お米や果物、肉や魚など、「食」に興味を持っている高校生の皆さんは多いと思います。スーパーやコンビニでふと目に留まった商品もあるでしょう。そして、食べ物や商品の裏には、必ず作り手のストーリーがあります。
宮城県にある水産加工会社、マルヤ水産の代表取締役社長の千葉卓也さんに、「商品開発」の裏側のストーリーを伺いました。
宮城のものを使った缶詰づくり
1950年創業の水産加工メーカーを経営しています。もともとは宮城県の名取市の閖上(ゆりあげ)という地域に工場がありましたが、東日本大震災の津波で被災し、今は亘理町の工場を拠点にしています。
私たちは、カニ缶詰の製造や冷凍カニの販売を行ってきました。実はカニの缶詰は製造技術が難しく、製造元は日本に数社しかありません。たらばがに、ずわいがになどを使って高級なギフト用から手軽な普段使い用までカニ缶詰を作ってきました。その品質が評価され、長年東京のデパートなどでも販売して頂いております。
この技術を生かして、何か地元のもので商品を作りたいとずっと思っていました。そこで新たなブランド「CANNED(きゃんど)」を2016年に立ち上げ、地元・宮城のものを使った缶詰づくりに新たにチャレンジをしました。
缶詰ならではのおいしさを表現
みなさんは「缶詰」と聞いて、どんなイメージを持ちますか?
おそらく「賞味期限が長いもの」・「災害の時に助かる」みたいな感じでとらえる方がいらっしゃると思います。
缶詰が日持ちするのは真空状態で蓋を閉めて、レトルト殺菌装置という大きな釜で加圧加熱殺菌しているからです。
そして、この殺菌工程を経ると、実は味が素材によくしみ込みます。また、魚の骨も柔らかくなって食べることができる。さば缶のさばを食べたことがある方ならわかると思います。
だからこそこの「CANNED」というブランド立ち上げの時には「缶詰ならではのおいしさを表現したい」という考えがありました。
食材は東北のものにこだわり、東北のデザイナーさんにも商品開発に関わってもらっています。「缶詰だからこそ美味しい」を伝えるためにはどんな伝え方がいいか?を商品を開発したメンバーで話し合っていると、「圧力鍋でぐつぐつ煮込んだようなおいしさを表現することではないか」という意見が出てきた。そこで「CANNED」のロゴマークを鍋の形にした。そして商品のパッケージも、取っ手がついた鍋の形にしました。
難関だったのは最初に作った銀鮭(ギンザケ)の缶詰です。これは宮城県南三陸町で養殖されているお刺身用の銀鮭を使っているのですが、鮭の身が柔らかいため「作るのは不可能」という意見を頂いたこともありました。確かに最初は身が崩れてしまいうまくいかなかったのですが、試作を何度か繰り返し、加熱する時間や温度を調整してふっくらとして崩れない身を実現しました。もちろん骨まで柔らかく食べることができます。味付けは懐石料理店の料理長の監修のもと、宮城県内の醤油を使い和食の煮付けの味に仕上げました。
その後、南三陸産の牡蠣(かき)を使った「牡蠣のしぐれ煮」や「小女子(こうなご)の山椒煮」を開発。缶のサイズ・デザインを揃えているので、このように6つセットにすれば見栄えもよく、ギフトとして販売しています。
缶詰は輸送がしやすいのも特徴で、今はシンガポールや香港など海外でも販売して頂いています。インターネットでも販売していて好評を頂いております。インターネットでは、缶詰にあう宮城のワインとセットにした販売もしており、より缶詰のおいしさを感じて頂けるようにしました。コロナ禍で会食ができない分、逆にインターネット上の商品を贈り物として買っていただくこともあります。
宮城の特産品を大切にしていく
銀鮭は宮城県で主に養殖されており、国内の生産量の約9割が宮城県産と言われています。この宮城の特産品を大切にしていきたいと考えています。近年、さんまなどの漁獲量が激減しています。その点、銀鮭や牡蠣は養殖で作られているので、「持続可能」な素材だと思います。今後は、海のものだけではなく、農産物や畜産物を缶詰にしていくことにもチャレンジをしていきたいと考えています。そのためには、素材を提供いただける方とのつながりを増やしていきたいです。
みなさんもスーパーやコンビニで色んな商品を見ることがあると思いますが、商品には色々な思いが込められているので、商品を見たり食べたりして、商品に込められた思いを感じてもらいたいなと思います。自分だったらこうするよというアイデアもぜひ考えてみてほしいですね。