どうも、最終回となりました。森林に関するコラムです。皆さんに最後に伝えるのは、日本の森林の未来についてです。
前回では非常に暗い未来を伝えましたが、技術大国日本が、ただこの現状を指を加えてみているわけがありません。今回はそんな日本がどのように今後の森林の未来を切り開こうとしているかについてお話して行きたいと思います。
【伐採されない50年生以上のスギ・ヒノキ林の抱える問題】
前回、伐採されないまま、伐採適齢期となったスギ林・ヒノキ林が日本の国有林の50%を占めるまでになったグラフがありました。一応以下に再掲いたします。
では、この状況で私たちにもたらされる問題とはなんでしょう。
一つは花粉です。前回で述べた通り、過去とは比較にならないほどの大量の花粉が私たちを襲っています。
アレルギーが発症する原因はまだよくわかっていませんが、アレルギー反応自体は免疫の過剰反応によるものです。花粉が大量に存在している場合、その花粉への免疫が過剰に反応してしまい、結果的にアレルギーのような症状を起こすことは十分に考えられるかもしれません。まあこれは私の弛緩でしかないので、あまり参考にはならないでしょう。
少なくとも、過剰な花粉に悩む現代人は日に日に増えていることは確実です。
もう一つは、二酸化炭素吸収量が減少することです。
こちらはトドマツに関する論文結果になりますが、森林の純成長量は50年生以降、下降の一途を辿ります。純生産量とは、植物が成長した量と、枯死量並びに被食量を足し合わせたものです。
端的に説明するのであれば、樹木が空気中から吸収した二酸化炭素の量と考えてくださって結構です。
以下のグラフでは、間伐が行われない森林において非常に顕著な固定量の低下が見られています。これは、日本の国有林が現在さらされている状況となります。
あまりに高齢化した森林は、手入れしたとしても、二酸化炭素吸収量が下がってしまうのです。
浅井ら(2006) https://agriknowledge.affrc.go.jp/RN/2030724120.pdf
そして、森林の土壌保全機能も低下することが知られています。手入れをしないと土壌保全機能が弱まることは第2回でお話した通りですが、それは50年生のスギ・ヒノキ林ではさらに顕著となります。
土壌保全機能に関して、正常な森林では以下のようになります。
- ある程度間伐された森林では適度に光が射し、下層植生(樹木の下に生えている下草など)が発達し、土壌には落葉落枝による有機物層が存在している。
- 森林に雨が降った場合、多くは樹木の葉っぱによって林床(森林の地表面のこと)に届くことがなく、飛沫として林床に到達する
- 強い雨の場合、木々の上部にある葉によって森林に降り注ぐ雨が止められる
- 葉にたまった雨は、大きな雨滴となって林床に降り注ぐ
- 下層植生として存在する下草によって雨滴の衝撃が和らげられる
- 地表面に存在する落葉落枝が地表に降り注いだ雨をゆっくり吸収し、雨が地表面を流れることを防止することで、土壌の流出を防ぐ
- やがて雨はゆっくりと染み出し、河川の急な増水を防ぐ
このように、森林が持つ土壌保全機能、並びに水源涵養機能は大きな効果を持っています。
では、50年生より年老いた森林において、手入れがされていないとどうなるでしょう。
- 森林では樹木が密に並んでいるため、林床に光が届かず日光不足により下層植生が発達しない
- 森林に雨が降った場合、多くの雨が樹木の葉っぱによってとめられる
- 強い雨で葉にたまった雨は、大きな雨滴として林床に降り注ぐ
- 林床に到達した雨滴は、下層植生がないため直接林床に到達する
- 大きな雨滴により、林床の地面が固められてしまい、有機物層となるはずの落葉落枝が分解される速度が減少する
- 硬くなった林床では、地面に水が吸収されず、地表を水が流れてしまう
- 地表の水の流れに従って落葉落枝が流されてしまい、ますます土壌が発達しにくくなる
- 地表面を流れる水はすぐに河川に注がれるため、川の下流部では洪水が発生しやすくなる
このようなサイクルで、どんどん山の土壌が流出し、さらには森林における緑のダムの機能も阻害されていくことが知られています。
このメカニズムは広く知れ渡っており、雨滴に関しての論文も多く存在します。もし興味が有れば
こちら
や
こちら
https://onlinelibrary.wiley.com/doi/10.1002/hyp.13432
の論文を読んでみても面白いかもしれません。片方は全文英語の論文なので、読むのは大変でしょうが…
