探究分野解説「地域・まちづくり」

少子高齢化が進む日本。地方では人口の50%超が高齢者となる限界集落が生まれています。逆に東京には人口が集中し都市機能の維持が困難になっています。今後日本のあらゆる地域を元気にするためにできることは何か考えてみよう。

ここでは、「地域・まちづくり」にまつわるテーマや調査・研究の時に有効なデータベース、GATEWAYの記事へのリンクを紹介していきます。

目次

探究テーマ「まちおこし」

「まちおこし」という言葉を聞いたことがあるだろうか。まちおこしとは、地域おこしとも言い換えられ、地域が経済力や人々の意欲を向上させたり、人口を維持したり、増やしたりするために行う諸活動のことを指す。

安倍政権の政策において「地方創生」として表現され、内閣府のサイト「地方創生」では、「人口急減・超高齢化という我が国が直面する大きな課題に対し、政府一体となって取り組み、各地域がそれぞれの特徴を活かした自律的で持続的な社会を創生することを目指します」と記されている。

現代の日本において、人口減少・少子高齢化は深刻な問題である。日本は総人口に占める、65歳以上の割合が28%を超える超高齢化社会であり、人口も年々減少している。特に地方部では、東京、大阪、名古屋の三大都市圏に向けて多くの人々が流出している。この現状を受け、国の政策として「まちおこし」を進めているのである。

「まちおこし」とは、主に地方部での取り組みのことを指すが、どの都道府県、地域にも課題は必ずある。これを機に、自分の地元や興味のある地域の課題を考えるきっかけにしてほしい。

内閣府のサイト「地方創生」から、いくつかまちおこしの事例を紹介する。

宮城県塩釜市

東日本大震災の津波で被災した歴史的建造物を、NPOと市民が観光・交流施設として再生を目指している。商店街において賑わいづくりなどの取り組みが広がるなど、復興まちづくりが進められている。津波により、取り壊しの危機にあった明治初期の建造物を、市民有志によりNPO団体が中心となって、2016年に再生活動を始めた。1階はカフェ、2・3階は市民交流の場として活用し、賑わいが復活した。また、再生に際して市民による清掃活動などが行われた。

結果として、2013年と比べ、建物付近の歩行者交通量の増加に成功した。

福島県喜多方市

日本最大数の「蔵のまち」において、空き蔵を活用したまちづくりを推進する活動が行われている。「蔵のまちづくり博覧会」の開催による住民意識の醸成やまちづくり方針の共有、東京大学と連携した活用方策の提案等により、民間が主体となった空き蔵の改修や新規開業などが拡大し、賑わいづくりにつながっている。

主に民間主体では、大学や学生と連携して空き蔵の保存・活用にかかる取り組みを実施している。一方、県や自治体は改修にかかる補助金制度や、空き店舗を活用した開業に対する家賃補助などの支援を行っている。

岩手県久慈

道の駅を核として、周辺の個店の魅力向上により観光客の取り込みに成功した。物産館は地元客にも利用され、中心市街地の核施設として機能する。テレビドラマの放送を契機に浸透した「海女」のブランドイメージを活用し、放送終了後も継続的な賑わいを創出している。

2013年に放送された人気ドラマのロケ地となったことをきっかけに、観光客に向けた商品や観光地づくりを実施した。市街地の空き店舗を改装し、ドラマに使用した小道具展示やグッズ販売を行うことで、集客を拡大した。

結果として、道の駅の年間販売額はドラマ放映前を大きく上回ることに成功した。

このように災害やメディアによる影響をきっかけにまちおこしに取り組む地域もあれば、地域の魅力を活かしてまちおこしに取り組む地域もある。まちおこしの方法は多種多様である。これを機に、自分の地域の魅力を再発見し、課題に対して見つめ直すきっかけにしてほしい。

