仙台でSDGsの普及啓発に取り組む「一般社団法人SDGsとうほく」で、代表理事を務める紅邑晶子(べにむら・あきこ)さん。せんだい・みやぎNPOセンター設立者でもある紅邑さんは、宮城のNPO普及をけん引し、震災後は復興支援活動やボランティア受け入れの連携を図るなど、市民のつながりを作り続けてきました。今、市民や企業のSDGs実現に寄り添いたいという紅邑さんに、活動への思いを伺いました。
NPO支援に携わるきっかけ
ゼロからイチを作る、その面白さが好きで数十年過ごしてきました。
専門学校を卒業後、コピーライターやテレビの制作会社などを経験し、広告の仕事に関わることに。バブル期終盤を迎えた頃、エコとは言い難い開発事業の広告を書いていて、少しずつ「これでいいのかな」と思い始めたんです。自分が書く文章は社会的に有意義なのだろうか、と。
そうした疑問を、仕事でお会いした東北大学の教授に投げかけてみたところ、「海外では行政でも企業でもない、NPOという組織があるそうだ」と教えてもらいました。市民活動をしていた別の知人ともNPOについて情報交換するようになり、気づけばイギリスでのNPOのヒアリング調査メンバーに加わり、その後宮城県内の市民活動の調査に関わっていました。翌年、コピーライター業との両立に限界を感じたこともあり、せんだい・みやぎNPOセンターの立ち上げに参加、事務局長としてNPO支援に専念することにしました。1996年のことです。
1990年代後半は、1995年に起きた阪神淡路大震災の際に、寄付やボランティア支援の調整がうまくいかなかった教訓をもとに、日本財団がNPO支援組織のサポートを強化したり、1998年に特定非営利活動促進法(NPO法)が成立するなど、NPOへの理解が広まってきた時期でした。ちょうど昨今、SDGs(Sustainable Development Goals:持続可能な開発目標)の理解や実践が進んできたのと似ています。
2011年の東日本大震災以降、行政や社会福祉協議会の対応が難しい支援活動を担う民間組織みやぎ連携復興センターを立ち上げ、代表として調整に力を注ぎました。2015年に仙台が第3回世界防災会議の会場となった時には、仙台に各国首脳・閣僚級会議や専門家会議からNGOなどの市民フォーラムまでが揃う貴重な機会を活かすべく、仙台市市民活動サポートセンターでのセッションや仙台市役所前に交流の場を設けるなど、つながりを意識して活動しました。
震災から5年経った2016年、両センターの代表から退きました。その頃、被災地の復興支援に関わった企業の方から「これからはCSR(企業の社会的責任)よりSDGsが注目される」と聞いて、面白そうだなと有志による勉強会を始めました。2017年から活動を始めた一般社団法人SDGsとうほくも、こんなふうに人とのつながりから生まれたのです。
使命は”自分ごと”の土台作り
私たちの使命は、セミナーやワークショップなどを通じて、企業や個人の皆さんにSDGsを“自分ごと”として考えてもらうための土台作りをすることです。
SDGsはミレニアム開発目標の後継であり、2015年に採択された「持続可能な開発のための2030アジェンダ」に記載された国際目標です。「貧困をなくそう」など17のゴールと、その下に169のターゲットがあり、各ターゲットに1つ以上のグローバル指標が定められています。壮大に思えるかもしれませんが、前文で「あらゆる面の貧困をなくすことが一番大きな、解決しなければならない課題」とうたわれているように、根本的には人権を尊重し、守っていくための普遍的な指針です。
ここ2、3年はコロナ禍により貧困問題が深刻化し、「経済をとるか社会をとるか」という話題を聞くことも多かったでしょう。しかし、SDGsのウェディングケーキモデルを参照すると、経済と社会はトレードオフの関係ではなく、経済活動は社会の安定のうえに成り立つことがわかります。
私たちの暮らしや行動一つ一つが、SDGsと連関しています。数年前は私自身、SDGsはNGOの人たちに向けた理念では? と思い込んでいましたが、実際はとても身近で、誰もが関わる理念です。
「17のゴールの〇番を達成するために、何をすべきか」という目標を落し込む発想もいいですが、例えばエコバッグを持ち歩くといった行動は「SDGsのどの目標とつながっているのか」のような、ボトムアップの発想で考えてみてください。他には地域や会社の清掃活動や、普段の買い物でサスティナブルに配慮した商品を買う、ボランティア活動に参加するといった行動も、17の目標とつながっています。その視点を意識することで、意外ともうできてるじゃん、それならもう少し行動できるかな、と気付けたらいいですよね。
実際に、SDGsとうほくの勉強会に参加してくれた企業の方で、「会社の取り組みがSDGsにつながっていることがわかり、誇りに思う」とうれしい発見をされた方もいました。
本の情報:国立国会図書館リサーチ