データ分析に必要な「ディジタル信号処理」を研究する

石巻専修大学の理工学部情報電子工学科の阿部正英先生。ディジタル信号処理に関する研究を行っています。自身の研究内容に加えて、これまでの経緯・理系の進路選択など、高校生へのアドバイスも含めて、阿部先生に話を聞きました。

目次

コンピュータへの興味から研究者の道

私は大学院を卒業後、東北大学に研究者として入職し、20年以上ディジタル信号処理の研究を続けてきました。現在の石巻専修大学には2021年から縁あって迎え入れて頂けることになりました。

出身は奈良県です。小学生くらいの時にコンピュータ(当時マイコン)が普及し始めたこともあって、コンピュータの分野をもっと知りたいと思い、東北大学工学部へ進学しました。東北大学工学部では、電気・通信・電子・情報の4つの分野を一通り学ぶことになっているのですが、やはりコンピュータの原理を学んだり実際にコンピュータを扱ったりする、情報系の授業が好きで、現在行っている信号処理の研究室に興味を持ちました。

その後大学院に進み、卒業後に研究者・大学教員の道を選ぶのですが、修士の頃から学部生への指導を担当したこともあり、教育への関心があったことも、今の仕事を選んだ理由の一つです。

音声・画像などの様々な信号を分析

現在は、信号処理という分野の研究をしています。音声・画像・映像などの様々な信号を分析・加工する研究分野です。分かりやすい例で言うと、新型コロナウイルスの感染者数の推移から、感染拡大の傾向分析を行う際に、“移動平均”という一定期間のデータの平均値をつなぎ合わせてグラフ化する手法を使うのですが、これも信号処理の一つです。

“タイムラプス”という一定の間隔を空けて撮影した写真をつなぎ合わせて早送りのような動画を作る手法があるのですが、これを使う際に画像のノイズを除去するのも信号処理です。

ディジタル信号処理の技術を応用し、人間の呼吸状態や脈拍の情報を計測するための研究もしています。専門的に言えば生体信号計測という分野になりますが、具体的には、離れた位置から距離を測るセンサーやカメラで人間の動きを計測するのですが、呼吸をする上で起こる腹部・胸部の動きを計測したり、人間の顔の微量な色素の変化をもとに、呼吸状態や脈拍の変化を可視化したりする研究です。

センサーやカメラからの元データだけを見ても信号の変化が小さくて分からないのですが、信号処理によってノイズを取り除くことで、呼吸や脈拍の変化をグラフにすることができます。将来的にはそういった技術を活用して非接触で体調管理を行う製品等の開発にも役立てられるかもしれません。

私の行っている信号処理の分野では「データ分析の結果、何を知りたいのか」という目的を明確にすることが重要です。新型コロナウイルスの感染者数の例でいえば今後の感染が増えていくのか減っていくのかなどをみることが目的ですが、もともとの生データには不要なデータが多数あるため、そのままでは分析することはできません。

そこで必要なのが信号処理で、大量のデータを信号処理するためには、プログラミングが必要になります。例えば、コンピュータがデータ処理する上でも、人間が分かるように可視化する上でも、「ノイズ除去」と言われる、不要なデータを除去する信号処理が必要になるので、そのためのプログラミングが必要です。そのために、MATLABなどのデータ処理を行うソフトウェアがあり、これらを使って信号処理ができるようになるために、プログラミングを学ぶ必要があります。


今後求められる信号処理

文系でもデータサイエンス(データに基づいて何をやるか)が求められる昨今、私が研究している信号処理は、これからますます必要とされる分野だと感じています。

AIへ投入する学習データのノイズ除去や自治体等で公表しているオープンデータの活用など、様々な分野で広い意味での信号処理は使われています。アルゴリズムを考えるのは理系の人ですが、その活用を考えることは理系・文系関わらずに必要となるでしょう。

高校生に伝えたいのは、「この科目を勉強しなければならない」という受動的な学びから、「こういうことをしたいから、こんな学びをしたい」というように、能動的な学びに意識を転換していって欲しいということです。

最近は探究やアクティブラーニングと呼ばれるような能動的な学びの時間も増えてきているかとは思います。とはいえ小・中・高校生にとって学校での学びとは、数学や英語といった「教科を学ぶ」意識が強いと思います。一方で、社会に出て必要なのは課題を解決するために知識・経験を総動員して取り組むことですし、大学や大学院の研究も同じく、各研究室で取り組むテーマ(課題)があります。

探究学習については、最初は取り組むテーマを先生や先輩が指導してくれると思いますが、本来の研究とは自分で取り組むべきテーマ自体を設定し、結果が想定と違ったらまたやり方を変えてやってみるといった仮説検証を繰り返していくことです。ではどうやって自分の興味があることを見つければいいかというと、逆説的ですが探すものではないんです。興味分野を探すというよりも、普段の生活の中で自然とそっちに目がむくような、何かと出会うのに近い感覚です。気づいたらそこに進んでいたというような。だから最初は自分の興味のあることと出会うために様々な知識を付けてみて、探究や研究をしてみて、そこから派生して関連分野等に興味を持ち、さらに知識を広げていくとよいと思います。

おすすめの本

結城浩「数学文章作法 基礎編」 (筑摩書房)
結城浩 「数学文章作法 推敲編」(筑摩書房)
高橋佑磨、片山なつ 「伝わるデザインの基本 増補改訂3版 よい資料を作るためのデザインのルール」 (技術評論社)

どんな研究分野に進むにしてもやり方を学ぶ・スキルをつけるというのは大切です。例えば、研究をやると、研究結果を必ず発表することになります。どう伝えるのかもとても大切なので発表の仕方を学ぶのは大切です。大学に入っても学ぶことになりますが、今のうちから基礎を磨いていくためにも、お薦めの本です。

(本の情報:国立国会図書館サーチ)

写真提供=阿部先生


石巻専修大学の学びを知る

①情報電子工学科『信号処理って何?~一日ごとの感染者数(グラフ)をもとにした信号処理の紹介~』紹介動画

②地域連携プロジェクトに取り組む石巻専修大学生の声

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