探究学習とは?新たな学習科目について

2022年度から高等学校で「総合的な探究の時間」が始まりました。今まで「総合的な学習の時間」と呼ばれていた学習活動ですが、「学習」が「探究」へと変わり、学習内容も変更された部分もあります。ここでは、「探究」とは何かについてその概要を述べてみましょう。

目次

新たな学習指導要領「探究学習」とは何か

「探究」という言葉の辞書的意味を確認すると、「物事の意義・本質などをさぐって見きわめようとすること。」(『デジタル大辞泉』より)とあります。また、学習指導要領の記述からは、「生徒が自分で課題を見出して問いを設定し、その課題を解決するために情報を収集・分析し、対話や協働的な活動をしながら進める学習活動のこと」ととらえていることがわかります。答えのない課題に向き合いながら最適解を導き出す活動を通して、結果だけでなくプロセスも重視される活動ともいえるでしょう。

また「総合的な探究の時間」の目的、目標は、「探究の見方・考え方を働かせ、横断的・総合的な学習を行うことを通して、自己の在り方生き方を考えながら、よりよく課題を発見し解決していくための資質・能力を育成する」と述べられています(「学習指導要領解説・総合的な探究の時間編」より)。ここにある「横断的・総合的」「自己の在り方生き方」といったキーワードについて少し考えてみましょう。

「横断的・総合的」とは「複数の科目にまたがって」という意味です。社会で問題となるさまざまな課題や大学などで研究対象となる事例は、さまざまな要因が複雑に絡み合い容易に答えは見出せないものがほとんどです。教科・科目で獲得した知識や技能を単独で当てはめても簡単に解決には至りません。例えば環境問題を考える場合、化学や生物の知識だけでなく、家庭科、保健、公共、政治経済、地理などで学ぶ内容も関連づけた方が解決の糸口は見えてきます。また、情報収集や整理分析、発表をする際には情報や数学、国語、英語で学んだ内容も活用できるはずです。また、それらの知見を活用するには、学校行事やホームルーム活動、部活動などで身に付けたコミュニケーション力や協調性、そして主体性などを発揮する場面もあるでしょう。つまり、高等学校教育におけるあらゆる学習活動で獲得した力を総動員して「探究」する姿勢が重要であり、社会事象そのものが貴重な教材となるのです。

「自己の在り方生き方」とは、学校で習うことを自分の人生やキャリアと結びつけるという意味です。これまでの高校での学びは往々にして大学合格や就職のための手段となりがちだったことは否定できません。しかし、本来、学校での学習活動は将来社会ではたらき生活する際の基礎となるべきもののはずです。現在取り組んでいる学びが自分の将来にどのように結びついているかが見えなければ学びへの意欲はわかないでしょう。自分の将来を思い描きながら、そこで必要となる知識や技能を身に付けられる学びならいいですよね。そして、自分の人生で今何をすべきか、どうすれば目標を達成できるか、自分にとっての課題は何かを追い求め、その答えを見つけていく。これが本当の勉強のはずです。

探究学習の意味・求められる社会背景

これからの社会はどのように変わるのか、近年耳にするようになった「Society5.0」「VUCAの時代」といった言葉についての説明を通して考えてみましょう。

「Society5.0」は、2016年の内閣府「第5期科学技術基本計画」で示された言葉です。狩猟社会(Society1.0)、農耕社会(Society 2.0)、工業社会(Society 3.0)、情報社会(Society 4.0)に続く、「超スマート社会」(Society 5.0)を指すものです。ネットワークやIoTを活用して経済成長や健康長寿社会、社会変革につなげていくような我が国が目指すべき未来社会の姿として提唱されました。「VUCAの時代」は、2016年の世界経済フォーラム(ダボス会議)でVUCAワールドとして用いられました。Volatility(変動性)、Uncertainty(不確実性)、Complexity(複雑性)、Ambiguity(曖昧性)の頭文字をとった造語で、現在の価値観が通用しない、予測不可能な社会の到来を意味します。それだけでなく、2020年の新型コロナウイルス感染症は世界の人々の生活様式を一変させました。また、甚大な被害が想定される首都直下型地震や南海トラフ地震もいつ起きても不思議ないと言われています。

