「子育てに関する情報を伝え、つながりを作る」

宮城県仙台市のNPO法人「m.k.base(エムケイベース)」で子育て向けのプロジェクトを進めている齋藤愛さん。県外から宮城県仙台市に移住し、自分自身が感じた課題点を解決するためにプロジェクトや団体を立ち上げ活動しています。どんな思いで子どもたち向けのプロジェクトを進めているのか、お話を伺いました。

目次

子どもを産んで感じたこと

私は宮城県仙台市に住んでいて3人の子育てをしながら、NPO法人「m.k.base(エムケイベース)」で代表を務めています。私は九州出身ですが、東京と上海で子育てを経験し、2017年秋、夫の故郷である仙台に移住し、今は、仕事と子育ての両立をしています。

私が課題に思っていたことは2つあります。

1つは、地域独自の子育て情報が手に入りにくいことでした。出身地ではない土地で子育てをするので、知り合いや友達もいない状態では、「不安」が大きいのは当たり前ですよね。例えば、どんな幼稚園や保育園があるのか、どんな病院があるのか、子どもを遊ばせる施設は何があるのか、というような暮らしにまつわる情報です。

もう1つは、子育てをしている母親は、「孤立しやすい」ということです。例えば、「産後うつ」なんて言葉を聞いたことがある人もいるかもしれませんが、振り返ってみると、私も第1子の時はそんな状況でした。それまで「働くこと」でつながっていた社会との接点を突然閉ざされた気分になり、悩みや不安を感じていても、気軽に話ができる相手がどこにいるかわからなくて…。親や夫に相談もできますが、「分かち合う」という感覚にはなりにくいことも多かったような気がします。子どもが保育園などに入れば、母親仲間もできる可能性はありますが、さらに小さい時は、「孤立感がある」と感じていました。

欲しいものは自分たちの手でつくる

そこで、同じような悩みを経験した友人と一緒に、2018年に泉区を拠点としてフリーペーパー「mama BE style!」の発行を始めました。その目的は、「私たちが知りたかった情報を書いて伝えよう」ということと、「私たちのことを知ってもらい、子育て仲間をつくっていこう」ということでした。年に4回発行し、私が主に文章を書き、友人がレイアウトし、フリーペーパーの形にするというそれぞれの得意を活かした役割分担で進めてきました。

フリーペーパーですので、印刷代や郵送代などでお金がかかります。最初はお金の確保から始めました。社会や地域のためになる活動であれば、市役所や役場が「助成金(じょせいきん)」という形で、お金を出してくれるんですね。なので、助成金をもらうための申請をし、プレゼンをし、活動資金を確保しました。

そして、「届けること」も大切です。一回に約5000部を発行していたのですが、確実に届く方法は何かな?という視点で考え工夫しました。例えば、親子がよく利用する施設(児童館や市民センターなどの公共施設、商業施設など)に配架をお願いしたり、「園だより」などと一緒に配ってもらえるように、保育園・幼稚園に直接足を運んでお願いをしたこともあります。

他には、月に1回くらいのペースで、親子向けのイベントを企画してきました。例えば、食や健康に関することを取り上げたり、母親同士の交流会をしてみたり、そういった活動を重ねることで、私たちの活動を知り、信頼してくれる方々が増えてきたと感じています。

大事にしてきたのは、「顔のわかる関係性」です。地域に根ざした活動だからこそのポイントですね。フリーペーパーの発行は2023年4月に終了しています。それまでの間に、Instagramのフォロワーを少しずつ増やすことができましたし、発行当初の「私たちを知ってもらう」という目的を果たしたと考えています。

この時の経験を生かして、仙台市内のパパ・ママ100名にアンケートを取り、子育ての経験談・失敗談・アドバイスなどを集めた「みんなの子育てQ&A」という冊子を、広告会社さんと一緒に制作しました。仙台市の子育てイベントでの配布をはじめ、今この情報を必要としている方々に直接届けるメディアとして、配布しています。協働という形をとることで、自分たちができる範囲を超える貴重な経験を積めています。



◆「mama be style」のバックナンバーはこちらから

活動を広げるため任意団体からNPO法人へ

フリーペーパーの発行開始から3年ほどが経過した2021年、幼稚園児や保育園児だった我が子たちは小学生になり、子どもの興味、親の関心事が変わってきていることを感じていたことと、周囲からの信頼を得ながらさらに活動を活性化するために、2021年11月、NPO法人にしました。法人名は、NPO法人m.k.base(エムケイベース)です。「m.k.base」には、

m=みやぎ、ママ k=子ども、子育て、家族 base=拠点、土台

という意味を込めています。

新たに加えた取り組みで「ミライのドア」という小学生以上を対象にする子供向けのイベントをやりました。ちょっと先の未来を歩く先輩たちと出会う機会と、子どもたち同士が学び合う機会を作るためです。イベントをする時は、「アウトプット」の機会を大切にしています。例えば、プログラミングの企画を行った時は、プログラミングが得意な子供たちに先生になってもらいました。先生になってくれた小学校2年生で結成されたプログラミングチームは、手をかざすと消毒液が出てくる装置を作ったり、マスクをしているかどうかを判定するロボットを作っていたのですが、彼らには、「〇〇を作りたい!それを実現するのはどうやったらいいかな…」といった想像力を働かせる力があることを目の当たりにしました。

