都市と地方をかき混ぜ、「食」から課題を解決する

株式会社雨風太陽代表取締役の高橋博之さん。岩手県花巻市のご出身で、東日本大震災をきっかけに政治の世界から事業家に転身した異色の経歴の持ち主です。スマートフォンを活用した「ポケットマルシェ」というサービスで「食」を切り口に生産者と消費者をつなげ、都市と地方をかき混ぜる事業をされています。その熱い思いをお伝えします。

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◆潜在化するニーズへの働きかけ

岩手県花巻市の出身です。中学までは競技スキーに打ち込み、高校時代はクラスの中でも目立たない存在でした。姉が知的障がい者で、「何のために人間は生きるのか」という哲学的な問いを考えていました。

大学で東京に出て、テレビ局でアルバイトをしたことをきっかけに報道記者にあこがれを抱くようになりました。新聞記者になろうと思って、就職活動で色々な新聞社を受けました。でも、全くうまく行きませんでした。1年目では就職先が決まらず、次の年も、その次の年も受け続けましたが、就職先は決まりませんでした。3年間で100回は受けたと思います。

そんな私を見かねた大学の先輩が声をかけてくださいました。その方は政治家をされていて、その方のかばん持ちをはじめたことをきっかけに政治の道に飛び込みました。

地元の花巻に戻って31歳の時に岩手県議会議員になり、東日本大震災をきっかけに事業家に転身。そこからは農業や漁業など「1次産業」の分野で事業を行ってきました。

農業や漁業に関わるきっかけは、議員時代に岩手県内の農家さんや漁師さんのお話を聞いたことでした。農家の息子さんが家を継がない、集落の維持も難しくなっている。「飯を作っている人が飯を食えない」という現実をなんとかしないといけないと思いました。

東日本大震災の津波は岩手県の漁業に深刻な被害をもたらしました。震災後、岩手県の沿岸部に足を運び、色々な漁師さんのお話を伺ってきました。第2次世界大戦の敗戦から立ち直る日本人の姿を描いた本「敗北を抱きしめて」でピューリッツァー賞を受賞したアメリカの歴史家、ジョン・ダワー氏が「敗戦や大災害の後には創造的なスペースが立ち上がる」ということを話していました。その言葉に出会い、東日本大震災で東北は被災をしましたが、なくなったところにゼロから新しく何かを作れるのではないかと思いました。

創造的なスペースが閉じる前に何かをやりたいと思いました。そこで、震災から2年後、2013年に食べ物つきの情報誌「東北食べる通信」を作りました。食べ物と一緒に、その食べ物を作った生産者さんのストーリーを冊子にまとめて、消費者の方に届けるという前例のない試みでした。そして、私たちに共感した方々が全国に増え、その後全国に「食べる通信」の輪が広がりました。その後2016年にスマホアプリ「ポケットマルシェ」を立ち上げ、農家さんや漁師さんから直接旬の食材を購入できる仕組みを作りました。

私は自分では何もできないのですが、議員時代から色々な人と輪になって車座になってごにょごにょと色々な話をしたり、聞いたりしてきました。そして皆さんが何を求めているかを肌で感じてきました。その中で、「こっちに行くはずだ」という時代の今後を予感することができました。

実は顕在化したニーズを解決しただけでは、社会は変わらないと考えています。潜在化しているニーズにどう働きかけていくのかが社会を変えていくことだと感じています。最初は7~8割の人は「何を言っているんだ?」と言っているくらいがちょうどいい。後はタイミングですね。生産者と消費者を直接双方向でつなげるという仕組みを以前から考えていた先輩はいたと思います。今は、そこに世の中が追いついてきたという実感があるんです。テクノロジーが進化して、スマートフォンが当たり前になって、環境が整ってきたというタイミングで、私たちがサービスを作ることができたのだと思います。

