
上場企業の社長が母校・仙台高校へ
2026年9月24日、仙台市立仙台高等学校で、卒業生である株式会社ダイブグループ代表取締役社長の庄子潔さんによる講演が行われました。庄子さんは、仙台高校を1997年に卒業。現在はリゾートバイトを中心に観光地の人手不足を解消する人材サービスを展開されています。
庄子さんはちょうど30年前、仙台高校の3年生でした。卒業後は2年間アメリカに留学し、帰国後は派遣社員としての勤務を経て、会社の設立に参画。その後代表取締役を引き継ぎ、コロナ禍を乗り越えて2024年に上場を成し遂げました。庄子さん自身、いつかは自分の経験を母校の生徒に話したいと思っていたそうです。
仙台高校の先生方も「先輩のお話をぜひ全員に聞かせたい」との思いから出前授業を企画。授業当日、会場の体育館には全校生徒約800名が集まりました。校舎の大規模改修工事で内装は整えられましたが建物は当時のままで、庄子さんは懐かしそうな面持ちで生徒たちの前に立ちました。

無意識につくる「枠」にとらわれない人生を
講演の冒頭、庄子さんが生徒たちに出したのは「9つの点を、4本の直線で一筆書きする」という問題です。

生徒たちは、9つの点の内側に線を引いて一筆書きをしようとしますが、うまくいきません。生徒の様子を見て「『点の内側だけに線を引く』という条件はどこにもないよね」と話した庄子さん。点の外まで線を伸ばすとうまくいくことを示しました。
庄子さんは、この問題を人生に重ねました。「『高校を卒業したら、こういう仕事』、『自分の学力ならこのくらい』。無意識に自分自身が作った「枠」にとらわれているかもしれません」
常識そのものが悪いわけではなく、社会で生きていくためには、ルールや常識も必要です。ただ、それを「自分の可能性の上限」にしてしまうと、見えなくなる選択肢があります。庄子さんは、まず自分が無意識につくっている「枠」に気づくことの大切さを生徒たちに伝えました。
失敗と挑戦の人生を後輩たちに共有する
「人生は自分の未知を知る旅」と題した今回の講演。庄子さんは、これまでの自身の人生を後輩たちと共有しました。
仙台高校に通っていた時、庄子さんが打ち込んでいたのは、音楽。高校時代に出会ったヒップホップに夢中になりライブハウスに通いつめ、DJとして活動していたそうです。「将来は音楽で生きていきたい」と考えた庄子さんはあることを考え付きます。
「高校を卒業したら、アメリカに行って音楽をやろう」
先生をはじめ、周囲にはなかなか理解されませんでした。さらに、留学のためにはビザが必要になります。見学に行ったアメリカのコミュニティカレッジの教員や実家の寿司屋の常連だった大学教員に推薦状を書いてもらい、何とかビザを取得してアメリカに渡りました。
本場の音楽文化に触れ、充実した留学生活を送っていたものの、留学2年目に高速道路で大きな事故に遭い車が大破。学校に通えなくなって中退し、帰国することになります。

再び仙台に戻り仕事を探し始めますが、どんな仕事に応募しても選考に落ち続けます。最終的には派遣社員として工場でパイプを作る仕事に就きました。
そして2週間に1度、工場を訪れては声を掛けてくれた派遣元の担当者との出会いが転機となりました。「この人のように、自分のような人の力になりたい」との思いから人材業界へ進み、2003年にダイブグループの創業メンバーとして参画しました。
そこからがむしゃらに働き仕事を任せられるようになり、2012年には社長に就任。さらに会社は成長していきましたが、2020年、新型コロナウイルスの感染拡大によって、観光業に特化していた会社は大きな打撃を受けました。売上は大きく落ち込み、前年から80%減少。しかしそこで改めて自分を見つめ直し、V字回復を成し遂げ、2024年に上場を達成しました。
庄子さんは様々な苦難を乗り越えた人生を振り返りながら、「人生の途中の失敗も、そこで終わらせたら失敗だが、失敗の経験を未来につなげることができれば、成功につながる」と強調しました。
後輩たちへのメッセージ
講演の最後、庄子さんは再び「9つの点を、4本の直線で一筆書きする」問題を示し、「枠の外に出たとき、今まで見えてこなかった答えが見えてくる」と繰り返しました。
庄子さん自身の人生はまさに、「枠の外」に出ることの連続でした。だからこそ、生徒たちに伝えたかったのは、今見えている選択肢だけで自分の可能性を決めないこと。未知の世界に一歩踏み出すことで、自分の可能性が見えてくる。可能性が増えれば、人生の選択肢も増えていくということです。
最後に庄子さんは、30年前の自分自身へ向けた言葉を、生徒たちへ語りかけました。「君はまだ、何者でもない。そして、自分が何者になれるのかも、まだ知らない。だから、答えを探す人生じゃなく、見たことのない景色を探す人生を歩んでください」
講演後の質疑応答の時間では、2名の生徒が質問しました。
1人目の生徒は「その行動力の源泉は何なのか。挑戦するとき、何を考えているのか」と質問。これに対して庄子さんは「なんでそうなんだろう、という好奇心に対して素直に行動している」と話し、好奇心をそのまま行動に移してきたことが、自分の行動力につながっていると答えました。
2人目の生徒は、「周りの目を気にして、自分のやりたいことをできないときはどうしたらいいか」と質問しました。庄子さん自身も、「今でも周りの目は気になる」と率直に答えたうえで、「周囲の価値観だけで自分の人生を決めてしまうのではなく、まずは小さなことから始めてみたらいいですよ」と助言しました。

30年前、同じ校舎で高校生活を送った庄子さん。その人生は、最初から決められた一本道ではありませんでした。「未知」に出会い、そこから新しい自分を知り、次の選択肢を見つけていく。その経験を伝える講演は、今まさに未来を選ぼうとしている仙台高校の生徒たちにとって、自分自身の可能性を考えるきっかけとなりました。