「教え合う」行為に、上級生や下級生、同じ学校や違う学校という概念は存在しません。「自分が得意なことが他の人のためになる」という経験になればいいと考えていたのですが、この仕掛けは大成功でした。

親向けには、「お金の話」や「性のはなし」といったテーマをじっくり学ぶ機会を作ったこともあります。一方的に講師の話を聞くのではなく、ここでも自分の意見を「アウトプット」することを大切にしてきました。

また、2023年度からは泉区の集会場を会場に「月イチ IZUMI基地」というイベントを月に1度開催しています。転勤してきた親子や乳幼児親子を対象に、ただ集まって、おしゃべりする機会にしています。予約不要、入退場自由・飲食自由という形にしているのですが、予約制にすると「行かなくちゃ!」という気持ちになって焦ってしまったり、行けなかった時に罪悪感を感じてしまうという私自身の経験があったからです。だから、「予約なし」という形にすることで気軽に来られる場所を作っています。細く長く続けていくことで、現役の子育て世代とつながることができますし、「IZUMI基地に行けば、誰かがいる」という安心感がある子育てになるといいと思っています。

子どもとともにいる人生の楽しさを伝えていきたい

私が高校生の時には、「社会のために何かをしよう!」なんて考えたことはありませんでした。今を楽しむこと、自分のことで精一杯でしたよ!

でも、子どもを妊娠し、出産して、私が見える世界や景色は変わりました。考え方、生き方もずいぶん変わりました。心から子どもを産んでよかったと思っています。3人の息子たちにはよく言います。「変わることを恐れず、勇気をもって楽しもう!」「なぜ?どうして?といった疑問を大切に、自分の気持ちを大切に」「ただの勉強はつまんないけど、知らないことを知ることは面白いよ!」と。

子どもたちを見ていると、「好き」が加速すると自分で勝手に学んでいくと感じています。毎年夏には、宮城県の海沿いの地域で一週間泊まり込みで自然体験をさせているのですが、今年は末っ子も1年生になったので、3人一緒にそのプログラムに参加予定です。自然の中でしか学べないことをたくさん吸収して、たくましくなって帰ってくることでしょう。

そういえば、長男が小3の頃、「ユニバーサルデザイン」を学校で学んできたので、車いすバスケットボールの練習見学と選手にインタビューさせる経験をさせたこともあります。これをきっかけに「かっこいい」と憧れ、次男と共に地域のスポーツ少年団でバスケットをはじめました。今ではキャプテンとしてチームをまとめ、バスケットに熱中しています。

「子ども」「子育て」「自分の家族をつくっていく」「子どものいる人生ってどうなんだろう?」ということに興味があるみなさんは、ぜひ子どもと関わったり、実際に子どもと遊んでみたり、周りの大人で少し先をいく先輩たちと話をする経験をしてほしいです。

私たちは、私たちができる子育て応援を通して、子どもが育つ環境として豊かな仙台であってほしいと願って活動を続けています。親になったからといって「自分」を見失うことなく、子どもがいることで広がった世界の楽しさと奥深さを、これからの世代に伝えていけたらと思っています。


おすすめの本
大竹英洋「ノースウッズー生命を与える大地」(クレヴィス)

知られざる森と湖の世界へ…第40回土門拳賞を受賞した大竹英洋さん集大成の写真集。写真家としての生き様と深い情熱が詰まっています。「夢でみた狼を撮りたい、会いたい」その一心で長い旅を続けた大竹さん。自分との約束を果たすための道中がありありと伝わってきます。大竹さんが憧れた写真家ジム・ブランデンバーグさんが寄せているコメントも必見です。

私は実際に大竹さんの講演会を聞きに行き、子ども共に感動し、翌週には山形県酒田市で開催されていた大竹さんの写真展にもいきました。そして、さらに感動しました。言葉を必要としない「写真」の凄さを体感できる一冊にもなっています。私は、ふとため息をつきたい時にパラパラと写真を眺めているのですが、世界の広さと美しさに圧倒されるだけでなく、「生物が生きる凄み」を味わえます。新しい世界をどんどん広げていく高校生の皆さんにも、ぜひ見てもらいたい一冊です。

写真提供=齊藤さん

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この記事を書いた人

東京大学教育学部卒業後、全国紙の新聞記者として広島総局・姫路支局に勤務し事件事故、高校野球、教育、選挙など幅広い分野を取材。民間企業を経て、2021年に株式会社オーナーを起業し、本教材「探究百科GATEWAY」を開発し編集長を務める。

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