都市と地方をかき混ぜる

現代の社会は、色々なことが「分断」されていると思います。「生産者」と「消費者」、「都市」と「地方」…でもそこがかき混ぜられたときに、課題の解決が起こるのだと思います。 

例えば東日本大震災の後、都市部に住んでいた人がボランティアや支援活動で被災地に足を運びました。そこで都市と地方がつながりました。地方に住む人は、食べ物の生産は得意でしたが伝える力が弱かった。食べ物に価値をつけて販売するマーケティングやブランディングは都市部の方から学びました。それは、地方の美味しい食べ物が都会に広がるきっかけになったと思います。

地方の人たちも、都会から来た人から刺激を受けて、地域の中で地域の課題解決に乗り出した。自分たちで何かをやるという当事者性を取り戻していきました。

都市で暮らしている方々も、被災地に来て人間的に豊かになって都会に帰っていきました。都市部も「無縁社会」と言われるように人間関係の薄さや孤独の問題がある。仕事がどんどん分業化されて、「自分が何のために働いているかわからない」となかなか生きがいを感じられない人が被災地に来て、人とのつながりを喜んでいたのです。

 都市の課題を地方が解決し、地方の課題を都市が解決する。「これだ」と思いました。これを日常の生活の中でできた方がいいのではないかと思って、「食べる」という人間が日常で必ず行っている行動に着目しました。そこで、「食」や1次産業の分野で「生産者」と「消費者」をつなぐことを考えたのです。

1次産業についても、「生産者」と「消費者」の分断が深刻だと感じています。皆さんが普段食べている食べ物。その生産者の方の顔は浮かびますか?実はあまり浮かばないと思います。

そこで、スマホ上のアプリ「ポケットマルシェ」を通して消費者の方が生産者の方とつながり、そこから直接食べ物を購入したり、直接コミュニケーションをとれたりするようにすることで、生産者の方の顔が見え、「生きるリアリティ」を再生することができると考えています。みなさんも週に1度だけでもいいので、皆さんが普段食べている食べ物の裏側を考えたり、感じたりしてほしいと考えています。

◆心がワクワクする方へ

何かを「続ける」ことはとても大切だと思います。私はコロナ禍で平日の毎朝6時から、Facebookで「歩くラジオ」と題してオンラインで色々な方をゲストに呼んでお話をしていました。その様子は公開して、一般の方に見て頂いていました。私は器用な人間ではないし賢くもないのですが、まずやってみる、そして続けてみるということはとても大事だと思います。そうすると続けている中で、やってみる意味が立ち上がると思います。

そして、その日その日、一瞬を生きるということを大切にしてほしいです。生きるは今にしかない。そして、人生は偶然の積み重ね。動いて、心がワクワクする方向へ行くということを繰り返していけば、人生の目的も自然とみつかるのではないかと思っています。

暗い未来が予測されて大変だという話がありますが、皆さんに伝えたいのは、暗い未来を予測しているのは大人たちなので、自分たちでその予測を塗り替えてほしいと思っています。未来は変えられると思います。あらかじめ結末が分かった映画を見せられるほど退屈なことはありません。人生も同じ。何が起こるかわからないから楽しい。予定調和じゃない人生は「生」を満たしてくれると思います。

◆おすすめの本
福岡伸一「生命と食」(岩波書店)
生存生活に必要な条件が満たされた世界に生まれ落ちた若い世代は、生きるとは何か?という根源的問いを抱えていると感じています。この本は、生きるとは何かの本質が書いてあるので、ぜひ読んでもらいたいです。

(本の情報:国立国会図書館サーチ)

写真提供=株式会社雨風太陽

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この記事を書いた人

東京大学教育学部卒業後、全国紙の新聞記者として広島総局・姫路支局に勤務し事件事故、高校野球、教育、選挙など幅広い分野を取材。民間企業を経て、2021年に株式会社オーナーを起業し、本教材「探究百科GATEWAY」を開発し編集長を務める。

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