どうも、第4回を迎えました、森林に関してのコラムです。これまでのコラムはこちらからご覧ください。
今回は、貿易自由化に伴った日本の森林荒廃の原因について話していきましょう。
【森林を維持していくためには?】
そもそも論として、森林を維持するには何が必要でしょうか?
日本の国土の60%以上が森林であり、人工林はその40%にもなります。その他の平野部や高原が日本の都市部だと考えてみると、なんと日本の都市部と同じくらいの人工林が日本には存在するのです。
その手入れの為には人の手が非常に多く必要となります。柴刈り、枝打ち、間伐、これらは機械化が進んだ現在でも、一本一本確認しながら行わねばならないのです。
さらなることを伝えましょう。日本は非常に急峻な山が多く存在し、人工林もこういった厳しい斜面に多く存在します。なんとその平均斜度は27°です。この斜度がどれだけかというと、スキーだと30°から上級コースに認定されるほど。優しいコースだと5から10°くらいです。日本の森林は、一般のスキー場の厳しい斜面が普通なのです。
ちなみに45°を超えた斜面はすべて崖です。私たちが図形として扱っている角度は殆どが崖と言えるかもしれません。
そんな崖とも思える厳しい斜面に存在する森林の世話が必要なのです。つまり大量の人手が必要なのです。
戦前では森林はみんなの共有財産だったので、おじいさんが山へ柴刈りに行くことで人手を確保していました。時間外労働というなかれ。みんな等しく山からめぐみを貰っていたので、その管理のために動くことは村全体として必要なことだったのです。
では、現代は?
村社会というものが一度終焉を迎えた現代において、山を管理することは非常に困難です。少なくとも、人手が欲しいとなったら時給を支払う必要があります。そう、お金が必要なのです。
前回のコラムの終わりを見てみましょう。
1980年頃に最高値となった木材価格は需要の低下、貿易自由化の二つの理由により値下がりへと転換しました。そして、これこそが森林荒廃の原因そのものとなりうる大打撃となったのでした。
【木材価格の暴落と林業の衰退】
端的に見せた方が早いので見せましょう。木材価格の推移を表したグラフが、以下のグラフになります。立木(りゅうぼく)価格とは、山に生えている木をそのまま買い取ろうとしたときにかかる値段のことです。
ヒノキで見ると、1980年に約43,000円近くにもなっていた値段が、2009年には8,000円を切りました。スギはさらに深刻で、23,000円近くになっていた値段が2009年には2,500円と9分の1にまで下落してしまっているのです。
㎥単位で言われても分かりにくいかもしれません。
では実例を挙げてみましょう。大体1本の木からとれる木材の材積が大体0.4㎥。
こちらの写真、大学時代に私の友人が木登りをしている写真くらいのスギが該当します。なので、この男性が登っているスギの値段は、大体今の値段で1,200〜 1,300円くらいです。
人を優に支える太い幹を持つスギ。これが1200円。
どうでしょう。高いのか安いのか、これだけではわかりにくいかもしれません。
例えば、この木をがんばって1日に10本切ってようやく1.2〜1.3万円。
林業で年間240日働いたとして、これで大体年収が300万円くらい。
ちなみにこれはすべての利益が自分の物になったと仮定したものなので、実際にはもっと安い。なぜなら搬出の為の人件費や、経理作業を行う事務員さんを雇うためのお金、そして作業に必要なチェーンソー等の維持メンテナンス代など、かかるお金があるからです。そうなると、林業だけでは生計を立てることは難しいです。
【国が抱えた林業にまつわる失敗とその代償】
国有林は、日本の人工林の30%以上を占める莫大な面積を誇ります。そして、戦後の1947年に林政統一という形ですべての国有林を農林水産省が担当することとなりました。
戦後の木材需要は前回伝えた通りで、価格は高騰の一途をたどっていました。そうすると国民の声として、高すぎる木材需要に対応するため天然林から人工林への転換及び伐採量の増加が望まれました。この声に対して、国は応じざるを得ませんでした。その結果が下に示すグラフです。