大きな社会の変化が予想されるこのような時代を生きるためには、従来我々が身に付けてきた能力に加えて、さまざまな人と協働的に課題に取り組み、主体的な姿勢で学び続け、変化に対応しながら答えのない問いに向き合うための資質・能力、実践的な力が求められます。

探究学習で身につく力とは

今までの学校の学びは、知識量や情報処理能力に重点が置かれてきました。いわば、暗記・再生型の学びです。しかし今はインターネットで検索すれば、瞬時に最新の情報を大量に手に入れることが可能です。そして、日々社会が変化する現代、身に付けた情報も常に更新しなければその価値はすぐに低下してしまいます。知識の蓄積に力を注ぐことはそこまで重視されなくなるでしょう。そこで今大切になりつつあるのが、獲得した知識・技能を活用し、それを武器に探究する資質・能力(コンピテンシー)です。

では、コンピテンシーとはどのような能力を指すのでしょうか。2003年にOECDのプロジェクトが定義した、「キー・コンピテンシー」は、思慮深さ・振り返り(Reflectiveness)を中心に置き、「異質な集団で交流する」「自律的に活動する」「相互作用的に道具を用いる」の三つのカテゴリーが示されています。この考え方に基づき、日本でも新しい学習指導要領には「知識・技能」「思考力・判断力・表現力等」「学びに向かう力・人間性等」の「学力の三要素」が示されています。

図1 文部科学省「平成29・30・31年改訂学習指導要領の趣旨・内容を分かりやすく紹介」より

れら学校の学びを通して習得すべき力の変化は、高校生の皆さんが卒業後に進む大学や社会で求められる力とも深く関連しています。大学入試では、2020年に大学入学共通テストが導入され、各大学の入試改革も高校における学習活動の変更に沿って進められる「高大接続型入学者選抜」が推進されています。多くの大学の入学者選抜では学力試験を中心とする「一般選抜」から、志望理由書や成果報告書、小論文、面接なども用いて受験生が高校生活で体験的に身に付けた学ぶ力や意欲、主体性などを総合的に評価する「総合型選抜」へと比重を移しつつあります。

また、企業が求める人材傾向も変容しています。日本経団連が2022年に実施した「採用と大学改革への期待に関するアンケート」によれば、期待する資質として「主体性」「チームワーク・リーダーシップ・協調性」「実行力」があげられ、期待する能力として「課題設定・解決能力」「論理的思考力」「創造力」が上位となっています。また、期待する知識として「文系・理系の枠を超えた知識・教養」がトップとなっています。今までは「まじめさ、素直さ、誠実」といった協調型の資質が求められていた日本社会でも、主体的にリーダーシップを発揮できる人材、困難な課題に向き合い創造的に物事をとらえる能力が求められるようになってきたことがうかがえます。

探究学習の進め方

とはいっても、今までの授業のカリキュラムやプログラムでこれらの資質・能力を育成するのは簡単ではありません。そこで新たに設置されたのが「総合的な探究の時間」です。その目標の中に「実社会や実生活と自己とのかかわりから問いを見いだし、自分で課題を立て、情報を集め、整理・分析して、まとめ・表現することができるようにする」との記述があります。総合的な探究の時間では、この、

①課題の設定 ⇒ ② 情報の収集 ⇒ ③ 整理・分析 ⇒ ④ まとめ・表現

のサイクルを繰り返すことが求められます。教員や地域の大人たちの支援を受けたり、大学や関係施設に問い合わせをすることも大切ですが、みなさん自身が主体的に取り組むことが求められます。

