多様な専門を生かし、子どもが抱える問題を解決する

公認心理師、精神保健福祉士、キャリアコンサルタント、教員免許など多くの資格を持ち、研究の傍ら現役のスクールカウンセラー、スクールソーシャルワーカーとしても活動している小玉幸助先生。障害や難病を抱える人のQOL(生活の質)向上を目指し、臨床と研究の両方を続ける小玉先生にお話を伺いました。

目次

困っている人のためにできることを

医療の道に進もうと思ったのは大学生になってからです。当時は経済学を学んでいましたが、障害者福祉施設のアルバイトを通して、言語障害、聴覚障害、高次機能障害のある方々と出会い、その方々の生きやすい方法を考えないといけないと考えました。大学卒業後、3年次編入で心理学やリハビリテーション科学を学べる学部に編入しました。

その後は首都圏の医療機関や北海道内の高校などで勤務する傍ら精神保健福祉士養成校や大学院に通い、精神保健福祉学、社会保障論、医療経済学、衛生学、公衆衛生学を専攻しました。

2011年の東日本大震災で宮城県内の実家が被災し、地元に戻ってきました。教育と医療の現場経験があることからスクールカウンセラー、スクールソーシャルワーカーの依頼を受けて活動しつつ、保育者養成校の大学で教員なども担当しました。2022年度からは石巻専修大学に勤めながら、今も現役でスクールカウンセラー、スクールソーシャルワーカーとしての臨床実務も続けています。

様々な転機がありましたが、振り返ると人との出会いで人生が変わってきたように感じます。生きづらい人や困っている人のために何かできるか、と考えたときに社会保障や医療の分野等を勉強して身に付け、その人たちに還元したいという思いでこれまでやってきました。

※スクールカウンセラー:学校に通う年齢の子供たちの心のケアに関わる専門家

※スクールソーシャルワーカー:教育現場において、児童・生徒が抱える問題に対して保護者や教職員・関係機関等と連携しながら問題解決に取り組む専門職。

臨床と研究の双方を実践

 私が研究しているのは「学校精神保健」と「医療保育」という分野です。「学校精神保健」では、スクールカウンセラー、スクールソーシャルワーカーの役割を明らかにする研究を進めています。これまで現場で精神疾患や不登校、児童虐待などを抱えた青少年、家庭を支援してきましたが、支援によって解決するケースとそうではないケースがあり、スクールカウンセリングやスクールソーシャルワークがどのように解決に寄与しているのかを明らかにすることが必要だと感じています。

スクールカウンセラー、スクールソーシャルワーカーの費用対効果を明らかにする研究も行っています。経済学の知見を使って費用対効果を数値で算出する研究や、スクールカウンセラー、スクールソーシャルワーカーが学校問題や発達障害で困った生徒たちにどれほどの影響力があるかを統計的解析で測る研究をしてきました。

総務省はスクールカウンセラー、スクールソーシャルワーカーの効果的な活用を提言していますが、スクールカウンセラー、スクールソーシャルワーカーともに人材不足と考えています。効果を明らかにするのは難しいのですが、心理支援や福祉支援で救われている生徒や家庭はあるので、いなければならない専門職だと感じています。

医療分野で保育士が働くためには

「医療保育」の分野では、医療保育専門士の養成や医療保育の有用性についての研究をしています。医療保育専門士は、重症心身障害児、筋ジストロフィーといった難病、発達障害を抱えた子どもと家庭を支援する専門の保育士です。病院や福祉施設、放課後等デイサービスなどで活躍しており、QOL、ADL(日常生活動作)を向上させるために「音楽療法」「リズム体操」といった専門的な遊びの方法を実践しています。障害を抱える子供と家庭のために質の高い療育支援を開発したいと考えこの研究を始めました。

 医療保育の分野では、口腔機能訓練(以下、口遊び)の有用性について研究しています。医療保育士もなくてはならない存在ですが、医療分野で保育士が働くためにはその有用性を明らかにすることが必要です。

口遊びは、例えば顔の表情を使ってじゃんけんをするなど、遊びを取り入れながら口腔の動きをよくするものです。これは言語聴覚士、歯科衛生士なども行っており医療保育士特有の専門技術というわけではありませんが、有用性を示せる訓練として着目し、この口遊びを調査していきます。

