「水産加工でまちを盛り上げる」イカ王子の挑戦

岩手県宮古市の水産加工会社「共和水産株式会社」を経営するかたわら、自身を「イカ王子」と名乗り、宮古の水産加工品のブランディングやPR活動を行う鈴木さん。なぜ「イカ王子」という活動を始めたのか、そして今後どんな展望をもっているのか。宮古から食文化を創りたいという鈴木さんのストーリーをぜひお聞きください。

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地域のためにできること

高校生の時はソフトテニスに熱中しており、特にやりたいことはありませんでした。「華やかな都会に出たい。都会に出れば何かが変わるんじゃないか。成長できるんじゃないか。」と思っていました。スポーツ推薦で大学に合格し、念願の仙台で新生活がスタートしました。

大学の時は、繁華街のダイニングバーでアルバイトを始めました。初めは、「飲食が好きだし、華やかでなんかカッコ良さそう」。そんな単純なことしか考えていませんでした。しかし、やっているうちに飲食業の楽しさを感じるようになりました。お店にはいろんなお客さんが来ましたが、「おいしかったよ」「またくるね」と声をかけてもらえることが嬉しくて、やりがいを感じる日々を送っていました。

23歳の時、母親から「家業の水産加工会社を手伝ってくれないか」と連絡がありました。兄弟の中で一番商売センスがあるのではないかと見込んで声をかけてくれたようです。しぶしぶ家業を手伝うことにした私の生活は一変しました。今まで繁華街で華やかな仕事をしていたのに、家業での仕事は工場でイカをさばいたり、魚市場に魚を買い付けに行ったり、ダンプカーでイカを運搬したり……。その落差から、あまり熱心に仕事に取り組んでいるとは言い難い状況でした。

そんな私でしたが、30歳の時にターニングポイントが訪れます。2011年、東日本大震災が起こりました。震災翌日、高台にある自宅から魚市場の様子を見に行こうと坂を下ると、とんでもない風景が広がっていました。何もかも泥まみれになったまちを見て、純粋に「俺は地域のために何ができるだろうか」、「これからはまちのために生きよう」と考えが変わったのです。海のすぐそばに立地している加工工場は被災しました。そんなタイミングで、会社の経営を任されたのです。

宮古は昔から水産業が盛んなまちで、「世界三大漁場」と言われる三陸沖で獲れたおいしい魚がたくさんとれます。そして、今後はとれた魚を加工して商品にする技術を高められればより可能性が広がるので、市としても加工に力を入れていこうとしていました。そういった背景を踏まえると、「あれ?俺ってまちの復興の”ど真ん中”にいるじゃん」と気がつき、「俺がやるしかない!」と火がついたんです。そこから私は、水産加工の技術を高め、宮古の水産加工品の価値を高めようと行動し始めたのです

解決に向けた取り組み 

私は現在、水産加工を行う共和水産株式会社を経営する一方、自らを「イカ王子」と名乗り、宮古の水産物のブランディングやPR活動を行っています。

共和水産では、岩手県沿岸地域や宮古市で獲れた新鮮な海産物を加工し、販売しています。例えば、都会に住んでいる人や魚がさばけない人、一人暮らしの人でも気軽に魚が食べられるように、トラウトサーモンのお刺身をカットした状態で冷凍し販売したり、イカのお刺身を小さなカップにいれたりして食べやすいように販売しています。インターネットでの販売も行っています。

時代の変化に合わせた商品開発は大切だと感じていて、例えば、都会で一人暮らしの方が増えていることに着目して商品を開発しています。

また、「イカ王子プロジェクト」では、エンターテインメント要素を持たせた情報発信活動を行っています。特に地元に普及したのは宮古市が本州一の水揚げ量を誇るマダラを使った冷凍食品の「タラフライ」。あくまで地元の人たちの日常の食卓に並ぶような商品であること、宮古でしか食べられないような売り出し方をすることを意識しました。「王子のぜいたく至福のタラフライ」と名付けて販売した結果、地元の飲食チェーン店でメニュー化されたり、全国放送のテレビで取り上げられたりと、大きな反響を得ることができました。そして2018年の販売開始から約4年、ある小学生がアンケート調査「宮古の好きな食べ物」でタラフライを2位に挙げてくれるという嬉しい出来事もありました。また、宮古市外の方々にもPRしており、イベントなどに出店して揚げたてのタラフライを提供しています。

私が飲食業から水産加工業の世界に来て最初に感じたことは「お客さんの声が聞こえない」ということでした。飲食業時代にお客さんからたくさん言われていた「美味しかったよ」「また来るね」というコミュニケーションがなく、寂しいなと思っていたんです。

だからこそ、食べるという幸せな時間に自社の商品を食べてくれていること、アンケート結果として消費者の声が聞けたことがとても嬉しいですし、宮古の食文化を自分たちの手で創りあげているような感覚を覚えました。確かなおいしさと、情報発信をし続ける努力を1年1年積み重ねてきたからこそ、この食文化を作ることができたと思っています。このように宮古の食文化に携われていることにやりがいを感じています。

宮古の魅力を広める

水産加工における今後の展望は、「岩手といったら共和水産」と言われるくらい、宮古にとどまらず県内に認知を拡大させていきたいです。自社の水産加工品で岩手県のみなさんの食卓をより豊かにしたいですね。

また、宮古市に住む大人として、宮古で埋もれている若者の才能を宮古で開花させてあげたいです。宮古にある魅力的な大人も企業も知らないまま、外の地域に出てしまうことがもったいないと感じています。だからこそ、「これがやりたいです」と言ってくれたら、私が持っている人脈や場所など、できる範囲で若者のやりたいことを後押ししたいと思っています。

最後に、「勇気が欲しい」という人はタラフライの販売イベントの際に会いに来てください!そして、イカ王子のアツい魂をぜひ体感してください!みなさんの活躍を応援しています。

写真提供=鈴木さん

◆おすすめの本
スペンサー・ジョンソン「チーズはどこへ消えた?」(扶桑社)
2匹のネズミと2人の小人のストーリー。状況の変化にいかに対応すべきかについて分かりやすく説かれています。ビジネスに興味がある人はぜひ読んでみてください。

(本の情報:国立国会図書館サーチ)

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この記事を書いた人

東日本大震災で被災し、高校・大学時代は「地方創生」「教育」分野の活動に参画。民間企業で東北の地方創生事業に携わったのち、2022年に岩手県宮古市にUターン。NPO職員の傍ら地元タウン誌等ライター活動を行う。これまで首長や起業家、地域のキーパーソン、地域の話題などを幅広く取材。

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