参考資料)内閣官房・内閣府総合サイト「地方創生」地方創生関連事例https://www.chisou.go.jp/sousei/data/case.html

さらに、近年はまちおこし・地域活性化に「デジタル技術」を活用するという考え方のもと「デジタル田園都市国家構想」という考え方が広がっている。これはデジタル技術を活用することで、人口減少・少子高齢化、過疎化・東京圏への一極集中、地域産業の空洞化といった、地域の社会課題の解決と魅力の向上を図り、「全国どこでも誰もが便利で快適に暮らせる社会」を目指すというものである。特に優れたものを表彰する「Digi田(デジデン)甲子園」のウェブサイトには、デジタル技術を活用した地域活性化の事例が紹介されている。

参考)政府広報オンライン「デジタル田園国家構想」
https://nettv.gov-online.go.jp/prg/prg24608.html

参考)内閣官房:「Digi田甲子園」
https://www.cas.go.jp/jp/seisaku/digitaldenen/archives/koushien/index.html

探究テーマ「商店街活性化」

近年、地方都市を中心として少子化高齢化や人口減少が急速に進んでいる。それに伴い、特に地方の商店街では後継者不足による空き店舗の増加、消費スタイルの多様化や大型店との競争など、様々な課題を抱えている現状である。そこで中小企業庁では、3年に1度、全国の商店街に対し、景況や直面している問題、取り組んでいる事業等について調査を実施している。今回は令和3年度の調査をもとに、商店街の現状について見ていく。

1商店街あたりの平均店舗数は、平成27年度が54.1店舗であるのに対し、令和3年度では51.2店舗とやや減少していることがわかる。1商店街当たりの平均空き店舗率に関しても、平成18年度の8.98%に対し、令和3年度では13.59%と、空き店舗自体も増加傾向にあることがわかる。この調査は都市部も含めた全国の商店街を対象としているため、地方ではさらに店舗の減少、空き店舗の増加が進んでいると考えられる。

商店街の最近の景況に関して「衰退している」、「衰退の恐れがある」と答えた商店街は合わせて67.2%である。また、最近3年間の商店街への来訪者数の変化に関して、「減った」と答えた割合は、平成30年度が55.1%であるのに対し、令和3年度では68.8%とかなり上昇していることがわかる。これらのことから、地域に関わらず多くの商店街が課題を感じていることが分かる。

経営者の高齢化による後継者問題、店舗の老朽化、商圏人口の減少など、商店街が抱える問題は山積みである。今回は、「商店街活性化」に着目し、事例とともに様々な取り組みについて見ていこうと思う。

参考)令和3年度商店街実態調査/中小企業庁https://www.chusho.meti.go.jp/shogyo/shogyo/2022/220408shoutengai.htm

八日町商店街 宮城県気仙沼市

八日町商店街は、気仙沼駅から歩いて約 15 分に位置し、商店街の中央部には気仙沼市役所が立地している。飲食店や衣料品店、家具屋、金物屋など、様々な店舗が営業している。

東日本大震災の津波被害によって生じた空地、空き店舗の有効活用、少子高齢化により衰退する商店街の活性化を課題として、2017年から取り組みを始めた。主な取り組みとして、空き地・空き店舗を活用した様々なイベントの実施が挙げられる。具体的には、空き地での映画鑑賞会など、2018年2月から10月にかけてイベントを計10回行った。その他にも、「八日町のアカリプロジェクト」と題して、足元の高さに照明を設置することで、空き地や駐車場などの暗がりが目立たず、歩道空間が活きる街並みを実現した。

結果として、これらの取り組みは民間のコンペティションにて特別賞を受賞し、昼間の来訪客の増加、商店街全体の来訪客の増加につながった。

大曲花火通り商店街 秋田県大仙市

大曲花火通り商店街は、秋田県大仙市の JR ⼤曲駅⻄⼝の南に立地している。⽇本三⼤花⽕⼤会の⼀つとして知られる「全国花⽕競技⼤会」(通称「⼤曲の花⽕」)の開催地としても有名である。

商店主の高齢化による店舗数の減少や、来訪者数の減少を課題として2012年から取り組みを始めた。主な取り組みとして、歴史や地域資源を活かしたブランドの開発を行った。具体的には、地元酒蔵と戦前の銘柄を復活させた日本酒や甘酒、地元の鮭養殖業者と共同開発した鮭の燻製など、各店の強みを活かした計7品を開発した。また店主が講師として、専門的な知識や情報を無料で来訪者に伝える「まちゼミ」を開催した。店主と来訪者のつながりを創出するだけでなく、まちゼミの準備を通じて各店同士が知り合うきっかけにもなっている。