私の研究室では東日本の保育者養成校では数少ない医療保育養成を行っていて、今年3月に初めて4年生が卒業しました。そのうち国立病院機構 北海道・東北グループ(保育士採用)、福祉施設(石巻市)、小学館アカデミー保育園(東京都)、ウェルネス保育園(東松島市)に就職しました。

私の研究分野では臨床と研究の双方を実践することが重要だと考えています。現場で患者やクライアントを受療して、この人たちにとって効果があるのかどうかをはっきりさせないといけないと感じています。臨床と研究を同時にやらなければ、患者さんやクライアントのためにはならないと思って、今後も双方ともやっていきたいと思っています。

ゼミでは精神疾患を持った人のリハビリテーション施設や小中学校の特別支援学級、保育所、認定こども園などの外部機関と連携し、独自の教育方法として実践型研修(Practice-based training:PBT)を実施しています。PBTを実施する目的はできるだけ学生たちに現場を経験させたいと考えたからです。学生は現場経験をしたのちに課題を探り、卒業研究に取り組みます。今後、研究だけ、現場だけという考え方を持たない学生を育てていきたいと思います。

「生きづらさ」を抱える人を支援する

今後取り組んでいきたい研究は、児童虐待と精神疾患の関連についてです。虐待を受けた子どもは「前頭前野」「偏桃体」「視覚野」「聴覚野」が変形または萎縮することが分かっています。また、発達障害と同じような症状が出るということも明らかになっています。ただ、被虐待児に発達障害に似た症状が出ていてもそれは発達障害ではない可能性も考えられます。

虐待を受けた子のケアと発達障害の子のケアは違うので、もし、学校で教員が生徒の虐待経験の背景を知らずに発達障害の疑いがあると判断した場合、生徒のライフイベントが変わってしまいます。発達障害と誤って診断された被虐待児へのアプローチ方法は間違っている可能性があり、誤解を解消するためにここをきちんと調べないといけないと考えています。

もう一つは精神性発汗による原発性局所多汗症(以下、多汗症)の患者を対象とした心理社会的支援の研究を検討しています。多汗症は思春期(中学生から高校生)に脇の下や手、足、顔に生じます。発症した患者はQOLの低下により「生きづらさ」が生じており、医学的治療だけでなく心理社会的支援が必要と考えられます。多汗症は精神疾患を抱えることもあるため、できるだけ早く支援を行う必要があると考えています。

興味のあることを掛け合わせて探究してみよう

探究学習では、高校生のみなさんも自分に興味のあることをテーマに設定すると思いますが、一つに絞らず、二つでも三つでも興味のあることを掛け合わせてテーマを考えてもいいのではないかと思います。私の研究もそうですが、医学に経済学や心理学、社会福祉学などを組み合わせて、あまり誰もやってこなかった研究をしています。高校生は頭が柔軟なのでいろいろなことに興味があると思います。それをテーマにどんどん組み込んでいけば面白いことが調べられるのではないでしょうか。

自分が満足できるものができると達成感や充実感が得られると思うので、成功体験を得るために行動してみましょう!失敗も経験のうちです。人の評価や批判を気にせず、失敗すらも楽しんでやってみてほしいです。自分が思った通りに楽しくやってみたら、その生徒にとってももちろんですが、もしかしたら多くの人にとってもいい結果となるかもしれません。

また、高校生活では一つのことに専念することも大切ですが、少しでも視野を広げようとする気持ちを抱いてみてほしいです。私自身はカウンセラーやソーシャルワーカーなどを経験して、常々「人は大事な存在だな」と思っています。視野を広げるためには多くの人たちと関わることがおすすめです。いろいろな人生経験をした人たちの話を聞くことで視野が広がると思います。

おすすめの本
『自動的に夢がかなっていくブレイン・プログラミング』アラン・ピーズ、バーバラ・ピーズ著
実体験と脳科学について書かれた書籍で、脳科学に興味・関心を持つことができる1冊だと思い、おすすめしました。

(本の情報:国立国会図書館サーチ)


石巻専修大学の学びを知る

①地域連携プロジェクトに取り組む石巻専修大学生の声

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この記事を書いた人

探究百科GATEWAYの編集部です。高校生の「探究」に役立つ情報や探究分野の解説、探究の方法について発信します。

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