地域のお茶を使った「紅茶」を石巻から発信

宮城県石巻市の「お茶のあさひ園」の日野朱夏さんは、地元のお茶を作った国産紅茶「kitaha」の商品企画・開発を担当されています。「いつかは石巻のために」という思いを持ち続けてきた日野さんの思いとストーリーをぜひご覧ください。

目次

◆取り組みのきっかけ

私は石巻市で生まれ育ちました。実家は「お茶のあさひ園」というお茶屋さんで、幼いころからお茶に親しんできました。東日本大震災の時は高校3年生の3月。高校の卒業式を終えて、4月からは東京の短期大学に進学することが決まっていました。石巻が大きな被害を受け、多くの方が被災した中で、「東京に行っていいのか」と悩みましたが、「東京で勉強して、いつかは学んだことを地元に返したい」と強く思いました。石巻から東京に向かう時、キャリーバッグを引きながら道を歩いていると、地元の方々が「頑張ってきなさいよ」と声をかけてくださったことは今でも心に残ってきます。

短大を卒業後、「いつかは実家のお茶屋さんの仕事を継ぎたい」と思いながら、4年間東京で働きました。そして24歳の時に石巻に戻り実家の仕事に関わることになりました。この時、「お茶のあさひ園」の社長をしていた父親が石巻の「桃生茶(ものうちゃ)」を使った紅茶の商品化を新しく初めており、関わってくれないかという誘いがあったからでした。

「桃生茶」は江戸時代に伊達政宗のすすめで栽培が始まったお茶で、長い歴史を持っています。石巻の内陸にある桃生という地区で、現在は1軒のみの農家さんが生産しています。東日本大震災をきっかけに、私の父親が「次の世代に何かを残したい」と考えたのがこの桃生茶を使った国産の紅茶を作ることでした。皆さんがよく飲んでいる緑茶はお茶の茶葉を乾燥させて作ります。紅茶はこの流れに「発酵」という工程が加わります。お茶の茶葉を発酵させた後に乾燥させて作ります。商品名は「北の大地の葉」という意味で「kitaha(キタハ)」というブランドにしていました。

◆どんな取り組みをしているか

私が関わった時は紅茶の茶葉はできていて、次は紅茶の茶葉を作ったお菓子を作るという段階でした。そして、20代半ばの私がいきなりデザイナーさんや商品の開発を考えるフードコーディネーターさんといったプロの方々と一緒にお菓子を考えることになりました。

月に2回くらい会議があったのですが、商品を開発した経験もなく、会議の場で全く発言ができませんでした。最後の会議で、私がぼそっと「このお菓子おいしいです」ということを話した時がありました。その後、フードコーディネーターさんが「いつも静かにしていたけどあなたはもっと発言もできる人だから、もっと殻を破った方がいいよ」という長文のメールをくださいました。「こんなに見てくれている人がいるのに、私は何も学ぼうとせずに会議に参加していた」と感じ、そこから自分の意識が変わりました。「kitaha」の試飲会をしに商業施設の店頭などに立ち、桃生茶や紅茶に関する知識を深めていくと、だんだん商品のことが好きになっていきました。そして2019年に「自分にやらせてほしい」と父親にお願いし、今は「kitaha」を任せてもらっています。

そして、自分の手で作ったのが「kitaha 纏(まとい)」という商品です。「kitaha」と何かを組み合わせたらより可能性が広がるのではないかというアイデアから生まれました。組み合わせるものとして最初に浮かんだのが、ハーブティーとしても使われている「ハーブ」でした。宮城県蔵王町でハーブを生産している「ざおうハーブ」さんにご協力いただき、「kitaha」の茶葉とハーブを混ぜた茶葉をティーバッグに入れ、かわいらしい缶のパッケージに入れて販売しています。

