石巻専修大学で自動車工学を研究している梅山光広先生は、トヨタ自動車で車の開発を担当したのちに石巻専修大学の教員となりました。車の開発や自動車工学の研究にとどまらず、交通・まちづくりの新しいあり方を考えています。自動車に長年携わる梅山先生が今後描く未来についてお話を伺いました。
トヨタ自動車で車の開発を担当
大学の工学部を卒業後、トヨタ自動車で車の開発を担当していました。電気で動くモーターとガソリンを利用して走行するハイブリッド・カー「プリウス」の初代や、酸素と水素を燃料電池に取り込んで電気を作り、その電気でモーターを回して走行する「MIRAI」などの開発に関わりました。
「プリウス」や「MIRAI」は全く新しい車の開発であり色々な問題に直面しました。例えば設計図の図面ではよさそうでも、実際に組み立ててみると予想しなかったことが起きます。あるいは1つの部品の性能は問題なくても、組み合わせると思うように動かないこともあります。そんな時はみんなで議論することが大切です。車をつくる生産部門と車の設計図を作る設計部門が一緒に部品を考えるという前例のない連携の場も経験しました。解決に導いていくためには、部署の枠を飛び越えて、色々な試行錯誤を繰り返すことが大切だと実感してきました。
技術統括部長時代には環境技術計画を策定し、当時から環境に配慮した自動車社会のあり方を考えてきました。世界にクルマがどんどん売れていくようになり、このまま増えていくと、CO2排出量が増えて地球温暖化が加速していくことが、世界の研究機関で予測されていました。環境に配慮した車づくりに積極的に取り組もうという方針で、環境技術計画の立案を頼まれました。
トヨタ自動車時代の先輩が石巻専修大学で教員をしていて、そのお誘いもあり2020年から石巻専修大学の機械工学科で教えています。
未来の交通とは
現在は自動車社会のあり方を考える転換期にあります。化石燃料はいつか枯渇します。SDGs達成や二酸化炭素排出量減少の観点からも持続可能な燃料を考える必要があります。藻類などを活用したバイオ燃料や燃料電池をはじめとする電気自動車の普及、あるいは再生可能エネルギーの活用が重要になると感じています。
石巻専修大学でも、太陽光発電と風力発電を組み合わせ、発電した電気をバッテリーに蓄電する装置を実証しています。昼は太陽光で発電し、太陽が出ていない夜は風力で発電することで小型の発電装置であっても安定した発電ができるような形を研究しています。公開されている気象データから、日々の充電量の予測も行っています。
また、自動車に限らず、まちづくりのあり方についても研究や提言を行っています。例えばお祭りの時に道路が大渋滞になります。石巻にも「川開き祭り」というお祭りがありますがその時も大渋滞です。重さ1トンの車を動かすのではなく、交通手段の乗り分け・使い分けが大切だと感じています。
例えば、都市と都市の間など遠距離の移動は公共交通を使い、街中など近距離の移動は低速モビリティを利用するという分け方です。「乗り換え」を前提とした交通手段の使い分けです。電車を使った方が速く多くの人を運ぶことができますし環境にはよりよいです。電気も遠くから運ぶのではなく自然エネルギーを活用し、エネルギーを利用する場所の近くで「地産地消」することが重要だと思います。
また燃料電池など、水素を使ったエネルギーについても今後注目が集まっていくと思います。水素で動く電車も登場しています。
そして近距離の移動は車ではなく、小型の電動モビリティを利用するのがよいでしょう。近年、電動キックボードや電動ゴーカート、電動シニアカーなどの多様な手段が実現されています。このような小型電動モビリティについても実際に乗りながら、色々と試行しています。
電動キックボードなどはある程度のスピードがあり爽快感や移動の楽しさがあります。一方で歩行者に接近したら知らせる機能や、歩行者を認知したら速度制限をかけるなどの安全機能は必要だと考えています。そういった安全装置も研究しています。
自動運転のあり方を実証
近年、新しい公共交通のあり方として注目されている自動運転。2023年には福井県永平寺町で特定の条件のもとでの完全自動運転(レベル4)が国内で初めて実現しました。実現したばかりであり、自転車との接触事故も起きていてこれからさらに技術を高めていく必要があると考えています。
研究室では、電動ゴーカートを使った自動運転の実験を行っています。ゴーカートには車載カメラがついており、カメラで周囲の景色を認識して自動運転を実現します。例えばAIを活用して数百枚の画像データをもとに景色を学習させ、白線に沿って走行する実験をしたりします。実験には石巻専修大学の敷地内の道路を使っていますが、キャンパスが広いからこそできる実験です。研究室からすぐに車を運ぶことができるのでとてもよい環境だなと感じています。
また、模型の自動運転車を使い、自動運転や隊列走行の実験をしたり、道路脇の構造物は何が適切なのか、どんな色の構造物が効果的なのかを検討したりしています。東北地方ですので雪による影響についても考えなければいけません。このような実験の場には学生が積極的に参加しています。
石巻から描く未来の地域の姿
石巻という地域では人口減少が進んでいて様々な課題が生まれています。東日本大震災により海沿いの集落が高台へ移転しましたが、坂道があり移動には不便です。安心安全で住みやすく、また災害に強いまちというのを目指していく必要があると思います。
「石巻ボストン構想」と言っているのですが、大学があり、漁港と工業港があり、自然豊かな土地や歴史があるこの石巻を先進的な街にしようという構想です。アメリカ・東海岸のボストンは漁村から大学とベンチャー企業がある街に発展しました。石巻と似ているところがあると考え「石巻ボストン構想」と名付けています。
農林水産業のスマート化やデジタルトランスフォーメーションによって仕事を効率化し、空いた時間を人間らしい仕事に使っていくことができるとよいと思います。電気自動車が中心となるようなモビリティの形も実装していきたいと考えています。今はまさに、未来のことを考えて研究をしなければいけない時です。
やりたいことをやってみよう
高校生のみなさんが探究学習をするときには「やりたいことをやってみる」ことがよいと思います。研究や自動車の開発も一緒で、まずは「やりたいこと」が先にあって、そこからどう実現したらいいかを考えていきます。私もよく研究室の学生と議論をしていますが、こうすればいい、という必勝法はありません。ただ、議論から未来が見えてきます。ぜひ一緒になって未来をつくりましょう。私たち大学の先生たちがみなさんのやりたいことを応援していきます。
色々な物語に出てくる人達の生き方を知って、共感できるところを見つけ、自分なりに好きなことに夢中になって取り組んでみることで、生きがいを感じるようになると思います。
石巻専修大学の学びを知る
①機械工学科『自動車工学研究室』紹介動画
②地域連携プロジェクトに取り組む石巻専修大学生の声