医大生として医療に関する勉学に励みながら、これまで学生団体や一般社団法人を設立するなど積極的に活動してきた小川泰佑さん。「MiTOHOKU Program」では「医療的ケア児」の支援の取り組みに挑戦しました。小川さんが考える「医療」とは何なのか、思い描く将来像はどのようなものなのか、お話を伺いました。小川さんへのインタビュー動画もぜひご覧ください。
医療の本質は人の生活をよりよくすること
私は「どこに住んでいても、人生に伴走する医療福祉を享受できる社会」の実現を目指しています。高校卒業後、最初は別の大学に通っていたのですが、医師を志して大学を中退し、猛勉強の末医大に合格しました。
私が目指すのは「総合診療医」。幅広い疾患に対応し、患者さんの人生に寄り添う医師のことです。内科の知識もあって外科的な処置もできるような、東北一の総合診療医になりたいです。特に人口減少や高齢化、がんによる死亡率の高さなど様々な課題を抱える「秋田県」に貢献することを目指しています。
また、医師を目指すための勉強に励みながら、大学1年生の時に学生団体ariを立ち上げ、様々な地域活動にも取り組んできました。ゴミ拾いやラジオ体操をする会を企画し、地元企業と連携して社会的な孤立を解消する地域図書館を開設したり、仙台市の助成金を得て100人以上の子どもが制作に参加したアート作品を作成し、地下鉄の仙台駅に展示したりしました。
なぜ、これほどまでに地域活動を行うのか。それは、「医療の本質は治すことではなく、人の生活をよりよくすることだと考えているから」です。患者さんの生活は、病院の中だけではわからないことがある。そこで病院を飛び出し、地域に出て、医療者として、あるいは市民として何ができるかを考えることが大切だと考えています。
2023年にはより社会的な信頼を得るために学生団体を法人化し、一般社団法人ariを設立。「医療と介護ごちゃまぜプロジェクト」と題し、医療職と介護福祉職の連携を深めるネットワークづくりを行っています。法人化したことでより多くの団体と連携し、様々な事業に取り組んでいきたいと考えています。
MiTOHOKU Programでの挑戦
MiTOHOKU Programに挑戦した理由は、「医療的ケア児の支援」という課題に取り組みたいからです。医療的ケア児とは人工呼吸器や胃ろうなどを用いて日常的な医療ケアが必要な児童のことです。
ariの活動の中で、医療的ケア児を専門的に診る「小児在宅訪問医」をされている医師の方と出会いました。「宮城県で唯一の小児在宅訪問医」というその医師の方からは、医療的ケア児を専門的に支援できる医師の数が少ないことや、また医療的ケア児には日常的な支援が必要なため、家族の負担が大きいことを知りました。
医療的ケア児は全国に約20,000人いると推計されています。決して多いとは言えないかもしれない数字ですが、私はこの20,000人という数字について、「1人ひとりの現実が積み重なった20,000人」という数字を知った時に少しでも多くの子どもたちが救われるために何をすればいいか考えました。
そこで考えたのが「かかりつけお兄さんお姉さん」を作ること。教育・福祉・医療について学んだ学生をご家庭に派遣し、子どもたちの好きなことを一緒にしたり、遊んだりしたりするという取り組みです。
MiTOHOKU Programから得た学び
MiTOHOKU Programを通じて得た学びの1つ目は「支援する―支援される」という関係性ではなく、対等な関係を作ることの大切さ。医療を学ぶ私は、どうしても「支援する」という先入観で考えてしまったと気付かされました。「医学生」という肩書にとらわれず、「人として何ができるか」という考え方がより大切だと実感しました。
もう1つは、「人として何ができるか」という考え方に立った時、医療的ケア児を含め、より多くの子どもたちを幸せにしたい、と視野が広がったこと。教育領域での課題にも気づき、心の孤立や子どもたちが居場所を持てていないことを課題ととらえなおしました。
今後は一般社団法人の事業として取り組み、考えた事業を軌道に乗せることを目標にしています。
ただ、サービスに対してお金を出せるご家庭だけ支援していても、心の孤立という課題解決にはつながらないと感じているため、行政と連携しながら、お金を出すのが難しいご家庭にもサービスを提供していきたいと考えています。
MiTOHOKU Programとは
「MiTOHOKU Program」とは、東北にゆかりのある未踏的若手人材を発掘・育成するプログラムです。「起業家・専門家集団による伴走支援」により、若手人材の「前人未踏」のアイデア実現を支援します。