会津伝統野菜の”種”を守り、育てる。

会津地方で長年栽培され、愛されてきた「会津伝統野菜」。近年では、農家の後継者不足や大量生産・大量消費の影響により伝統が途切れかけているのが実状です。この危機を救うべく立ち上がったのが、会津で農業を営む長谷川純一さん。長谷川さんの伝統野菜にかける想いを、ぜひお読みください。

目次

「伝統野菜」とは?

 私は会津生まれ会津育ちの、生粋の会津人です。実家が農家だったことから、高校を卒業後、私も家業を継ぐことに。現在、農業に携わり始めてから約30年が経ちました。私の畑では、主に「きゅうり」、「かぼちゃ」、「きくたち菜」の3種類を栽培しています。そして、これら3つは皆さんがよくスーパーなどで見かける一般的な種類のものではないのです。

 皆さんは「伝統野菜」という言葉をご存知でしょうか?「伝統野菜」とは、特定の地域で古くから栽培されてきた野菜のことを指します。その地域の気候風土に合った野菜を作っており、自分たちが栽培した野菜から採種(種を採ること)~栽培を繰り返しています。私が作っている野菜もこの「伝統野菜」と呼ばれる種類です。

「伝統野菜」を後世に残す

私の畑では、3種類の伝統野菜を中心に栽培しています。

・余蒔ききゅうり(よまききゅうり)…通常のきゅうりよりもえぐみや青臭さがなく、なめらかで柔らかい口当たりが特徴。江戸時代から作られている。

・小菊南瓜(こぎくかぼちゃ)…余蒔きゅうり同様に江戸時代から栽培され、東北地方の中で最も知られているかぼちゃの1つ。通常のかぼちゃよりもねっとりとした触感が魅力。

・荒久田茎立(あらくだくきたち)…春一番の甘くて柔らかい茎立菜。

 私が通常の種類ではなく、「伝統野菜」にこだわって栽培をしている理由は、歴史ある「伝統野菜」を私たちの世代で途切れさせたくないと強く思うからです。会津で農業を営む私には、先代の農家さんたちが全力で守ってきた伝統、数多くの人に「美味しい」と言われ愛されてきた歴史、全てが詰まった「種」を守っていく使命があると痛感しました。また、この使命は私が一人で背負うものではないと思っています。会津で農業に関わる沢山の「人」と繋がり、活動をしていきたいと考えました。

 この想いを形にしようと、「人と種を繋ぐ会津伝統野菜」という会を設立。現在私が会長を務め、会津の「伝統野菜」を守り、育てて後世に繋げていくことを目的としています。現在は会津の農家さん30名弱が加入しており、共に栽培やPR活動に励んでいます。この会を設立する際には、伝統野菜の生産者がそもそも少ない会津で、果たしてメンバーは集まるのだろうかという不安がありました。しかし私が想いを発信すると、同じように「伝統野菜」を守りたいと願う農家さんが沢山いることを知りました。同じ想いを持つ仲間が集い、活動出来てとても心強いですし、嬉しいです。ゆくゆくは、会津の「伝統野菜」を京都で定着している「京野菜」(京都の伝統野菜)と同じレベルまで知名度を高め、「伝統野菜」を作る農家さんが安定した収入を得ながら後継者を育成できる環境を作っていきたいと考えています。

 そして、「伝統野菜」を継承するためには人々に「伝統野菜」の魅力を知ってもらう必要があります。魅力を知ってもらうには食べてもらうのが一番効果的です。そして、ただ食べるだけでなく、野菜の歴史や栽培の背景を合わせて知ることが大切だと考えています。そこで地元の小中学校を対象に、私の畑から得た種を利用して、種まきから収穫まで一貫して行う「食育」を実施しています。特に「余蒔ききゅうり」の栽培です。「余蒔ききゅうり」を食べる前は、「きゅうりは青臭くて苦手」という子どももいました。しかし、栽培を始める前に学校と連携をして「余蒔ききゅうり」を使った給食を提供したところ大好評!きゅうり特有のえぐみや青臭さがなく、さっぱりと食べられる「余蒔ききゅうり」を子どもたちも気に入ってくれて、なんと全員が給食を完食してくれたのです。この美味しさを実感したうえで栽培に入った子どもたちは、「また美味しいきゅうりを食べたいから、頑張って育てる!」と意気込んで栽培に励んでいました。種まきから自分の手で行うことによって、野菜が実っていくまでの経緯や苦労を実感してもらうことができ、「より想いを込めて収穫・実食できた」との声が沢山聞こえてきました。このような「食育」を通して実際に栽培をしてみると、自分はどう農業と関わっていきたいかが見えてくると思います。実際に「就農(農業を営むこと)をしたい」と志してくれるのはもちろん嬉しいですが、行政に就職をして農業支援に取り組んだり、農家さんを応援し続ける消費者になったりと、間接的に農業に携わる方が増えてくれたら嬉しいですね。

 そして、私が感銘を受けたのが「会津農書」という江戸時代に書かれた、農業技術を体系化したマニュアル本の存在です。当時は現在ほど農業技術や労力がなく、思うように栽培ができなかった農民のために「佐瀬世治右衛門(さぜ・よじえもん)」が世に出した本です。自然の変化に合わせて、何一つ資源を無駄にしない循環型農業の在り方が示されたこの本は、多くの農民にとって救いとなり、現在でも受け継がれる伝統ある書です。私も「会津農書」のように、後世に「伝統野菜」そのものや、栽培にかける想いを伝承していきたいと考えています。

「会津伝統野菜」の「種」を守り、育てる

私の使命は「会津伝統野菜」の「種」を守り、育てること。「会津伝統野菜」の魅力を更に多くの人へ届けるべく、今後も全力で活動していきます。

皆さんに大切にしてほしいのは「結果」ではなく、努力したという「経験」です。例え上手くいかなかったとしても、全力で取り組んだという「経験」があれば、今後の人生で必ず糧になってくれることでしょう。努力した自分へ、支えてくれる周囲の仲間へ、感謝の気持ちを忘れずに何事にも臆せずチャレンジし続けていってください。

 そして、地元の食材を沢山食べて、「ふるさとの味」をぜひ覚えてください。もし皆さんが地元を離れることになっても、「ふるさとの味」を覚えていれば「またあの味を感じたい」と思い出し、地元への想いが薄れることはないはずです。地域の食材を使った料理で、「ふるさとの味」をぜひ覚えていてほしいと思います。

◆おすすめの本
手塚治虫「ガラスの地球を救え」(光文社)
手塚さんが手がけた数々の書に込められた想いを知ることができる本です。また、地球規模の危機を描いており、令和の時代に生きる私たちでも心に刺さる内容で、とても勉強になります。

(本の情報:国立国会図書館サーチ)

写真提供=長谷川さん

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この記事を書いた人

地域で挑戦する人や企業を豊かにすることを目的とした福島創業のチーム。 ライターやデザイナー、映像クリエイター、エンジニア等といったプロが集まり、 各々の専門スキルや個性を活かしながら、関わるお客様や地域の資本を豊かにするため活動している。

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