グラフから読み取れることは、1966年当時で、人工林のほとんどが20歳以下。つまり、1945年の戦後に伐採・植栽された人工林が殆どだということです。ちなみに伐採に適した林齢は、大体50〜70年くらいの森林です。このグラフから読み解くと、当時伐採に適した林齢の森林は全体のたったの4%。つまり殆ど全ての森林を伐採し尽くしてしまっていたことがわかります。
ただし、一方で経済的には潤っていました。当時の国にとって、森林資源によって得られる利益は国の貴重な収入源となり、その結果森林に関しては独立採算として経営されることとなりました。
状況が変わってきたのは、輸入自由化に伴い外国産の安い木材が国内に流通するようになって来てからです。
木材価格の急落は、林野庁の採算性を悪化させました。20年間で元の価格の半分以下まで下落してしまったのは大きな痛手です。そしてさらに、上のグラフにあるような極端に若い森林が更にダメージを加速させました。
十分に国内産の森林を国内に供給できなくなったため、外国産の木材輸入を加速させてしまったのです。
国産の木材が供給できず、民間は外国産の木材に頼るしかない。その結果外国産の安い木材がさらに普及する。そして、国産の高い木材は売れなくなっていく。負のスパイラルにハマって行ってしまったのです。
これらの結果莫大な借金を抱えるに至りました。
その額、最大となったのが1998年で3兆8000億円。日本の森林の維持のため、健全な林業の推進のために発足した農林水産省の林業部門は、どうしようもなくなってしまったのです。
そして、
【伐採されない森林・伐採できない森林】
今現在は、森林はどうやら伐採適齢期を迎えています。もう一度同じグラフを再掲してみましょう。
このグラフによれば、現在の森林の半分が伐採適齢期を迎えている。またはそれを遥かに過ぎています。
しかしそのまま現存していると言うことは、明らかに伐採がなされていないのです。
それもそのはず、現在の木材価格は1998年当時からさらに半額。1998年ですでに3兆8000億円の借金を抱えるほどだったのです。
現在において、国有林で林業を行っていくことは非常に厳しいと言わざるを得ないでしょう。
さらに事態の悪化を招きかねないのが、もし今現存する50年生以上の森林を伐採した場合、供給過多になるということです。(50年生とは、植えてから50年経った木のこと)
供給が多すぎると更なる価格崩壊を招いていきます。そうなると経営は国だけでなく民間まで悪化の一途を辿るのです。
【花粉地獄は続いていく】
当時の日本人が想像もつかなかった問題が現代では発生しました。そう、花粉症です。50年生のスギ林は、花粉をそれはもう大量に出します。そりゃ成熟し切っているのですから当然です。
昔は50年生になったスギ・ヒノキは即伐採され、資源として利用されていましたが、現在は違います。
50年生になろうが、80年生になろうが、価格崩壊を起こした今の市場では日本の木材が黒字になることは難しいです。
今後も日本の森林は伐採されず、スギ・ヒノキはわっさわっさと花粉を大気に放出し、私たちの花粉症は悪化の一途をたどり、そして森林の機能は低下していくのでしょう。
この状況を何とか変える方法はあるのでしょうか。
【まとめ】
どうでしたでしょうか。環境問題を声高に発することは簡単ですが、実際の現代を生きる上で欠かせないお金と絡めて考えると、私たちがいかに大変な状況下に置かれているかがわかるかと思います。
次回はいよいよ最終回。
日本の森林の未来についてお伝えしていこうかと思います。
ではまた。
あなたへの問い
身近な環境問題を解決するためには、どうしたらいいか、考えてみよう。そしてそのために必要な資金・人手・道具を考えてみましょう
参考文献
令和2年度森林・林業白書
https://www.rinya.maff.go.jp/j/kikaku/hakusyo/R2hakusyo/zenbun.html
国有林の歴史・現状と今後の課題
https://www.rinya.maff.go.jp/j/rinsei/singikai/pdf/110208k1.pdf