結果として、新規出店の増加、新しい客層の獲得につながるだけでなく、まちゼミを通して店主同士での情報交換の機会が増え、新しいイベントの企画・開催などにもつながっている。

七日町商店街 山形県山形市

七日町商店街は、山形県山形市の市の中心部にあり、JR山形駅から市役所に向けた通りに立地し、 山形駅から徒歩 15 分に位置している。400 年以上前からある商人の町として栄えている。

高層マンションを含む都市開発による地域住民・来訪者の属性の変化に対応し、地域住民のニーズにこたえるまちづくりを目指して、2016年から取り組みが始まった。具体的な取り組みとして、まずビジョンの統一化を行った。商店街振興組合、まちづくり会社、NPO法人、町内会の4組織が連携して活動をしていたが、各組織が掲げるまちづくりのビジョンの方向性がばらばらであったため、検討会を立ち上げ、方向性を統一した。また、住民ニーズに合った商店街づくりを行うため、地域居住者へのアンケート調査を実施し、子育て支援施設や観光案内所、地場商品のアンテナショップ、駐車場のニーズが高いことが浮き彫りとなった。そこで、上記の4つの機能と、多目的利用ができるイベントスペースを備えた交流拠点施設を整備した。

結果として、多くの来訪者の呼び込みに成功し、高層マンションなどで増えた新たな客層のニーズに合う商店街へと変化した。

参考)商店街における取組事例集/中小企業庁中小企業庁ホームページ
地域の持続可能な発展に向けた商店街づくりのノウハウ集
別冊:商店街における取組事例集
https://www.chusho.meti.go.jp/shogyo/shogyo/2022/220426shoutengai.html

探究テーマ「人口減少」

現代の日本が抱える社会問題の一つが「人口減少」であり、特に地方では「人口減少」が深刻だ。人口減少に直結するのは「少子化」で、2020年の出生数は約84万人。2021年の出生数は過去最少の約81万人となっている。その親世代、1990年ごろの出生数は130万人前後だったので、親世代の約6割まで減少している。

「親世代の6割」という減少幅は、小学校の教室に例えてみればわかりやすい。親世代は40人の教室がいっぱいだったが、子世代では24人ほどになるという状況だ。また、この出生数の現状は今後も進行していくことが予想される。

参考:厚生労働省「人口動態統計」
https://www.mhlw.go.jp/toukei/list/81-1a.html

「人口減少」により様々な問題が引き起こされると予想されるが、その1つが「人手不足」である。注目すべきは15歳から64歳の「生産年齢人口」の減少。社会の中の働き手となる年代であるが、この「生産年齢人口」が減少するとこれまで維持していた社会の様々な機能が維持できなくなる。この「人手不足」により、高齢者世代や外国人労働者の活用、さらにはAIやロボットの活用、デジタル技術を使った「働き方改革」などが進められている。

例えば1人の労働者に集まる求人数を表す「有効求人倍率」も高い状態が続いているが、これは慢性的な人手不足に起因する面も大きい。「人手不足」がより深刻化するのは地方だ。例えば岩手県では2020年の「生産年齢人口」が65.8万人。これが2045年には42万人まで減少することが予想されている。

例えば農業・漁業などの農林水産業の担い手はどうなるのか。福祉や医療の機能をどう維持するのか。商店街のにぎわいをどう維持するのか。そして空き家や耕作放棄地などの課題をどう解決するのか…様々な課題をよりよく解決していくことが求められている。

そして、まさにこの2045年に社会の中核となって働いている世代が今の高校生となる。人口減少により、もしかしたら様々な問題が起こるかもしれないが、逆に言えば、様々な新しいチャレンジが各所で起こる可能性がある。高校生のうちから、「人口減少」の課題と日本の将来の行く末を探究していくことは必ず将来に生きてくるはずだ。

