福島の「子ども食堂」で子どもが集まる居場所を増やす

福島市の子ども・若者支援団体「特定非営利法人ビーンズふくしま」の江藤大裕さん。2018年から毎月1回、福島市で子ども食堂「よしいだキッチン」を運営しています。その傍ら、福島市内の子ども食堂同士をつなぐネットワーク「福島市子ども食堂NET」を設立して、子ども食堂の運営のサポートや立ち上げ支援なども行っています。どのような思いで活動しているのか、今後の展望などを江藤さんにお聞きしました。将来子どもに関わるお仕事をしたいと思っている方、必見です。

目次

「食」を通して居場所を作る

「よしいだキッチン」でお絵かき

私は2018年から福島市で子ども食堂「よしいだキッチン」を運営しています。

それまで私は、若者支援(引きこもり支援)の居場所作りにずっと関わっていました。居場所を作ることで、生きづらさを抱えてきた若者たちが仲間や大人と関わり、自分自身の役割を見つけて新たな一歩を踏み出していく姿をたくさん見てきました。ですが、彼らのような若者たちが集える居場所は、残念ながらまだまだ少ないのが現状です。

彼らが社会参画でき、なおかつ地域をもっと面白くするためにはどうすればいいか。それには、新たに彼らが関わることができる居場所の立ち上げが必要だと感じました。

みんなが集う居場所に欠かすことができないのが「食」。そうして、子どもも若者も地域の人も巻き込める、食にまつわる居場所である「子ども食堂」をはじめようと思ったのです。

運営をはじめた当初の地域の方の声は、

「子ども食堂って、なんとなく聞いたことあるけどどうやって利用するの?」

「協力したいけどどうやったらいいかわからない」

このようなものがほとんどでした。

「そんな貧しい子がこの地域にいる?」

「本当に必要なの?なんでやるの?」

こんな風に、真っ向から否定されたこともあります。

その当時の子ども食堂には、多くの方が「貧困家庭や家庭に課題がある子のためだけに開くもの」というイメージを持っていたようです。でも、本当に困窮していたり、課題があるご家庭は表からは見えないもの。SOSを拾うのが難しいから、「誰でも来ていいんだよ」というスタンスで居場所を開いておく必要があるのです。子ども食堂への理解や意義、認知度は地域でまだまだ低いなと感じていました。

そんな中、市内の子ども食堂の1つが様々な問題点を抱え、運営を止めてしまいました。

子どもにとって大事な居場所になりつつあったのに、地域にとって大きなマイナスです。私も「支え合う組織があれば防げたのでは?」と悔やみました。

そこで、子ども食堂同士で横のつながりを作り、「困ったときはお互い様」精神で助け合いができる組織を作ろう!と決意したのです。

「参加できる余白」を大切に

福島市子ども食堂MAP

福島市内の子ども食堂に声をかけて、「福島市子ども食堂NET」を2020年6月に設立しました。

月に1回「よしいだキッチン」を運営しながら、福島市子ども食堂NETの代表も私が兼任しています。2022年4月現在で30団体が所属。福島市子ども食堂MAPも発行し、必要な人が手に取れるようにしています。

福島市子ども食堂MAP ホームページ

福島市子ども食堂NETの活動は、主に以下のようなものです。

・個人及び企業からのご支援(寄付・食材協賛)受付と各子ども食堂への提供

・子ども食堂のボランティアの募集・紹介

・子ども食堂運営者向け研修会

・子ども食堂立ち上げ支援、運営サポート

・子ども食堂同士での情報共有

・地域への周知活動

中でも「子ども食堂を立ち上げたいけどどうすればいいか?」という声がとても多かったので、立ち上げ支援や運営サポートにも力を入れています。

子ども食堂をはじめられる方は年齢も背景も様々で、中には高齢者や、おひとりでやりたいという方も。一人ひとりに合わせて、どんなやり方なら無理なく運営できるかを一緒に考えます。私が立ち上げ支援と運営サポートをすることで順調に続けていけるようになり、市内の子ども食堂の数も少しずつ増えています。 

