誰もが「役割」を感じられる「希望の場所」を作る

東日本大震災をきっかけに宮城県に移住し、宅配弁当サービスや福祉施設の運営をしている小尾勝吉さん。「何のために生きているのかわからない」という少年時代を過ごし、今は全ての人が「役割」を感じながら生きられる場づくりをされています。小尾さんの思いをぜひお聞きください。

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存在意義を考えて

私は母子家庭で育ちました。子どものころは「自分が強くならないといけない」という思いを持ち、「何のために生きているのか」を常に考えていました。

「自分の存在意義って何だろう。何のために生きているんだろう」。大学時代はそんなことを考えていました。世界中を旅してみたり、アルバイトを20種類やってみたり。牛乳配達やカラオケ店の店長、ファミリーレストランや日本料理店、電気工事や家庭教師など何でもやりました。歌手デビューをしたこともあります。そして大学を卒業する時の就職活動はうまく行きませんでした。

「自分に合う仕事って何だろう」と考えました。たくさんのアルバイトをした経験から、仕事の種類を考えるのではなくて、「ありがとう」という言葉を言ってもらえる中で生きていけばいい。それなら「何のために生きているのか」ということの答えや自分の役割が見つかると思いました。そして、当時読んでいた起業家の方が書いていた本に「10年やればなんとかなる」と書いていました。10年後の2011年までに起業して幸せになろうと決意しました。

そんな矢先、母親が倒れます。「母親の命はあと半年持たないかもしれません」と言われました。口からものを食べられなくなり、介護が必要な状態でやせ細り亡くなったのですが、最期に「私の人生には悔いがない」と話していたのです。自分もこんな悔いのない人生を送りたい、と思った出来事でした。

そして、いくつかの企業で働きながら、「起業しよう」と思っていた2011年はすぐにやってきました。その年、東日本大震災が発生。当時私は神奈川県に住んでいたのですが、宮城県の山元町出身の友人がいたことから、2011年4月から山元町や石巻市にボランティアとして通いました。月1回くらいのペースでお家の清掃や、泥かきのボランティアを行っていました。自分がもともと起業を考えていたこともあり、「ここで仕事を創りたい」と感じ、宮城に移住して起業することにしました。

本質的な支援を届ける

最初に取り組んだのは、塩釜市を拠点に、仮設住宅に当時住んでいた高齢者の方々向けに、お弁当を宅配するサービスでした。仮設住宅から買い物に行くことができないことを課題に感じていました。被災地に働く場を作ろうと、被災して仮設住宅に住んでいる方や、障がい者の方に働いていただいていました。確かに、お弁当を宅配すると「ありがとう」と言われて嬉しかったのですが、だんだん続けていくうちに、「自己満足ではないか」というようなことに気づいたのです。

お弁当を頼む方々の中には、高齢で家に引きこもっている方や、子どもに迷惑をかけるからという理由で一人で暮らしていらっしゃる方がいらっしゃいました。「さみしい」と話しているその方々にとって、愛にあふれていて、豊かな暮らしができる場所を作ることが本当に必要なことだと感じました。。

そこから高齢者向けの介護施設の運営をはじめるようになりました。今は石巻市を中心にデイサービスやリハビリ、障がいを持った方向けのグループホームなどを運営しています。「共生」ということをコンセプトにしていて、私たちの施設では、知的障害の方が介護の資格を取って、高齢者の方向けに体操を教えています。

私は小学校のころから、身体障がい者の方、知的障がい者等の方々と一緒に過ごすことが日常にあったので、私にとっては垣根がなかったのです。

まず、働く人が豊かにならないと、他者を支援できないと考えています。「持たざる者 与えられない」という言葉がありますが、まずは「愛さんさんグループ」で働いている人たちが豊かになることを目指しています。毎日「生まれてきてよかった」という状態で高齢者の方や障がい者の方を支援することが大切です。「愛さんさんグループ」で働いている人たちが毎日幸せを感じられる自分になることを目指しています。

そして支援しすぎないということも重要だと考えています。本質的な支援とは、どこまでが支援なのか?ということはすごく考えています。

希望の場所を作る

私たちは、誰にとっても希望の場所を作っていきたいと考えています。泊まるところと食事と働く場所をご用意しています。自分の人生のテーマは「家族愛」。自分も家族愛あふれる家庭で育ちたかったという経験から考えたテーマです。家族愛にあふれる場所を地域で作り、その希望の場所を未来につないでいきたいと思っています。

 「人は必ず役割を持って生まれてくる」ということを信じて、自分に言い聞かせて生きてきました。だからこそ今苦しんでいる人がいたら、「大丈夫、必ず役割に出会うために生まれてきたのだから」と伝えたいです。だからどんな方にとっても、「自分は役割を持っている」と思ってもらえるような場所を作っていきたいと思っています。それが、「自分の存在意義」なのだと考えています。

高校生の皆さんも、苦しいなあと思っている方がいらっしゃっても大丈夫。あなたも役割を持って生まれてきているはずです。ぜひ何か困ったら、私たちのところに相談に来てください。失敗という経験値をたくさんためて、自分を大切に扱いながら、一度きりの素晴らしい人生を過ごしてほしいと思っています。皆さんの明るい未来を願っています。

おすすめの本
沢木耕太郎「深夜特急」(新潮社)

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この記事を書いた人

東京大学教育学部卒業後、全国紙の新聞記者として広島総局・姫路支局に勤務し事件事故、高校野球、教育、選挙など幅広い分野を取材。民間企業を経て、2021年に株式会社オーナーを起業し、本教材「探究百科GATEWAY」を開発し編集長を務める。

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