課題の設定

「課題の設定」では、どのようなテーマに注目し取り組んでいくのかを明らかにします。探究活動は個人、あるいはグループで行うことが多いと思います。いずれの場合でも自分自身のこと、身の回りのこと、地域のこと、社会のこと、という風に徐々に関心を広げていくと、興味深いことや、疑問に感じることが見えてきます。それを問いの形にすれば、それが皆さんにとっての課題となります。また、日々の授業で学習した内容から課題が探せることも多いはずです。例えば、運動部に所属している方で「来月の大会で入賞したい」という思いを抱く人にとっては、「大会で実力を発揮できるメンタルを持ち続けるにはどうすればよいか」という問いが作れます。また、自分が暮らす地域の衰退が気になる人にとっては、「地域の商店街を活性化させるには」という課題が思い浮かぶでしょう。課題が設定できたら、その課題解決に向けた「仮説の設定」を行います。

情報の収集

そして、立てた仮説を検証するための根拠となる「情報の収集」を行います。その方法には文献調査、実験・観察、フィールド・ワーク、アンケート、インタビューなどさまざまありますが、実施が可能で仮説の検証に効果的な方法を選択します。また、それぞれの方法ごとに身に付けるべきスキルがあります。文献調査であれば、必要な情報はどのような文献に掲載さているのか、ほしい文献はどのように入手するのか、獲得した情報はどのようなスタイルでまとめるのか、などです。アンケート調査や実験観察にしても実施する前に事前準備や実施上の注意点など確認すべき内容があります。

整理・分析

情報が集まったら、次に「整理・分析」を行います。収集した文献資料や実験等で得られた数値データなどの情報を比較、分類、関連づけを行いながら整理します。情報の整理に役立つのがさまざまな思考ツールです。また、詳細なデータを取捨選択して表やグラフにしたり、集計したりするうえで便利です。整理された情報をもとに、状況の分析を行います。立てた仮説は検証されたのかどうか、その要因は何か、どうすれば課題の解決に近づけるのかなど検討します。そして、できるなら課題解決に向けて何らかのアクションを実際に起こしてみたいですね。場合によっては皆さんが将来起業して何らかの事業を起こすきっかけとなるかもしれません。

まとめ・表現

分析した後に「まとめ・表現」を行います。これまでの探究活動を振り返りまとめていきます。それを他者に伝わる方法を工夫しながらレポートやポスター、スライドなどを作成してみましょう。文字であれ口頭であれ、「言語化」することは、皆さんの活動を整理するうえでも大いに役立ちますし、まとまった内容をプレゼンテーションする力も身に着きます。また先生や他の生徒の質問を受けることで自身の取り組みを深く理解することにもつながります。そして、振り返りを行う中で、調べたりなかったことや別の検証の方法、新たな課題の設定などが頭に浮かぶと思います。これらの思いを大事にしてください。こうした疑問やもやもやが、次なる課題設定の大きなヒントとなるはずです。探究活動は1サイクルで終わることはほぼありません。3年間の「総合的な探究の時間」の活動内でも探究サイクルを複数回す学校もありますし、大学入学後や社会に出てからも探究的な取り組みを皆さんは必ず行っていくはずです。

 図2 (文部科学省「高等学校学習指導要領解説 総合的な探究の時間編」より)


探究的な学びは大学での学修や社会でのはたらき方、生活にも必ずプラスとなるものですし、皆さんの可能性を広げてくれるきっかけともなるでしょう。この学びを通して社会で「よりよく生きる」ための力を身に付けてください。

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この記事を書いた人

宮城県の公立高校教員として勤務。授業では国語を教え、部活動では高校・大学で競技経験のあるフェンシングの指導を行ってきた。指導のベースにあるのは「指導より支援、主体性の尊重、失敗の許容」の思い。2023年3月までは石巻西高校で校長を勤め、文部科学省の指定事業などで地域と連携した探究学習を推進した。

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