以前は理解されなかった子ども食堂の運営も、想いをもってやっていくうちに少しずつ地域にも浸透していき、

「江藤さん、家庭菜園から食材を持ってくるよ」

「当日は手伝えないけどお金は出すよ!」

「料理ならできるよ」

「お皿洗いくらいしかできないけどそれでもよければ…」

といった具合に、1人、2人と応援団が増えていきました。

福島市子ども食堂NETでも同じことが起きていて、私一人だとどうしても取りこぼしがあるのですが、周りの方々が助けてくださいます。中央集権ではなく、みんなで作り上げる組織になり、協力体制が自然とできています。

私はそれを「参加できる余白」と呼んでいます。私江藤の周りにはたくさんの余白があって、その余白に役割と出番がある。みんなができることを持ち寄ることで運営が成り立っています。一人ひとりに役割や出番があることは、街づくりにおいてとても大切なことです。なんでも自分一人で背負わず「無理せず、やりすぎない」ことも大切なんだと、やりながら気づきました。

また、楽しいことは皆が共感してくれるので、素直に甘えたり、頼ったりした方が、大抵うまくいきます。これも最近学んだことです。

子どもたちは大人の背中を見ている

無料学習塾でのひとコマ

今後も、福島市内に子ども食堂をはじめ、無料塾など子どもたちが気軽に行ける居場所をたくさん増やしていきたいです。地域の子どもたちが居場所に集い、学校や家庭以外で、知ってるお兄さん、お姉さん、おじちゃん、おばちゃんと楽しい時間が過ごせる。そんな風に、福島市全体を笑顔があふれる街にしていきたいです。

居場所づくりの良さは、子どもたちのためだけじゃなく、高校生や大学生など若者たちの社会参画の場や、地域の人たちの居場所にもなることです。定期的に集まる場があり、一人ひとりに役割や出番がある。支援する人もされる人も、みんながいきいきと過ごせる場所になります。子ども食堂をきっかけに、若者や地域の人たちがつながり、その輪が広がっていくことを期待しています。

子どもに関わる仕事をしたいと思っているあなたにお伝えしたいことがあります。

子どもたちは、大人の様子や雰囲気をよく見ています。大人の背中を見ています。

「こういう大人になりたいな!」と子どもたちに思ってもらえるような大人になってください。自分がやりたいと思うことに蓋をせず、失敗を恐れずに一歩踏み出してみてください。

私自身も以前やりたいことをやって、笑われたり、形にならなかったりして、涙したこともあります。世界一周旅行をしたときは物を盗まれたり、連れ去られたりして怖い思いもしました。でも「やらなきゃよかった」と思ったことは一度もありません。

チャレンジして失敗しても、かっこ悪くてもいいんです。若いときの失敗は取り返せます。成功も失敗も、すべて自分の糧になり、いずれ語れる思い出になります。

自分のやりたいことにチャレンジすること。そしてその姿を子どもたちに見せてあげること。それが子どもたちの未来につながり、この街を変える第一歩になるはずです。

おすすめの本
ひすいこたろう「あした死ぬかもよ? 人生最後の日に笑って死ねる27の質問」(ディスカヴァー・トゥエンティワン)

この本は、高校生や大学生ボランティアの子たちが進学や就職などで「よしいだキッチン」を離れる日にプレゼントしています。
「人生を終える日に、どんな気持ちになっていたら最高ですか?」という問いに始まり、人生を後悔しないで生きるための27の質問が書かれています。
私がこの本に出会ったのは震災後の2012年頃。「よしいだキッチン」をはじめる前でした。チャレンジできない、やりたいことをやれていない日々に疑問を感じ、この本を手に取ったことを覚えています。そうして、この本にポン!と背中を押してもらいました。
悩んだ時に寄り添ってくれて、新しい一歩を踏み出す後押しをしてくれる本です。ぜひ手にとって読んでみてください。

(本の情報:国立国会図書館サーチ)


写真提供=江藤さん

よかったらシェアしてね!
  • URLをコピーしました!
  • URLをコピーしました!

この記事を書いた人

地域で挑戦する人や企業を豊かにすることを目的とした福島創業のチーム。 ライターやデザイナー、映像クリエイター、エンジニア等といったプロが集まり、 各々の専門スキルや個性を活かしながら、関わるお客様や地域の資本を豊かにするため活動している。

目次