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人口ビジョン

「人口減少」の課題を考える基礎的なデータとして、まずは自分たちが住んでいる地域の「人口ビジョン」を見てみることがおすすめだ。2014年に制定された「まち・ひと・しごと創生法」により、各都道府県や市町村が作ったのが「人口ビジョン」。「○○市人口ビジョン」、「○○県人口ビジョン」などと検索ワードを入れると検索することができる。

この「人口ビジョン」では、今後の人口の目標値や具体的に解決すべき課題、住民によるアンケート結果などが網羅的に掲載されており、インターネットで手に入れられる基礎的な情報としては有効だ。

また、「RESAS(地域経済分析システム)」を使えば、各地域の人口構成や人口増減の状況がをわかりやすく知ることができる。
https://resas.go.jp/#/3/03201

特にわかりやすいのが「人口の社会増減」に関するマップ。市町村ごとに、どこの市町村から転入があり、逆に転出していくのかを知ることができる。さらに年代別の分析もできて非常に便利だ。どこに転出していくか?がわかれば、解決策も考えやすい。例えば人口が東京に流出する、のであれば、東京で何か地域の魅力をPRする、とか東京にいる人たちに対して何かをやってみる、などの解決策があるだろう。
https://resas.go.jp/population-society/#/map/3/03201/1/1/1/2021/5.333900736553437/41.42090017812787/142.29371418128918

また「人口構成」に関するマップについても、「生産年齢人口」や「高齢人口」の人口の状況をわかりやすく知ることができる。
https://resas.go.jp/population-composition/#/map/3/03202/2021/0/0.0/5.333900736553437/41.42090017812787/142.29371418128918/-

関係人口

「人口」の捉え方にも多様性が広がっている。そこで広がってきた考え方が「関係人口」という考え方である。「関係人口」について、総務省のHPでは下記のように定義されている。

「関係人口」とは、移住した「定住人口」でもなく、観光に来た「交流人口」でもない、地域と多様に関わる人々を指す言葉です。

出典:総務省「関係人口」ポータルサイト
https://www.soumu.go.jp/kankeijinkou/about/index.html

例えば単に1回観光に来ただけではなく、定期的な行き来がある、である、とか、以前住んだことがあって、年に数回は訪れている、であるとか、学生時代にフィールドワークで訪れていて、そこからの関わりがある、とか…何らかの接点、関わりがあることを「関係人口」という。

具体的な事例についても総務省「関係人口」ポータルサイトの中にまとめられている。

参考)総務省「関係人口ポータルサイト」
https://www.soumu.go.jp/kankeijinkou/interview/index.html

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東日本大震災後に整備されたJR女川駅前の商店街

子育て環境の整備

「人口減少」を食い止めるために必要なのが安心して子供を生み、育てることができる子育ての環境である。特に医療や教育の課題がある。まずは安心して子どもを生めるだけの医療体制が整っているか。そして子どもの医療費はどうなっているのか、幼稚園や保育園は十分に整っているか、など多様な課題が存在している。

自治体によっては、子どもの医療費を無償化したり、子育て世帯が快適に住める住宅を整備するなど、子ども、若者向けの取り組みに力を入れているところもある。自分たちが住む自治体でもどんな取り組みがあるか調べてみよう。

「地域・まちづくり」の探究に役立つWEBサイト

内閣官房・内閣府「地方創生サイト」

地方創生・地域活性化に関する事例が数多くまとめられているポータルサイト。

https://www.chisou.go.jp/sousei/case/index.html

地域資源クエスト


「地域資源クエスト」は地域資源を見直すワークシート集。「みつめなおし」「まなびなおし」「おもいおこし」「みなおし」「つなぎなおし」「ふりかえり」の6つの構成でフィールドワークやディスカッションに使うことができる。地域資源に対し深い理解と新しいアイデアの創出を目指します。

https://ru-cas.jp/rediscovery/quest/

RESAS

内閣府が提供する地域経済分析システム。人口減少や産業構造についてのビッグデータの分析が可能。例えば人口の変化については市町村ごとの分析も可能。デザインもわかりやすい。

https://resas.go.jp/#/4/04100

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この記事を書いた人

探究百科GATEWAYの編集部です。高校生の「探究」に役立つ情報や探究分野の解説、探究の方法について発信します。

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