福島県国見町で地域おこし協力隊として地域活性に励む岡野希春さん。岡野さんの国見町への熱い想いや、地域の課題を解決するための考え方や解決に向けた取り組み…「働き方」に対する考えをぜひお読みください。
「地域」と「人」を繋げる
私は神奈川県の横浜市出身で、大学も神奈川県川崎市にキャンパスがある専修大学へ進学しました。大学では地域活性に関する研究室に所属しており、大学在学時代からまちづくりに対して強い興味がありました。大学を卒業後は都内の不動産会社に就職し、新規事業の立ち上げや事業推進に取り組んできました。この会社には3年ほど勤めましたが、良い意味で成長が横ばいとなり、もっと自分自身の手で結果を出して活動していきたいと考え、転職を考えるようになりました。私は元々地域との関わりに興味があり、食や自然・物作りにも触れてみたいと考えていたため、次の仕事では「地域」と「人」を繋げる仕事をしたいと考えました。そして、色々なご縁があり2020年に福島県国見町へ移住。国見町は人口9,000人程の小さな町ですが、農業が盛んで人が温かい、魅力あふれる地域です。そんな町の更なる活性化に貢献したいと考え、国見町の地域おこし協力隊として活動をスタートさせました。
国見町の地域おこし協力隊に就任して最初に取り組んだのは、この町にはどんな課題が存在していて、解決するためには何が必要なのかを調査することです。国見町は第1次産業の「農業」が主要産業ですが、他の地方都市と同様に担い手不足が懸念されている現状があります。そして実際に地域の方とコミュニケーションをとったり、地域をめぐったりすると、「農作物の生産者と消費者が直接繋がれていない」課題を目の当たりにしました。国見町は桃や柿を中心とした農作物の生産が盛んではありますが、農家さんの多くは生産した作物を農業協同組合の直売所に卸しています。つまり、生産者と消費者が直接関わる機会がほぼありません。生産者の方とお話すると、「本当はこの作物にかけた想いを消費者に伝えたい」「おすすめの食べ方を直接教えたい」といった要望があることに気が付きました。愛情と誇りが詰まった農作物を、出来れば自分たちの手で消費者に届けたいと願う生産者の想いを聞いて、この想いは1つの農家単体として発信するのではなく、国見町全体で発信していくことが重要だと感じたのです。
生産者と消費者を繋ぐ制度
そこで私が発起人としてスタートさせた事業が「桃の木オーナー制度」です。この制度は、国見町で生産が盛んな桃の木を1本シェアして、生育過程を楽しみながら出来上がった桃を受け取ることができる取り組みです。自分で袋掛けを行ったり、直接農園に出向いて自分で成長過程を見学できたり、収穫体験を行うことも可能です。この活動により、普段は繋がる機会がなかった生産者と消費者が出会うきっかけが生まれるのです。
また、生産者と消費者の方だけでなく、町の外の人と町をつなぎ、「関係人口」を増やすことにも挑戦していきたいと考えています。1度きりのイベントとしての実施ではなく、「自分で桃の成長を見守る楽しさ」を魅力にすれば、定期的に国見町へ足を運んでもらえる仕組みができると考えました。
「桃の木オーナー制度」のほかには、国見町に興味がある観光客の方に体験プログラムの提案・実施も行っています。観光客の方のご要望に合わせて、地域の古民家で地域食材を使用した料理を振る舞ったり、桃や柿の収穫を体験してもらったり、国見町の自然に直接触れ合ってもらえる企画を提案してきました。観光客の方の滞在時間やご要望に合わせて、国見町の地域資源を生かした特別なプログラムをご提案しています。
私が地域おこし協力隊に就任して、初めて事業をスタートさせるにあたって考えたのは「何のために事業をするのか」ということです。事業の存在意義は人によって意見が異なるかもしれませんが、私は「世の中の困りごとを解決するため」だと考えます。私で言えば、国見町に住む人々や地域が抱える「農業の課題」を解決するために事業を行う必要があるということです。農業の担い手不足が懸念されている国見町で、「どうしたら若者に農業の魅力を知ってもらえるだろう」、「町外の人に国見町の良さを発信できるだろうか」と思案した結果「桃の木オーナー制度」や体験プログラムの提案・実施のアイデアが浮かんできました。
また、このようなアイデアを積極的に提案できる環境だからこそ、自分自身の意見をしっかりと持って取り組まなければならないことを実感しました。町から信頼して任せられているからこそ、「受け身」の姿勢ではなく、責任をもって自分自身の手で進めていくことの重要性も感じています。
自分自身で人生を創る
私が過去に勤務していた不動産会社は比較的規模が大きかったため、組織もピラミッド型で、上からの指示を受けてタスクをこなす業務も行ってきました。しかし現在は私のアイデアが中心となって周囲を巻き込みながら事業を推進させていく、真逆の環境に身を置いています。また、企業に勤めていたころは企業の看板を背負って営業していたのが、現在は肩書きの無い「私個人」として動くというのも大きく異なる点だと感じています。どちらの働き方も経験しましたが、どちらにも異なる魅力があって面白いです。過去に全く異なる働き方を経験していたからこそ、現在の0から1を創り出す働き方が楽しいと感じられるのだと思います。1人1人性格も夢も異なるからこそ働き方の正解は決して1つではありませんが、今は、私の働き方の選択はどちらも正解だったと胸を張って言えます。様々な環境に身を置いて、多様な経験を積み重ねることで、自分の肌に合う・合わないが分かるはずなので、ぜひ積極的に挑戦を続けてください。とにかく前に進み続けることで、何かしら役立つヒントが得られると思います。
皆さんの時代の働き方は本当に多種多様です。両親や先生の時代の進路の正解は、現代の進路の正解とは言えません。誰かに言われた言葉を鵜呑みにするのではなく、「自分はどう生きたいのか」をとことん考えて、進路を決定してほしいと思います。
初めに就職をした会社でずっと働き続けることは、ある人にとっては居心地よく勉強を続けられるため、正解かもしれません。しかし、ある人にとってはキャリアアップのための経験と捉えて、次のステップへ踏み出すのが正解かもしれません。かつて言われていた働き方の正解はなくなっているからこそ、自分自身で人生を創ることが必要です。高校生の皆さんが、今後の人生で自分なりの「正解」の働き方でご活躍されることを心から応援しております。頑張ってください!
(本の情報:国立国会図書館サーチ)
写真提供=岡野さん