これらが現状の日本が抱える森林の問題です。その解決のための話をしていきましょう。
【日本の林業が儲からない理由】
すごく簡単です。伐採しにくいのです。海外と比べ、圧倒的に。
3枚の写真をお見せします。これらは日本と海外の平均的な森林の風景になります。
林業が盛んな土地では、平野部に森林が広がっており、伐採から搬出が非常に容易です。
一方で、日本では搬出コストが非常に高いです。
林業白書より。日本の流通コストは膨大となっている。
上の図は丸太の値段の内訳です。あまりにも流通コストが高いこと。そしてそれが大きな負担となっていることが分かるかと思います。
日本の森林が健全な森林に戻るためには、この問題をどうにか解消する必要があるのです。
【日本の森林が抱える問題を解決するために】
今日本では、以下のことに取り組んでいます。
- より良い林業経営のための低コストな造林・木材搬出方法の開発
- 日本の森林の需要の創出
- 付加価値を付けるための木材加工技術の開発
それぞれ1つずつ見て行きましょう。
・より良い林業経営の為の低コストな造林・木材搬出方法の開発
一つの方法としてあげられていることが、低密度な植林です。今までは人手が多くあったため、高密度な植林をしたとしても、その後の下草刈り→間伐→枝打ちの作業を行うことが出来ていました。現代だと人数も少なく、持続可能な森林経営の為にも低密度な植林をすることがあります。
日本の造林費用が高い原因の一つとして、あまりにも高額な苗木代が挙げられています。現在、165円/本のコストが苗木にはかかっています。もし50年後に伐採、換金される樹木の値段が1300円だったとしましょう。間伐でどんどん木を切り倒し、最初に植林した木々の20%が伐採されるとしてみましょう。
すると、
1000本の苗木を植えたとして、初期費用が165 × 1000 = 16万5000円
200本出荷したとして、 利益が 200 × 1300 = 26万円
ざっくりと考えて、大体60%が苗木代となるのです。これは、あまりにも原価が高すぎるのです。そのため、低密度な植林を行い、間伐をあまりしないようにするだけでも大きな経済効果があるのです。
また、他の方法として、最新型の機械の導入があります。
特に日本では、タワーヤーダとハーベスタ,フォワーダが活躍しています。それぞれを説明してみましょう。
タワーヤーダ:日本で活躍するワイヤー方式の吊り下げ方搬出装置。急峻な斜面で活躍する
ハーベスタ:木材伐採から枝の除去、統一した長さでの切断までを一括で行える機械。特に平地で活躍している
フォワーダ:木材を掴んで持ち上げ、荷台に搭載する機能がついている車両
これらの機械は、日本にどんどん導入されています。
ただし、これらの機械の開発は海外に遅れをとっている現状は否めません。日本は森林が急峻であり、機械はやはり平野部で活躍することが主となります。そのため日本の森林に適した機械の開発は、私たち日本人で行うことが必須でしょう。いま日本ではその技術開発が研究されています。
・日本の木材の需要の創出
日本の木材需要は、既存の産業では頭打ちとなってしまっています。その現状を打破するためには、二つの道があります。
1つは、新しい木材を利用する産業を創出すること。分かりやすい例として、木材チップによる再生可能エネルギー生産です。
もう一つが、既存の素材の代替です。例として、以下のようなものが挙げられるでしょう。
これらによって、新しい木材の需要を供給しようというのが現在の日本の施策です。ある程度の成功を納めている一方で、やはり課題は数多く残っています。
・付加価値を付けるための木材加工技術の開発
木材で一番注目されているのが、合板です。木造建築で高層ビルが出来ないのはなんででしょう。問題は二つ、耐火性と強度です。これらを解決する意外な方法が、接着剤だったりします。
接着剤によって耐火性をあげることすらも可能であり、最近海外では18階建ての木造マンションが出来てきています。
日本でもこの技術を用いたマンションなどの大規模建築が出来るのも直ぐだと思います。
【最後に】
日本の森林の抱える問題と、その状況は率直に言って深刻です。あまりにも問題が多く、解決は一筋縄ではいかないでしょう。
しかし、解決方法も多くあります。林業の効率化・需要の創出・新技術開発など。
ただ、森林の未来を担うのはこれだけではありません。必要なことは、興味を持ってもらうことです。森林とは何か。そして森林を維持していくために何が必要か。
是非自由な発想で考えてみてください。その発想が、きっと森林を救う発想に成長していくことでしょう。