海外進学で気づいた、日米の違い

和歌山県田辺市という、自然豊かな田舎で高校時代までを過ごした尾花満衣子さん。その後は日本の大学の工学部進学を経て、アメリカの大学院に進み、現在はアメリカの製薬会社で新しい薬の初期開発を行うなど、「世界のリケジョ」としてご活躍されています。

今回はそんな尾花さんに、海外の大学院に進もうと思ったきっかけや、海外と日本での教育・就職の違いなどのお話を伺うことができました。この記事では、「海外」・「教育」・「理系」に興味のある皆さんにとって、きっとタメになること間違いなしの「尾花さんの経験談」をお届けします。

目次

海外で理系研究を行うという夢

私は中学・高校時代はテニス部に所属していて、部活に打ち込んでいました。実家は高校から15キロほどの自然豊かな場所にあり、高校には原付バイクで通っていました。その当時は、理系に進もうとは考えていなかったのですが、海外には興味がありました。

私が中学生の時はちょうどイラク戦争が大々的に報道されていたときで、「日本はこんなに平和なのに、海外では大変なことが起きている」と驚いたのと同時に、「国際支援」をしたいと思ったことを覚えています。ただ、文系科目がやや苦手だったため、理系に進学をしました。

大学に進学した後もなかなか将来像が決まらなかった私ですが、海外に対する興味は変わらず持っていたので、大学3年生のときに夏季プログラムで3週間、アメリカの大学に短期留学しました。

そんな私が、理系の学問に対して本当に興味を抱いたのは、大学4年生のときでした。所属していた研究室の教授が海外で勉強・研究することを熱心に勧めてくださったのです。

教授が世界的に有名な方だったこともあり、研究室間の国際交流が盛んで、「理系でも国際活動が出来るんだ」と気が付きました。このことがきっかけで、「理系の研究者として海外で研究する」という夢を目指すようになりました。

日本とアメリカの違い

大学院では、主にケミカルバイオロジーやタンパク質工学を勉強しました。この分野を選んだ理由は、化学の力を使って生命現象を操作したり、解明したりすることがとても面白いと思ったからです。アメリカの大学院への出願に備え、いろんな研究室のホームページを調べる中で、自分が進学後にどんな研究をしたいかが具体的になっていきました。

アメリカに渡って一番大変だったことは、入学1年目にいきなり「ティーチングアシスタント」の仕事を任されたことです。ティーチングアシスタントとは、大学の講義や実験をサポートする仕事のことです。私が進学した学科では、大学院1年生全員にティーチングアシスタントの仕事が割り当てられました。アメリカ人の学生を相手に黒板の前に立ち、大学レベルの化学を英語で教えるのは、とても大変でした。

でも、困った時には周りの人に相談すると、力になってくれることを知りました。例えば、ティーチングアシスタントの仕事の負担が多く、自分の研究や授業をうまくこなせないと困っていた時、教務課に行くと親身に相談にのってもらえました。「英語がネイティブの学生ほど上手くないため、ティーチングアシスタントの授業の準備をしたり、宿題を作ったりするのにとても時間がかかってしまう」と相談すると、宿題作成や採点の仕事を減らしてもらうことができました。この経験から、「自分から声をあげれば変わるんだ」ということを実感しました。また、私の様子を知った大学の職員さんは、「他にも困っている学生がいるはず」と、他の留学生にも仕事が負担になっていないか尋ね、仕事量を調整してくれました。同じように困っていた留学生もたくさんいたので、1人が声をあげることで、他の人を助けることに繋がるということにも気付きました。


アメリカは多国籍文化なので、バックグラウンドの違う人たちが集まっています。そのため「違う」ということに対してみんなが寛容です。声をあげて色々な人と交渉して「自分たちでレールを作っていく」意識が強いと感じました。「普通」が存在せず、それまで自分が日本で感じてきた、「みんな同じ」という傾向とは違っていることを学びました。

就職活動~現在について(日本とアメリカの違いについて感じたこと)

私は日本とアメリカ両方で就職活動の経験があり、その違いを感じました。日本では、在学中になかなかやりたいことが決められず、学部3年生のときに就職活動をしました。この時は、「みんな一斉」に就職活動をしていました。

アメリカは通年採用なので、みんなが就職活動を一斉に進めるということはありません。また、会社に応募するのではなく、会社が求めている役職(ポジション)に対して応募します。私は今働いている製薬会社が自分が専門としていた「タンパク質工学の研究者」の募集をしていたので応募しました。

また、私は大学院生のときに結婚して、就職活動中から入社後の数か月の期間で、妊娠・出産も経験しました。妊娠中の大学院での研究活動や就職活動は大変さもありましたが、思った以上に研究室メンバーや会社の人事採用担当の方が理解を示してくれ、周りのサポートのおかげで乗り越えることができました。アメリカでは子育てをしながら働いている女性研究者の方が驚くほど多くいて、「出産・育児と、研究者としてのキャリアの両立は女性の権利である」という認識が広まっていることを感じました。

このように話しているとアメリカの良さだけが伝わってしまいますが、逆にアメリカに来てみて、日本の良さを知ることもあります。例えば、今まで日本では当たり前に受けられる手厚い医療福祉がアメリカにはありません。日本の歯医者だと数千円で親知らずを抜いてくれることが一般的なのに、アメリカでは保険を使っても数万円かかりました。保険のシステムもややこしく、行く病院によっては保険が効かなかったりするので、とても苦労します。他にも、夜でも街が安全、モノやサービスの質が高く安い、など、日本の良さはいろいろあります。このような日本の良さは、海外で生活をしてみなければ経験できなかったことなので、海外に進学して視野が広がったと感じました。

充実した経験の大切さ


アメリカでは、進学や就職で、「これまでにどんな活動をしてきたか」、「高校時代にどんなことをしたか」という活動履歴(ポートフォリオ)が重視されます。日本とアメリカで受験や就職を経験したことで、それまでに活動したことが多ければ多いほど履歴書の内容が充実して、希望する進路や目標が叶えやすいと感じました。そして、何よりそういった活動はどんな道に進みたいかを考える際にも役立つと思います。

◆おすすめの本
「Nature : The international journal of science」(Springer Nature Asia-Pacific)
世界で今課題となっていることや、それに対する科学的な取り組みを知れる。基本英文だが、一部日本語でも公開されている。

(本の情報:国立国会図書館サーチ)

写真提供=尾花さん

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この記事を書いた人

東京大学教育学部卒業後、全国紙の新聞記者として広島総局・姫路支局に勤務し事件事故、高校野球、教育、選挙など幅広い分野を取材。民間企業を経て、2021年に株式会社オーナーを起業し、本教材「探究百科GATEWAY」を開発し編集長を務める。

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