ざおうハーブさんから5種類のハーブを頂いて、「kitaha」と混ぜ合わせる茶葉の量を微妙に変えて味を調整しました。仕事を終えた後、深夜に自分で実験を繰り返しました。最終的に「レモンバーベナ」と「カモミール」の2種類を商品にしています。気持ちが安らぐようにという思いを込め、パッケージのデザインは女性が喜びそうなものにこだわりました。続いて、宮城県の山元町特産のイチゴを乾燥させて紅茶に浮かべた商品も開発しました。宮城県の色々な地域の生産者さんとコラボをすることで、「地域×地域」で石巻ともう1つの地域をPRしていきたいと考えています。

◆未来に向けて・高校生へのメッセージ

 「kitaha」は販売から5年となりますが、2019年に大阪で開かれた「G20」のサミットで大統領をはじめ各国の首脳にふるまわれました。著名なソムリエの方に味や香りを評価していただきとても嬉しかったです。これまでは、静岡県の工場に紅茶の製造をお願いしていましたが、2022年には石巻に自社工場を建設し、生産量を増やしていきます。これをきっかけに東北各地でお茶を作っている方々とつながりながら、東北のお茶の文化を高めていきたいと考えています。

また、これまでは、静岡県の工場に紅茶の製造をお願いしていましたが、2022年に石巻に自社工場を建設し、石巻で紅茶の製造をスタートしました。地元・石巻から商品を発信し、石巻の方々を元気にすることを大切にしているので工場の建設はとても喜ばしいことでした。

工場の名前は「kitahanone」。東北のお茶文化の「根っこ」になりたいという思いで名づけました。東北各地でお茶を作っている方々とつながりながら、東北にお茶文化を広げていきたいと考えています。将来的にはウーロン茶の製造にも挑戦したいです。

石巻に工場ができたので、例えば石巻の子どもたちが小学6年生の夏に「茶摘み」をして、そのお茶の葉を使って私たちが3か月~半年かけて紅茶を作り、卒業式の時に紅茶をプレゼントする、そんなことができればいいなと考えています。それは若い世代がお茶に親しみ、石巻を好きになるきっかけになると感じています。自分自身も「石巻川開き祭り」という地元の祭りが楽しくて石巻のことが好きになりました。楽しいものが1つでもあれば、石巻にいつか戻りたいというきっかけになると考えています。

生きているとつらいと思う出来事もあるかもしれません。私は高校生の時、友人にも家族にもうまく自分を表現することができず、殻に閉じこもったりしていました。そんな私が今思うことは、嫌なことも、嬉しいことも、悲しいことも、楽しいことも全て無駄じゃなかったなということです。

悲しいと思ったことはたくさんあります。でも同じ悲しさを持っている人の気持ちをわかることができます。それは人間関係をつくっていくうえで強い武器になると思います。つらい時は信頼できる人たちに全力で頼っていいと思います。誰かしら必ず助けてくれます。これは高校生の特権です。高校生という素敵な時期にたくさんのことに挑戦し多くのことを知ることが、きっと素敵な未来につながるのだと私は信じています。1度しかない高校生活をぜひ楽しんでください。

あなたへの問い
この記事を読んで感じた、商品開発するときに大切なことはどんなことだと思いますか?3つ以上挙げてみよう。

◆おすすめの本

谷川俊太郎「あさ」

私はこの詩集の中にある「朝のリレー」という詩が大好きです。私が迎える朝は誰かがバトンタッチしてくれた朝なのだと思うと1日を頑張れたりします。自分が生きている今が普通のことではないのだとも思わせてくれる詩です。

本のあとがきに谷川俊太郎さんが「よがあけて あさがくるっていうのは あたりまえのようでいて すごくすてきなこと」と書かれているのですが高校生のみんなにもそう感じてもらえたらと思いこちらの本を選びました。

写真提供=日野さん

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この記事を書いた人

東京大学教育学部卒業後、全国紙の新聞記者として広島総局・姫路支局に勤務し事件事故、高校野球、教育、選挙など幅広い分野を取材。民間企業を経て、2021年に株式会社オーナーを起業し、本教材「探究百科GATEWAY」を開発し編集長を務める。

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