いておらず、自動的になされているときに生じやすいと言います。つまり、上の空だったり、何か別のことに気を取られたりしたときに変数の切り替えがうまくいかないことは十分に考えられるということです。

参考文献
道又ほか『認知心理学――知のアーキテクチャを探る〔新版〕』有斐閣、2022年。

「人間・文化」の探究に役立つWEBサイト

文化庁「文化に関する世論調査について」

文化に関する国民の意識を調査することを目的に実施された調査。鑑賞を主とする芸術に加えて、創作や出演、習い事、祭り、体験活動などの文化芸術活動について調査した結果が掲載されています。
https://www.bunka.go.jp/tokei_hakusho_shuppan/tokeichosa/bunka_yoronchosa.html


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この記事を書いた人

探究百科GATEWAYの編集部です。高校生の「探究」に役立つ情報や探究分野の解説、探究の方法について発信します。

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